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第三章 小雪、戦う
古龍、敗れたり!
しおりを挟む本当にこんなことがあるモノなのかと、目の前の光景、いや、生物がこちらへ歩み寄る今、私は考えていた。
大きなその生物、エンシェントドラゴンは、一歩、また一歩とこちらへ近くとともに、その歩みに地鳴りを伴わせて私を震えさせる。
その震えは、振動によるものか、恐れによるものかは、今は定かでは無い。
目の前の巨体がその巨躯を必殺の間合いで止めると、やけに強い風が私達の間を抜ける。
緊張の、刹那の時間。
対人戦では一切臆する事など無い私も、流石に巨大生物との戦いの経験は無いため、その凄まじい威圧感と唸り声に、武者振るいではない震えが身体を覆うのを感じた。
一度ゆっくり目を閉じ、鼻から深呼吸をする。
そしてーー
「参る!」
私は巨体、エンシェントドラゴンへ刀を携え駆け出した。
エンシェントドラゴンは天を震わせるかの如く強烈な咆哮をあげると、私もそれに合わせ声を上げた。
エンシェントドラゴンは私に向け、強靱な左腕の爪を横に薙ぎいて来たので、私は次の動作を予測し、あえて後ろに飛び退く。
すると、思った通りにその爪が通り過ぎるとほぼ同時に、鋼の鞭、というよりもタンカーの錨のような尾が飛びのいた私の鼻元ギリギリを通り抜けていった。
冷や汗を垂らしながら、思う。
(こんなの、どの一撃も必殺じゃない!)
恐怖で思考が固まりそうであったので、冷静さを取り戻すべく、一度私はさらに大きく間合いをあける。
さて、どうしたものかーー
などと、エンシェントドラゴンは考えさせてくれやしない。
「え、ちょっと」
エンシェントドラゴンはその巨躯を少しだけ地面を両足で蹴って浮かせると、そのままあびせ蹴りのごとく身体を翻し、強靭な尾をこちらへ振るってきた為、情けないくらいの横っ飛びで緊急回避した。
「えええぇぇぇ!?」
どういうこと!?と私は焦る。
そんな私に対し、エンシェントドラゴンは待ってくれやしない。
エンシェントドラゴンはその着地に合わせ、足払いの如く尾をこちらへ振るうと、私は着地に合わせてさらに上に跳ねてギリギリそれを回避。
さらにエンシェントドラゴンはソレを狙っていたのか、私に巨大な掌を打ち付けて来たため、ついに私はその一撃を受けて大きく後方へ吹き飛ばされてしまう。
あんな一撃を受ければ、10トントラックに時速80キロ以上の速度で受けるダメージと同じくらいだろう。
そんなもの生身に受ければ身体の形など変形してしまうと思ったが、そこはゲームの世界。
HPゲージとやらが半分ほど減ったが、痛みを感じる事無く私は立ち上がることができた。
ここがゲームの世界で良かったと、私は心から安堵しながら、冷静に目の前の敵を見る。
そこで、気付いた。
このエンシェントドラゴンはーー
(なんらかの拳法を使ってる……?)
あからさまに型をとっているエンシェントドラゴンを見て、疑念は確信に変わり、私は恐怖の震えから武者振るいにその性質を変える。
相手が人の技を使うと言うのであれば、
(勝機……あり!)
口角を釣り上げ、私は再度深呼吸をした。
そして。
「古龍、敗れたり!」
言葉など伝わらないだろうし、挑発にもならないだろうが、かの剣豪を真似て高らかに宣言した。
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