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奴隷市場・・・2

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 情報がこの場にないなら、出向けばいいだけだ。単純に罠を仕掛ける以外の方法を取ればいいだけの話なのだから。

 その前にやることがあるわ、彼等のこの行為は日常なのだから、確りと報いと対価を払わせないとよね。

 私は数人の男を指差す。

「ホーネット。あの男達以外のアナタが操る虫達に戻るように伝えて、ただし、食べ残しは無しよ」

「はいはい~なら、あの数人以外は、頭をスカスカにしちゃいます~アハハ」

 ホーネットの寄生虫は、相手の脳に寄生して、情報を読み取ることに特化している、しかし、本来の性質は脳を徐々に喰らい、相手を死に至らしめる恐ろしい存在なのだ。

 次々に倒れる男達、そして、ホーネットの元に舞い戻る真っ赤に染まった昆虫達がホーネットの体内で眠りについていく。

「ご主人様~終わりだよ……虫達みんなお腹いっぱい食べたみたい~いい子だよね。へへっ」

 無邪気に笑みを浮かべるホーネット。その頭を私は優しく撫でる。

 その後、クイーンとラクネが潰した男達だったモノを踏み締めながら、生かして置いた男達に次の目的地へと足を運び。

 次の目的地は、スラムの支配者と呼ばれている男の屋敷だ。

 スラムの支配者、名前はベラムだそうだ。

 スラムには似つかわしくない立派な建物の前で男達が立ち止まる。

 巨大な門があり、威圧感のあるガーゴイルの石像とオーガの石像が数体置かれた印象的な作りの中庭、その先に屋敷があり、見張りであろう数名の人影が見て取れる。

「普通に入れるか確かめて見ましょうか」

 私が歩き出そうとすると、ラクネが私の前に出る。

「御館様、先ずは我が試します。いきなり御館様が動く事は御座いません」

「わかったわ、なら派手に吹き飛ばしなさい!」

「御意!」

 嬉しそうにラクネが笑みを浮かべると、次の瞬間には修羅を思わせる表情に変わり、ニヤリと笑みを浮かべていた。

ラクネの前に堂々と構える巨大の門には、強化防壁魔法が付与されている。

「念の為、"無音魔法サイレント"を発動しとくわ、外に音は漏れないから、遠慮なくやりなさい」

「有難き幸せ、我、ラクネは幸せ者です!」

 単純な力で考えるならば、クイーンやホーネット、キングですら、撃ち破るのに多少時間が掛かるだろう。

 ラクネは、全身に力を込めて、一気に魔力を解放する。その直後、ラクネ身体に変化が現れる。背中と脇腹から、四本の腕を出現させる。

「はぁッ! イクぜッ! 我、御館様に使える最強にして最凶の拳なり!」

 合計6本の腕から放たれる拳、一つ一つの拳が魔力に包まれ、門へと力任せに叩きたきつけられる。

 全ての侵入を許さんとする強固な門が地面を抉るようにして内側に吹き飛ばされる。
 激しい土煙が上がり、次々と騒ぎを聞きつけた屋敷の者達が集まっていく。

「何だこりゃ、なんで門が!」

「それより、正面だ、人影だ。アイツだ! ふざけやがって!」

「ち、よく見えねぇが、いくぞ!」

 数人の男達が得物を手に、ラクネへと向かっていく。

 正面から数人の男が剣をラクネへと振り下ろす。
 避けること無くラクネは剣の刃をその身にわざと受けて見せる。

 ガギンッ! と、言う音に男達の目が丸くなる。
 普通にスラムで生きていたら経験する事のない感覚だろう、剣を切りつけた無抵抗の相手の皮膚に弾かれたのだから。

「くそっ、どけッ! 剣がダメなんだろッなら潰れろや!」

 男達の背後から戦鎚を構えた巨漢がラクネの頭部に目掛けて、戦鎚を振り下ろす。

「力比べか? 我は力には自信があるのでな……はぁッ! アハハ、どうした! 押し負けてるぞ!」

 振り下ろされた戦鎚を片手1本で軽々と受け止めるとラクネがそれを押し返す。
 次第に巨漢の顔が真っ赤になり、額から汗が滲む、しかし、ラクネを潰す為に振り下ろされた戦鎚はびくともしない。

「ググッ、くそ……なんで、動かねぇ!」

 この出来事は土煙が舞い上がっていた一瞬の出来事であり、時間にして、二分程度のやり取りである。

 土煙が静まり、ラクネの姿を見た瞬間、男達は後ろに一歩退く。

「腕が、ば、化け物だ」

「魔物だ、魔物が攻めてきたんだァァァ」

 男達が狼狽え出す、ラクネはその姿に冷めたように視線を向ける。

「掛かって来ないなら、此方から行かせて貰う。悪いが力比べは終わりじゃ、悪いな」

 ラクネは、グッと力を込めると、巨漢の顔面に戦鎚がめり込み、力尽きる。 

 ラクネは、巨漢が両手で扱っていた戦鎚を軽々と持ち上げると、男達に向けて、投げ放つ。

 突然の事に、反応が遅れた者からその場で散っていく。
 スラムで幅を利かせていた者達が経験した事のない恐怖、本来ならば、有り得ない現実は簡単にラクネにより現実にされたのである。

 ラクネは、時間の無駄だと判断すると、次々に、目に入る男達の頭部を掴み力任せに掴み潰しながら、屋敷へと向かっていく。

 そんな最中、屋敷の方角から、高出力魔法がラクネ目掛けて撃ち放たれる。

「あぁッ! ぢっ! 」

 ラクネが2本の腕を伸ばし掌で高出力魔法を受け止める。

あちいじゃないか、少し期待してしまうじゃないか」

 更に続けて三発の高出力魔法が三方向から放たれると、ラクネは全ての腕でそれを受け止め、地面に倒れていた巨大の門を力任せに、魔法が放たれた方向に投げつける。

 相手側から、慌てて投げつけられた門に向けて魔法が放たれるが、防壁魔法が付与されている門に対して、焦って放たれた魔法は無意味であった。
 屋敷の入口が門により破壊され、魔法を放っていた魔導士達が爆風に吹き飛ばされる。

「うわぁぁぁ!」

 吹き飛ばさた魔導士達は絶望する。ほぼ無傷で歩いて近づいてくるラクネの姿は、正しく絶望を運ぶ存在に見えた事だろう。
 少なくとも、一般の冒険者であれば、即死する程の威力を込めた最高峰の魔法を数発くらわせた事実が無意味だと明らかになったのだから。

 ラクネは魔導士達を悩まず踏み潰すと、私に頭を下げて見せる。

 数分で数十人の護衛を葬り、私達はスラムの支配者、ベラムの屋敷の内部に足を踏み入れる。

 屋敷の入口はラクネの投げた門により、完全に破壊されており、屋敷の中にも、土汚れが目立つ。

 そんな私達に対して、一人のメイドが近づいてくると、軽く会釈をする。

「屋敷の主人が応接間にて御待ちです、御案内致します。此方へどうぞ」

  メイドはそう語ると歩みを進める。

「面白いわね。行くわよ」

 私の後ろから、クイーン、ラクネ、ホーネットが続く。

 案内された部屋には、四人掛けのソファーに腰掛ける四十代くらいの男が一人、その背後に二人組の冒険者らしき護衛の姿も確認できる。

「よく来たな、オレが主のベラムだ。まぁいきなりの訪問に、門の破壊と、よくもまあ、派手にやってくれたもんだ。驚いたぞ」

 座ったまま庭を見つめる。

「しかも屍の山を簡単に作りやがって、後始末が大変だなぁ、こいつぁ、で、本題だ! オレになんの用だ? 命が狙いなら、今、オレは生きてないだろうしな」

 私は、クスッと笑ってしまった。

「堂々としてる理由は、そう言う事なのね、私達は確かにアナタの命に興味は無いわ。欲しいのはアナタの情報よ」

 そう語り、ベラムの頭を指さしてから、自分の頭を指で数回ポンポンとつついてみせる。

 ベラムの顔が、軽く引き攣る。

「勘がいいのね、私が欲しいのは、頭の中身情報なのよね……」

 私は部屋の外に待機させていた、スラムから一緒に連れて来た男達を室内に呼ぶ。

「ホーネット、男達もこれももう要らないわ、処分して」

 擬人化したままの姿のホーネットが無邪気な笑顔を浮かべて踊るように男達の前に立つ。

虫さん達みんな、戻りなさ~い、遊びは終わりだよ~」

 無邪気な笑みのまま、虫達を操るホーネットの姿と、その場で倒れ息絶える男達の姿にベラムは苦悩を表情に滲ませていた。

「本当に欲しい情報をくれたら、こんな可哀想な姿にならないわ……アナタの頭の中には、何が入ってるの、で、私に聞かせてよ、ふふ」

「何が知りたい? 知りたい情報について聞かせてくれ」

「闇奴隷市場……開催場所、時間、関係者、全て、知りたいの」

「……わかった、話そう。どちらにしても、話さないなんて選択は無駄だろうからな」

 闇奴隷市場は、2日後に冒険者ギルド管理のギルド旧舘で行われる。時間は昼間であり、旧舘の地下にある地下独房で直接、競売が開始される。

 関係者は、冒険者ギルド、ギルドマスター、上級幹部。
 客は貴族や犯罪者ギルド、奴隷を使う冒険者等になる。

 参加費は、金貨二枚(2万リコ)
 奴隷を買う場合はその場で即払いが決まりとなっている。
 武器の持ち込みは禁止されており、冒険者ギルドのギルド員達が警備にあたっている。

 ベラムは、私の質問に全て答えていく。
 流石はスラムの支配者だと感じる。他の連中とは違い、必要な情報を確りと持っていた。

「2日後まで、どう過ごすつもりなんだ?」

「私達の心配かしら? アナタ面白いわね」

「心配などしないさ、強さを目の当たりにして、心配など無礼だからな。2日後の朝に此処に来てくれれば、オレが闇奴隷市場まで、案内しよう」

「アナタが?」

「あぁ、これでも、裏では顔が効くからな、問題が起これば、闇奴隷市場は開催を見送られるだろう、目的は奴隷の誰かなんだろう? 違うかね?」

「アンタ、やっぱり面白いわね。わかったわ。2日後に会いましょう……私、裏切りには厳しいから、約束は破らないでね」

「わかってるさ、オレも命は大切でな、天秤に掛けるような真似はしないさ」

 私達はベラムの屋敷を後にする。2日後の闇奴隷市場、絶対にガストの娘を見つけないとね。
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