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絶望と希望・・・1

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 セイナが語った話、それはとても残念な内容だった。

 奴隷にされた多くの者は子供であり、体の弱い者や、普段から食事もままならない者も多くいたそうだ。
 口減らしや、金の為と、理由は様々だが、どんな理由であっても、相手からすれば、関係ない。
 態度や行いに変化はなかった。

 マリアは、余り身体が強い方ではなかった、それでも、必死に明るく振る舞い、村に居た頃から父であるガストに心配や迷惑をかけまいと生きてきた。

 そんなマリアは、奴隷とされて村を出てから直ぐに、風邪の病状が悪化した。
 慣れない環境と想像以上の不衛生な生活がストレスとなり最悪な形に繋がった結果だったのだろう。

 病状が明らかになると、奴隷商の男は、マリアを木に縛り付け、逃げられないようにする。
 そして、セイナ達に逃げたらどうなるかを説明すると、ナイフを取り出し、投げ放つ。

 一撃で絶命させず、ナイフがマリアの体を引き裂く度に、マリアは悲鳴をあげる。

 二時間は、続けられたであろう地獄のような時間、マリアが絶命すると、奴隷商は笑みを浮かべてセイナ達にマリアの顔を見せつける。

 マリアは恐怖を植え付ける為の道具として、使われたのだ。

 私は怒りが込み上げる。
 人間はなんて身勝手なのか、なんて愚かなのか、救えない者が多すぎる。

「セイナ、今から案内を頼めるかしら、私のそばにいれば、ダンジョンの外でも変わらずに行動できるから」

「あ、はい、分かりました」

「クイーン、居るんでしょ? ホーネットと、ガストを呼んできて」

 気配を消していたクイーンが姿を現す。

「はい、主様。ただいま呼んで参ります」

 クイーンだけは、普段から私の側にずっといる。私がダンジョンに置き去りにされたあの日から変わらない。

 クイーンが、ガストとホーネットを連れて、私の前にやってくる。

 私が二人を呼び出した事により、他のメンバーも気配を消して集まっていることに私は気づく。

「盗み聞きするくらいなら、姿見せなさいよ。まったく?」

 私の言葉に、最初に姿を現したのはラクネであり、キング、ジャバ、ガマ爺と続く。

 全員揃ったのを確認すると、私はガストに全てを伝える。

 ガストの絶望は計り知れない。

「ぬあああ! マリアァァァ……」

「ガスト、アナタに選択権をあげる。マリアを連れて此処に戻るか、埋葬するか選びなさい」

「……分かりました、パンドラ様、直ぐに、向かわせて頂く無礼をお許しください」

「え、きゃあああ」

 ガストは、セイナを脇に抱えるとその場をから凄まじいスピードでダンジョンと繋がった森の中に消えていく。

「ホーネット、監視をよろしく……ガストがセイナに何もしないと思うけど、二人は生きて回収よ。いいわね?」

「はいはい、ご主人様の為に頑張りま~す」

 ホーネットが二人の後を追い、その場から姿をけす。

 既に死んでいる娘との再会、綺麗な姿なら、救いもあっただろうに、傷つけられ、弄ばれて捨てられた……そんな最愛の娘の姿と向き合わないとならない、ガストは辛いわよね。

 ガストの事は気になるが、私は直ぐに次の行動に移る。

 ガレルでは、冒険者ギルドが崩壊して、大変な騒ぎになっているだろう。
 そのせいで闇奴隷市場にいた連中に逃げ出した者がいる。

 まぁ、貴族連中は、確りと逃げてるし、犯罪者ギルドも同様だわ。

 犯罪者ギルドはゆっくり探せばいいとして、貴族連中は許さないわ。

 貴族として、責任はきっちり取らせないとよね。

 ギルド本部で偶然助けた、牢屋の奴隷商にも話を聞かないと、逃げてるだろうから、急がないとだわ。

「クイーン、牢屋にいた人間の場所を探して、奴隷商の連中に話があるの。つまり、生け捕りよ、いいわね」

「御意、では、行ってまいります」

「あ、クイーン。ラクネも連れて来なさい。アナタ達、二人の方が仕事が早いもの」

「よしゃ! 御館様、有り難き幸せ! 行ってまいります!」

 私は接近の三人に指示を出すと、私自身もダンジョンの外に移動する。

 外は真っ暗な闇の世界に無数の空の輝きが大地を照らし、普通の光景だと言うのに、美しいとすら、感じてしまう世界が広がっている。

 ただ輝く月を見つめると、私は森の中で一番高い樹木の枝を駆け登り、月を再度、見上げる

 私は、本当になんなんだ……人の心はある筈なのに、人間に対する感情が薄れていく。
 人の死を感じなくなる自分が怖い……

 私は本当に化け物と呼ばれる存在になってしまったのだと、理解してる、理解はしてるが……人間らしさか、呆気ないな……

 自問自答、自分自身が何をしたいのか、今の自分がしている事が正しいのか、間違っているのか、それすら分からなくなっている自分に苛立ちを感じている。

 そんな私の元に、ジャバとキングがやってくる。

「姫、一人で出歩くのは、軽率です。幾ら姫が強くとも、油断は身を滅ぼしますぞ」

「ジャバの言う通り、オレ達の誰かを連れてかないのは、軽率だ。自覚がたりないぜ!」

 私を迎えにきた二人、変に人間らしい時があって、本当にお節介で、でも凄く嬉しいわね。

 私は地上に降りると、二人と共に、ダンジョンへと戻る為歩き出す。

  すると、正面から、激しい馬の足音が複数聴こえてくる。

 私達は、念の為、擬人化を発動して様子を窺う。

 そして、それは姿を現す。

 以前にすれ違った見覚えのある顔、そうレガルの町の冒険者であるイオルと【狼の牙】のパーティーであった。

 互いに見覚えのある顔に驚くとイオルは私達にグッと鋭い視線を向け、質問を口にする。

「前にあったな、こんな場所で野宿か?」

「ええ、途中で色々とモンスターの生態系を調べていたら、時間が過ぎてしまったのよ」

「う? モンスター? 魔物の事か、お前さん、そんな小さいのに学者なのか?」

「私は見た目より長生きしてるのよ。ふふ、色々と楽しく調べさせてもらてるわ」

「そうか、なら、この辺りにかなり強力な人か魔物が潜んでる可能性がある。出来るならガレルの町へ、内側なら安全だ。
 オレ達も今からクエストの調査報告に戻る最中だ、一緒に行かないか?」

「遠慮するわ。それに私達は歩きなの、馬のアナタ達について行けないし、馬もかなり無理してるように見えるわよ?」

「確かに、すまないな、もしガレルに来たら、冒険者ギルドを訪ねてくれ、受付に バド って奴がいるから、イオルの紹介だと言ってくれ。それじゃ、また」

 話が終わると、イオルと【狼の牙】のメンバーが馬を飛ばして、ガレルの町の方角へと駆けて行く。

 イオル達が見えなくなると、私は小さく呟く。

「本部にいたバドさんが、生きてるといいわね……まぁ、知らないけどさ」
 

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