12 / 23
第三章 小雪、戦う
狩屋小雪、単独要請
しおりを挟む「あの、部長!これは流石におかしいです!」
「あっはっはっはっ!流石婆ちゃんだ!」
目の前で1人は笑い、部屋の隅で1人は怒り、中央で1人は事に理解出来ずに佇んでいる。
この世に生を受け、今の今までにこのような光景はあっただろうかと、私は少し考えた。
発端は先日、青年を打ち倒した事からだ。
なんでも彼は、暴れていたことは間違いないものの、この世界的ゲームで行われる大会でほとんど上位にいるという、輝かしい記録の持ち主であったという。
誰でも1度は行ってしまうミスという事もあり、厳重注意のみで済ませたかったものの、そのようなプレイヤーが少しハメを外してしまったので、対処に困っていたとの事であった。
そんな中、ぽっと出の私が、その上位ランカーを触れさせもせずに倒してしまったので、あの日から1日経った今日、以前隆ちゃんらとお話しした事務所へ呼び出された次第だ。
そして、私の実力を測るべく、ランクの変動は特に無いものの、特別な試練が課せられるとの事であった。
しかし、その内容はカグヤちゃんにも隆ちゃんにも聞かされていなかったようで、内容が書かれた書類に目を通した2人が、今のような反応を示していた。
「あのー、えっと、どうしたのかしら?」
「ふー、笑った笑った。えっとね、簡単に言うと、内容がAランクの人が受けられるクエストだったんだよ。それも、とびっきり難しいやつ」
「とびっきり……へー、それは面白そうね」
「ははっ、やっぱ婆ちゃんならそう言うと思ってた!」
私達が談笑していると、カグヤちゃんは頭を片手で押さえながら、疲れたような表情で部屋の隅からこちらへ戻って来た。
「先に言っておきますが、この書類に書かれた内容は、難しいなんてものではありません」
「ええ、先程孫から聞きました。とても難しいのだとか」
「……彼が小雪さんへなんと言ったのかはわかりませんが、このクエストは以前、小雪さんが戦ったプレイヤーさん含め、15人のAランカーが討伐に向かいました」
私の返答に、カグヤちゃんは隆ちゃんを一瞥してから私を見ると、続けて言う。
「それで、どうなったのかしら?」
「失敗しました。それも、誰1人モンスターへ傷もつけられることなく」
「……詳しく教えて頂戴」
予想を上回る話しが出たので、私は目の色を変えたかのように話しを伺う。
なんでも、運営がイベント用に作ったボスモンスターに異常が発生し、明らかに強くなりすぎてしまったとの事だ。
腕力ではどうにもならない程丈夫な表皮を持ち、近付く事を許さないほど苛烈な攻撃、そして、全てを見通すかのような聡明さ。
そのあまりの強さから、一般の生活を送る上で、あまり獲得出来ないスキル、"斬鉄"を持っている凄腕が現れるまで、該当エリアへの侵入を禁止していたとの事だ。
「……それは、運営側で削除なり修正なりは出来ないのかしら?」
「何度も何度も試しました。しかし、何故かほぼ全ての措置が無効化されてしまうのです」
「理由はわからない、って事ね。ちなみにほぼ全てって事は、なんらかの措置は取れたのかしら?」
「はい、討伐さえ出来れば、後は二度と該当モンスターが出現出来ないようにプログラミングを組む事は……しかし、何故このコードだけ組む事が出来たのかは……」
「まるで」
「ん?隆ちゃん?」
カグヤちゃんと私の話しを割って入るかのように、隆ちゃんは言う。
「まるで、あのモンスターが、エンシェントドラゴンが、意思を持って待ち構えてるみたい、だねって。そう思ったんだ」
「エンシェントドラゴン……それがモンスターの名前かしら」
私の問いに、カグヤちゃんと隆ちゃんは頷く。
「そして、書類の内容は、そのモンスター、エンシェントドラゴンの調査及び、"討伐"、それも、1人で。はっきり言って、運営権限で能力値に最大ブースト……大幅な能力向上をしても倒せるとは思いません。というか、以前運営のデバッガープレイヤーに私どもで出来るステータス改変と特殊スキル付与をかけて、かつ10人を向かわせて、それも失敗しております」
しかも、その改変チートを行っても、何故か10分程で効果が切れてしまう妨害もしくはデバフが島中に反映されていることから、だからこそ無謀だと、カグヤちゃんは言った。
その話しを聞いた私は、決意した。
「そんな事を言われては」
「おお?婆ちゃん?」
「えっ?」
隆ちゃんは満面の笑みで、私の次の言葉を待っている。
だからこそ私は、隆ちゃんに負けない程の笑顔を顔に貼り付け、言う。
「行くしかないでしょう……ね?」
「……っ!」
「ば、婆ちゃん!顔!顔が怖いから!」
「えっ、あらやだ、ごめんなさいね」
私の顔が余程怖かったようで、カグヤちゃんは顔を引きつらせ、隆ちゃんは驚いた顔で私に制止を促した。
「ま、まあ、とりあえず、婆ちゃん!よろしくね!なんかあったら連絡お願いするよ!運営からの支給品は必ず使ってね!」
「え、ええ、わかったわ。行ってきます」
ものすごい勢いで隆ちゃんにそう言われ、私はその勢いに負けて部屋を出た。
部屋を出た私はすぐに転移床へ向かい、該当エリア……"禁断の島、エウレカ"へ向かった。
まだ見ぬ強敵に心踊らせながら。
「……あなたのお祖母様、あの顔でスノウさんを斬ったの?」
「……はい、申し訳ありません」
「そ、そんなかしこまらないでよ。……とりあえずスノウさんのとこに行かないと」
「それは、注意ですか?それとも……」
「まあ……注意もするけど、主にケアかしらね」
やっぱり、と、隆の声が部屋に取り残しながら、2人は部屋を出た。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り
星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意事項
※主人公リアルチート
暴力・流血表現
VRMMO
一応ファンタジー
もふもふにご注意ください。
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
アルケミア・オンライン
メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。
『錬金術を携えて強敵に挑め!』
ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。
宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────?
これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
三男のVRMMO記
七草
ファンタジー
自由な世界が謳い文句のVRMMOがあった。
その名も、【Seek Freedom Online】
これは、武道家の三男でありながら武道および戦闘のセンスが欠けらも無い主人公が、テイムモンスターやプレイヤー、果てにはNPCにまで守られながら、なんとなく自由にゲームを楽しむ物語である。
※主人公は俺TUEEEEではありませんが、生産面で見ると比較的チートです。
※腐向けにはしませんが、主人公は基本愛されです。なお、作者がなんでもいける人間なので、それっぽい表現は混ざるかもしれません。
※基本はほのぼの系でのんびり系ですが、時々シリアス混じります。
※VRMMOの知識はほかの作品様やネットよりの物です。いつかやってみたい。
※お察しの通りご都合主義で進みます。
※世界チャット→SFO掲示板に名前を変えました。
この前コメントを下された方、返信内容と違うことしてすみません<(_ _)>
変えた理由は「スレ」のほかの言い方が見つからなかったからです。
内容に変更はないので、そのまま読んで頂いて大丈夫です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる