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新たな力・・・2

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 夜通しのお祭り騒ぎが終わると、やはりというか、予想した通り、ガマ爺の姿が変化していた。

 私の頭に頑張れば乗れる位のサッカーボール程のサイズに変化していたのだ。

 立派な髭があり、蛙仙人? ガマ仙人? と、言いたくなる見た目だ。

「あらま、可愛くなったわね?」

 私がまじまじと見つめていると、ガマ爺が目を覚ました。

「ふぁ、なんじゃい、チビ姫? 急にデカあなりよって? ううん?」

 自分のサイズが小さくなった事に気づくと、ガマ爺は驚き、全身を湖で確認していく。

「おお、まさか、巨大化が解除されるとは、ありがてぇ。しかもスキルとして"巨大化"が追加とは、生涯一度の奥の手が、本当に驚くのぉ」

 「なんの話しよ?」

 私は普通に問いかける。分からない事ばかりでモヤモヤしており、目の前に答えがあるのに聞くのを我慢する事など出来なかったからだ。

「チビ姫、いや、パンドラ殿、感謝致します。儂は本来の姿を取り戻せた」

「チビ姫でいいわよ。それより、話して、このダンジョンについて知りたい事ばかりなのよ」

 ガマ爺は、私に、このダンジョンについて語り出した。

 本来のダンジョン名は【毒王の庭・ポイズンガーデン】

 毒王は、かつて、世界を支配しようとした魔王の一人であり、異世界から召喚された勇者により滅ぼされた存在だ。


 勇者と勇者を召喚した王国は、その力を永遠に自身の物にする為、世界を手に入れようと考える。
 魔王に成り代わり、世界支配に名乗りを上げたのだ。

 その結果は世界戦争となる。複数の魔王が存在していたからこそ、纏まっていた世界で魔王が、滅ぼされたからこそ起きた悲劇だった。

 どの世界にも存在したが、力を振り翳す対象が居なくなれば、他のモノを叩く。
 それが弱者ならば、力ある者ならば、別の快感すら生まれていたのかもしれない。

 そんな狂った世界で、魔王の忘れ形見とも言われるダンジョンが力ある者達の次なる標的とされた。

 ダンジョン内部には、宝箱や、金品、更にはマジックアイテムまで生まれる。
 魔王級の遺したダンジョンとなれば、100年単位で復活する財宝すら存在するのだ。

 この忘れられたダンジョンと呼ばれている【毒王の庭・ポイズンガーデン】も、そんな偉大なダンジョンの一つであった。

 そこまで聞いて、疑問が浮かんだ。

「ねぇ? ならなんで、忘れられちゃうのよ?」

「それを今から話しちゃるから、待ちんしゃい、せっかちはよくねぇぞ」

 ダンジョン攻略の為に数万の戦士と魔導師、更には各国の勇者まで多くの者が挑んでいく。

 本来ならば、魔王を失ったダンジョンは弱体化しており、これ程の部隊を必要としない。
 通常ならば、しかし、毒の魔王は勇者と戦う以前より、不治の病を患っており、自らの死期に気づくと、その力を、自分が愛した庭であるダンジョンに捧げると言う前代未聞の行為を行っていたのであった。

 それはまさに、勇者や多くの戦士、魔導師の命を刈り取る事になる。

 第九階層まで存在していた【毒王の庭・ポイズンガーデン】は、勇者の墓場、無限の牢獄、屍人の楽園などと、多くの異名を持つこととなっていた。

 第九階層その物は、宝物庫となっており、祝福の為に作られた部屋と言われていた。    

 戦闘などは行われないうえに、地上や向いたいフロアへと好きな階層へ飛べるワープゲートが設置されていた。

 勇者達は、通常のダンジョンと考えて内部に侵入するが、三層までがやっと程度の実力であり、魔王を倒した勇者達ですら、魔王を討伐した為に神からの加護を失っていたのだ。

 魔王が死ぬ前に力を与えたダンジョンに対して、余りに無力と言えるお粗末な戦力に成り果てていたのだ。

 そんな勇者達は、数でダンジョンを制圧すると、魔導師達を総動員して、ワープゲートを強制的に発動させ、最上階に向かおうと考えたのだ。

 その結果はワープゲートが八層に繋がり、階層主の逆鱗に触れる事となる。

 勇者達は必死に逃げるも、次々に命を失っていく。

 数十名の勇者と魔導師達が三層へとワープゲートを抜け、逃げ出す結果となる。
 それだけで終われば、ダンジョンの封鎖などという結果には成らなかっただろう。

 三層に八層のヌシが、ワープゲートを強制的にこじ開け、乗り込んで来たからだ。

 勇者達は、逃げられないと悟り、八層のヌシと戦うも、圧倒的な力を前に絶望する。

 戦士や騎士が外部から合流し、八層ヌシを足止めを行い、100を超える魔導師達が土魔法と岩魔法を使い岩の壁を作り上げる。

 巨大な岩肌が谷を作り出し、その谷の底に八層ヌシを足止めする、そこから次々に魔導師達が主に目掛けて谷の上から大出力魔法を連射する。

「化け物を逃がすな! トドメを刺せば、宝はオレ達の物だッ! ありったけの魔力をぶち込めッ!」

 勇者とは思えぬ、欲に塗れた言葉、八層ヌシは二度と元の姿に戻れぬ事を覚悟する。

「それが、ぬしらん、答えなら、バケモンになったるけ、逃げられるなんて勘違いするんやないぞ……クソガキどもがァァァッ!」

 八層ヌシは、その体を、巨大化させ、谷の上から打ち出される全ての魔法をモノとせず、谷を見下ろす程に巨大化する。
 長い舌は、鋼の鞭となり、水掻きのある手は敵を逃さぬ鋼鉄の盾であり、巨大な力の塊となる。

 勇者が青ざめた表情を浮かべ、蹂躙される仲間達を前に動きを止める。

 抵抗すら無駄だと悟らされる程の強者を前に、人は身動きなど取れないのだと、魔王すら討ち取った勇者が震える。

 全ての後悔は遅すぎたのだ、勇者に向けて、握られた岩の塊よりも巨大な拳が振り降ろされる。

「往生せいやッ! 思い上がった人間ガァァッ!」

 その瞬間、身体強化を使い勇者が逃げ出す。 それは八層ヌシの予想を裏切らない行動であった。

 逃げた先に舌を操り、脇腹を高速で叩きつける。

「ガッ、ああ、ァァァ……」

「哀れ、ほんに哀れやのぅ、終わりじゃい!」

 しかし、八層ヌシの体が突如、地面に沈み始める。

「なんじゃい!」

「あはは、バカが……わざわざ、囮になってやったんだよ……お前の負けだバケモンが!」

 魔導師達が、ありったけの魔力を使い、八層ヌシを地面に封じ込める為に、魔法を発動していたのだ。

 長い時間をかけて、術を発動させた為、あっという間に八層ヌシの下半身が地中に飲み込まれていく。

「こんな、子供騙しが、勇者の戦い方か! 救えん、ほんに救えんぞッ!」

「吠えろバケモンが! 最後に生きてた奴が勝つ、当たり前なんだよ、バカがッ!」

 八層ヌシは理解したと、下を向くと、自身の体を大きく膨らませ、巨大な声をあげる。

 魔導師達の耳と目から大量の出血が起こり、真上にいた勇者も同様に倒れ込み、視界を真っ赤に染める。

 声による振動が、生物の限界を超えた結果だった。
 勇者達は、本来、声だけで倒される程度の存在であり、それを分かっていた八層ヌシは、あくまでも勇者達を戦士として葬ろうと考えていた。 その為、今回の戦闘は行われていた。

 戦う価値がないと判断した結果は呆気ないものであり、勝敗は呆気なくついたのだった。

 八層ヌシの封印はそのまま発動し続け、地中に沈んでいく。

 このワープゲートを使った作戦は失敗に終わり、階層ヌシが別の階層に移動した事により、ダンジョン内部のルールに変化が生まれる。

 誰も予想しなかった最悪、上層のモンスター達が次々に、下位の階層に移動を開始したのだ。

 それはスタンピードと変わらない危険な状態であった。

 再度、数百人の魔導師が世界から集められ、数万の兵士が、ダンジョンの沈静化の為に導入される結果となり、三層は封印されたヌシの力を吸い取る為に闇魔法による呪いが充満するエリアへと変わる。

 三層から上の階層に関しては、異空間魔法が使われ、異空間で包まれた球体を結晶化させた物が世界中の地に封印される結果となった。

 そして、三層までとなった【毒王の庭・ポイズンガーデン】は、国の監視と管理のもとで、封鎖される事となったのだ。

 三層に存在する黒い砂漠こそ、呪いを強く吸収した砂であり、八層ヌシとは、ガマ爺の事であった。

 しかし、全ての止まっていた流れが、今まさに動き出したのである。
 
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