小雪が行く!

ユウヤ

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第三章 小雪、戦う

到着

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 塔の中に入ってからしばらくして、この螺旋階段はどこまで続くのかしらと思わずそう愚痴をこぼしたくなるほど長く、そしてイライラとさせる。

 吹き抜けから上を見ると、あともう少しの所まで来ているのはわかっているが、なにぶん道が悪い。

壁が剥がれ落ち、階段は角度が悪く、おまけに苔が生えている。

一つ一つの段差が普通の階段の踊場ほど広いので滑り落ちることはなけれども、余計に疲れてしまうのは確かだ。

 外が見える所に差し掛かった所で、何かの声が耳に入り、すぐに気付く。ミリィちゃんの身に何かあったのだと。

 これはマズイと、老体に鞭を入れるように全速力で走る。

 すると、ギャアギャアと鳴き声を上げながら、プテラノドンのような怪鳥が5羽ほど目の前の壁を壊してやって来たので、後ろへ飛び退いて破片を回避。こんな時に現れた怪鳥の群れに激しい怒りを覚えた。

「うっ……とおしい!邪魔しないで!」

 怒りのまま目の前の怪鳥を切り抜けようとするが、それらの攻撃は全て空を切る。

 ここでふと思い出す。

(何故忘れてたのかしら……私、弓が使えるじゃない!)

 納刀の動作なしに刀を腰に当てると、ひゅんと音を立てて刀が鞘に収まったのを確認してから、VRフォンを触る。

(武器一覧……武器一覧……あった!これで変えられるかしら?)

 武器一覧にて弓を選択すると、腰の刀が光の粒になって消え、代わりに矢筒と弓矢が背中に現れた。

この現状だと腰に出て欲しかったけど、そこは私の現状把握能力の低さが仇となったのだ、言っていても仕方ない。

 背中の矢筒を腰の横あたりに動かすと、スッとその位置に留まってくれたので、中から矢を一本抜き出し、それを構えた弓の弦へあてがい、

「みんな邪魔よ!眠りなさい!」

 矢を射出した。

矢は激しい風切り音を鳴らしたかと思えば、その鋭い鏃を怪鳥に突き立てる。

 被弾した怪鳥は悲鳴のような声を上げてから、地面に土埃を上げながら落ち、その様子を見た残りの四体はぎゃあぎゃあと叫びながら外へ飛び出ていったので、一息ついてから私はまた走り出した。

しばらく階段を登って行くと、おそらく最上階と思われる扉の前に出た。

 扉は鉄でつくられているようだったが、その重厚な、集会場の運営室の扉よりもさらに大きな扉に近付き、それを開けずに、VRフォンでまた武器を刀に変え

「はぁぁ!ざ、"斬鉄"!」

 秘技を叫びながら扉へ刃を振り下ろすと、ガシャン!と凄まじい音をたて、扉が崩れ落ちた。

ゲームとはいえ、やはり必殺技を叫びながら行動するのは恥ずかしい。




「ミ、ミリィちゃん!大丈夫!?」

 若干顔を赤らめながらミリィちゃんを探す。

「こ、こゆきしゃぁぁん!!」

 泣き声のような声を上げながらこちらを呼ぶ声の方を見やると、

「そこに……おおう」


 そこには白い小さなドラゴンがミリィちゃんの全身をくまなくペロペロと舐めている姿があった。

 その現在のミリィちゃんの姿といい、ヨダレにまみれた状態といい、殿方の妄想のソレのような状態となっていて、私は外人さんのような驚き、というか戸惑いの声を上げる。

「……大丈夫そうね!後で助けるわ!」

「え、こゆ、ひゃっ!そこはだめぇ!」


 楽しそうアブナそうなミリィちゃんを置いておき見捨てて、討伐対象のドラゴンがいきなり攻撃を仕掛けてこないか警戒しながら、刀を構える。

 ちなみに、ミリィちゃんがダメと言っていた場所は耳だ。

「さあ、ドラゴンさんや!どこにいるのかしら!」

 刀に手を当てながら、いつでも抜けるように体勢を整え、周りを見る。

 すると、突然目を開けられないほどの暴風が吹き荒れたかと思うと、大きな地鳴りを伴って、目の前に大きなが空から降りてきた。


 凄まじい暴風の中、薄らと目を開くと、そこにはーー

「ーーっ、あなたが」

 黒鉄のような鈍い光を纏った、とてつもなく巨大な竜が、見下ろすかのように眼をこちらへ向け、そこに佇んでいた。

 そして、私は思う。

(これ、もしかしなくても、ヤバい……わよね?)

 改めて敵の強大さを見ただけで実感し、


「ーー私は、私は狩屋道場師範!狩屋小雪!いざ参る!」


ーー静かに、心躍らせた。
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