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地下水路とダンジョン・・・2

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 チャルドは、私の一言が不快だったのだろう。悩まずに敵と判断し即座に剣を抜く。

「貴様、今の発言はどういう事か!
 遊びは終わりだと?」

 私に剣を向け、苛立ちに顔を歪めたチャルドが怒鳴るようにして更に口を開く。

「どいつもこいつも、バカにしおって、ギルドマスターであり、領主や貴族する、逆らえない程の地位を手にしているのだぜ! ふざけるな!」

 在り来りすぎるお山の大将ね、動物園なら可愛げもあるけど、人間のボス猿は、本当に醜いわ。

「黙りなさいよ……不愉快だし、聞いてて単調なのよ、三流役者でももう少し素晴らしくやるわよ?」

 向けられた刃に軽く左手を伸ばし、刃の先に人差し指を当てる。
 斬撃に対する無効が発動すると同時に、刃が軽く削れ、銀色の粉となり、落下していく。
 目の前で切先が、砕け塵になる光景に、チャルドだけでなく、チャルドの部下達も、一歩後ろに退く。

「さて、キング、に、行動開始を伝えて、チャルドは生け捕りね」

 その言葉にチャルドの部下達は、慌てて武器を構える。しかし背後から、突然、影に身を隠していたゴブリン軍団が姿を現し襲いかかる。

 正面からは、鎧を着たままに、擬人化を解除したゴブリンの軍勢が一斉に襲い掛かる。

 数の暴力は、本来はダメなんだけどさ、悪には数の暴力が正義の鉄槌、違うか、ダークヒーロー? みたいになるのよね。

 チャルドの部下には可哀想だけど、目撃者とか、本当にいらないから、正直、助ける気はない。

 悲鳴すらあげられない絶望を堪能して、死んでいく姿は、不思議な物ね。

 一人一人に数体のゴブリンが襲い掛かり、遊ぶ事無く、首を吹き飛ばす。

 まさに悪夢のような光景の中で、中心に立つ私と、震えるチャルド。

 数分もせずに、チャルドの部下達が、屍となり、チャルド本人は、その場に崩れ落ちる。

 クイーンの、化けたエルドがチャルドの目の前に立ちニヤリと笑みを浮かべる。

 その表情を目の当たりにして、チャルドが怒りと悲しみに似た表情でエルドに向けて声をあげる。

「エルドォォッ! 悪魔に魂を売り渡したか、ワシは、ワシはお前を……」

 チャルドがエルドを見つめる最中、クイーンがエルドの顔でニヤリと再度笑い、姿を露にする。

「貴様は誰だ……エルドは、エルドはどうした!」

 慌てる声に、クイーンは柔らかな笑みを浮かべた後に、冷たい表情を浮かべると冷たく言い放つ。

「貴方の血筋は本当に、ですよ」

 その言葉は、全てを理解させる十分な一言であり、トドメを刺されたように、チャルドはその場で絶望し、両手、両膝をつくようにして崩れる。

 私は、ダンジョンの存在を隠す為、ジャバとガマ爺に頼み、岩魔法と土魔法を合わせて、地下水路に巨大な壁を作り出す。

「あとで、調査はするけど、他の連中に見つかるとダルいものね」

 その状態から、更にトンネルに続く道を曲がり角の部分まで破壊する。

 最初から、ダンジョンへの道など存在しなかったのだと、言わんばかりに水路の道は無くなり、私は満足する。

 しかし、ここからは、芝居をしないとならないのだ。

 地下水路でチャルドとエルドが死んだとなれば、否が応でも調査が開始される。
 そうなれば、更に数日、ダンジョンの調査が伸びることになる。

 ケストア王国が仮にもし、増援だけでなく、調査兵団などを作り、ガレルの町に派遣すれば厄介極まりない、隠蔽していてもダンジョンの存在がバレる恐れがある、それは避けたい。

 そうならない為の芝居だ。

 あまり時間を掛ければ、イオルと仲間達が、水路に現れる可能性がある、そうなる前に地上に向かう。

 チャルドには生きたまま、綺麗な花になってもらうわ。

 ホーネットの操る寄生虫でチャルドを操り人形にすると、クイーンを再度、エルドに変身させる。

 私は操り人形にしたチャルドの影に身を潜ませる。
 その足で水路から地上へと向かい無事に外へと出る。

 出口として、選んだのはスラムから離れた中心に近い水路であり、スラムから注目を逸らす為だ。

 そんな私達の前に。イオルと仲間達が水路に入ろうとしている最中であった。

 エルドに化けていたクイーンが、イオル達に対して、声をかける。

「貴様達、何をしているか?」

 クイーンの言葉にイオルが返答をする。

「オレ達は冒険者ギルドの【狼の牙】と言います」

「我は、ケストア王国騎士団、中隊長エルドである。罪人である冒険者ギルド、ギルドマスターであるチャルドを捕え、これより、取り調べを行う為に護送する最中である!」

 イオルは、何も言わずに、道をあける。

 私はこの瞬間、役者が揃ったと確信し、行動を起こす。

 操り人形となったチャルドに私は身体強化を発動して、ホーネットに高速で逃亡させるように指示を出す。

 更にクイーンと兵士に成りすましたゴブリン達にそれを追わせる。

 皆が注目する最中、水路から近い広場まで移動させると、チャルドクイーンエルドが、わざと戦闘を開始する。

 チャルドと激しく戦闘を行い、更に注目が、集まるのを確認してから、最後の仕上げを開始する。

 チャルドの体内に爆炎魔法を作り出し、更にエルドや兵士に化けたクイーンとゴブリン達に最後の一撃を思わせる攻撃をさせる。

 攻撃を受けると急激に輝きだし、内側から吹き飛ぶチャルド、それと同時に皆をダンジョンに戻し、私は兵士の死体を"無限収納"から、即座にばら撒き、私自身も、"影移動"で別の影に移動する。

 一瞬の出来ごとであり、誰も気づくことは出来ないだろう。

 凄まじい爆発と炎がガレルの町を駆け巡り、広場周辺を焼きながら吹き飛ばしていく。

 一瞬で炎の海となり、チャルドとエルド、更に部下達の存在は見ていたであろう生き残りにより、確実な証言になる。

 チャルドの死も、エルドの死も、兵士達の死も、全て問題ないものになったと言える。

  私は、"影移動"により、離れた建物の屋根に姿を現すと、静かにその光景を見つめる。

 そして、ホーネット達に念話を送る。

『みんな、お疲れ様。私達の家に帰るわよ』

 シンプルな念話を終わらせると、再度、燃え上がるガレルの町を見つめる。

「ガレルの町の大掃除、私ってば、働き者だなぁ、これで少しは、まともな町になればいいけどね」


 独り言を言いながら、私はガレルの町からダンジョンへと戻ることにする。
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