16 / 23
第三章 小雪、戦う
到着
しおりを挟む塔の中に入ってからしばらくして、この螺旋階段はどこまで続くのかしらと思わずそう愚痴をこぼしたくなるほど長く、そしてイライラとさせる。
吹き抜けから上を見ると、あともう少しの所まで来ているのはわかっているが、なにぶん道が悪い。
壁が剥がれ落ち、階段は角度が悪く、おまけに苔が生えている。
一つ一つの段差が普通の階段の踊場ほど広いので滑り落ちることはなけれども、余計に疲れてしまうのは確かだ。
外が見える所に差し掛かった所で、何かの声が耳に入り、すぐに気付く。ミリィちゃんの身に何かあったのだと。
これはマズイと、老体に鞭を入れるように全速力で走る。
すると、ギャアギャアと鳴き声を上げながら、プテラノドンのような怪鳥が5羽ほど目の前の壁を壊してやって来たので、後ろへ飛び退いて破片を回避。こんな時に現れた怪鳥の群れに激しい怒りを覚えた。
「うっ……とおしい!邪魔しないで!」
怒りのまま目の前の怪鳥を切り抜けようとするが、それらの攻撃は全て空を切る。
ここでふと思い出す。
(何故忘れてたのかしら……私、弓が使えるじゃない!)
納刀の動作なしに刀を腰に当てると、ひゅんと音を立てて刀が鞘に収まったのを確認してから、VRフォンを触る。
(武器一覧……武器一覧……あった!これで変えられるかしら?)
武器一覧にて弓を選択すると、腰の刀が光の粒になって消え、代わりに矢筒と弓矢が背中に現れた。
この現状だと腰に出て欲しかったけど、そこは私の現状把握能力の低さが仇となったのだ、言っていても仕方ない。
背中の矢筒を腰の横あたりに動かすと、スッとその位置に留まってくれたので、中から矢を一本抜き出し、それを構えた弓の弦へあてがい、
「みんな邪魔よ!眠りなさい!」
矢を射出した。
矢は激しい風切り音を鳴らしたかと思えば、その鋭い鏃を怪鳥に突き立てる。
被弾した怪鳥は悲鳴のような声を上げてから、地面に土埃を上げながら落ち、その様子を見た残りの四体はぎゃあぎゃあと叫びながら外へ飛び出ていったので、一息ついてから私はまた走り出した。
しばらく階段を登って行くと、おそらく最上階と思われる扉の前に出た。
扉は鉄でつくられているようだったが、その重厚な、集会場の運営室の扉よりもさらに大きな扉に近付き、それを開けずに、VRフォンでまた武器を刀に変え
「はぁぁ!ざ、"斬鉄"!」
秘技を叫びながら扉へ刃を振り下ろすと、ガシャン!と凄まじい音をたて、扉が崩れ落ちた。
ゲームとはいえ、やはり必殺技を叫びながら行動するのは恥ずかしい。
「ミ、ミリィちゃん!大丈夫!?」
若干顔を赤らめながらミリィちゃんを探す。
「こ、こゆきしゃぁぁん!!」
泣き声のような声を上げながらこちらを呼ぶ声の方を見やると、
「そこに……おおう」
そこには白い小さなドラゴンがミリィちゃんの全身をくまなくペロペロと舐めている姿があった。
その現在のミリィちゃんの姿といい、ヨダレにまみれた状態といい、殿方の妄想のソレのような状態となっていて、私は外人さんのような驚き、というか戸惑いの声を上げる。
「……大丈夫そうね!後で助けるわ!」
「え、こゆ、ひゃっ!そこはだめぇ!」
楽しそうなミリィちゃんを置いておき、討伐対象のドラゴンがいきなり攻撃を仕掛けてこないか警戒しながら、刀を構える。
ちなみに、ミリィちゃんがダメと言っていた場所は耳だ。
「さあ、ドラゴンさんや!どこにいるのかしら!」
刀に手を当てながら、いつでも抜けるように体勢を整え、周りを見る。
すると、突然目を開けられないほどの暴風が吹き荒れたかと思うと、大きな地鳴りを伴って、目の前に大きなモノが空から降りてきた。
凄まじい暴風の中、薄らと目を開くと、そこにはーー
「ーーっ、あなたが」
黒鉄のような鈍い光を纏った、とてつもなく巨大な竜が、見下ろすかのように眼をこちらへ向け、そこに佇んでいた。
そして、私は思う。
(これ、もしかしなくても、ヤバい……わよね?)
改めて敵の強大さを見ただけで実感し、
「ーー私は、私は狩屋道場師範!狩屋小雪!いざ参る!」
ーー静かに、心躍らせた。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り
星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意事項
※主人公リアルチート
暴力・流血表現
VRMMO
一応ファンタジー
もふもふにご注意ください。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
アルケミア・オンライン
メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。
『錬金術を携えて強敵に挑め!』
ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。
宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────?
これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる