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本編
良い報告
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簡単なことではない、すぐにできるはずがないとわかっていたからこそ、茉莉愛はアルベールに尋ねはしなかった。あの日のことが夢だったように友人として接し続けた。
結局は彼の優しさに甘え続けているのだ。他に頼れる者もなく、何かができるわけでもなく、彼がそれを望んでいるから良いのだと自分に言い訳を繰り返しながら。
何より許されなければ恋人として振る舞うことはできない。後で辛くなることはわかりきっている。
一度学園長に呼び出されて意思を確認された時に釘を刺されたこともある。彼は何かを知っているようではあったが、尋ねることは出来なかった。
この日も茉莉愛は早足で保健室に向かい、いつものベッドにアルベールの姿を探す。最早、勝手知ったるものだが、ルームメイトがいる自分の部屋に入ることには全く慣れられないでいる。
「そんなに急がなくても僕は逃げないよ」
指定席とも言える窓際のベッドで体を起こした彼がふわりと笑う。クレメンスの姿もなく、先ほどまで本を読んで過ごしていたらしい。
「早くアルに会いたくて……」
急に恥ずかしくなりながら、茉莉愛はベッドに近づき、いつものように側に置いてある椅子に座る。
「僕も少しでも長く君と一緒にいられたら嬉しいけど、転んで怪我でもしたら大変だからね。あんまり心配させないで?」
伸びてきた手に頭を撫でられ、アルベールが呆れている様子ではないことに茉莉愛はほっとしながらも何となく切ない気持ちになる。
『僕だけの聖女になってくれないかな?』
今でもあの言葉が耳に蘇って赤面してしまうことがあるのだ。
「今日は良い報告があるんだ」
いつになく弾んだ声に茉莉愛はきょとんとして彼の顔を覗き込む。彼がこれほど興奮することとは何だろうか。まさか、許しが出たとでも言うのか。
身構えてしまうのは不可能だと思っていたからなのかもしれないが、アルベールはふわりと微笑む。
「課題が出たんだ。実験が成功すれば君との結婚が認められる」
「陛下から……?」
恐る恐る問いかければアルベールはおもむろに頷く。
無理難題ではないのか、茉莉愛が心配になれば、彼の目も不安げに揺れる。
「嬉しくない、かな?」
「ううん……ビックリしちゃって……」
国王の許しなどありえないと無意識に考えていたのかもしれない。それなのに、こんなにも早く訪れるとは思ってもみなかった。
「大丈夫、すぐに結婚を迫ったりしないよ。ただ証明させてほしい」
はっとして茉莉愛はアルベールの顔を見詰めることしかできなかった。優しい彼がそんなことをするという懸念は微塵も抱いていなかったのに、言葉にできない。
けれども、アルベールは続ける。
「それでね、その実験の助手をしてほしいんだ」
「助手……?」
その言葉を反芻して茉莉愛は自分の眉間に皺が寄ったことにも気付いていなかった。
「大丈夫。難しいことじゃない。危なくもない」
つんと茉莉愛の眉間を突き、アルベールは微笑む。
彼は実験が成功して認められると信じているのだろうか。安心させようとしてくれていることはわかっていながらも重大なことが魔力もない自分に務まるのか自信がないのだ。
「君だから手伝ってほしい。マリアじゃなきゃだめなんだよ」
真剣な眼差しでそう言われてしまえば、元来頼みを断れない茉莉愛は断る理由を見つけられずにいた。
「泊まりがけになるけど、学園長には話を通してあるから、やるかやらないかは君次第」
優しい言葉は選択肢を与えてくれているようで違うと茉莉愛は感じていた。
たった一人この世界にやってきた茉莉愛には家族はおらず、学園長が父親の代わりになっている。既にその学園長の許可があるならば決定事項のようなものではないのか。
「僕を支えてくれないかな?」
縋るような眼差しに茉莉愛は今度こそ頷いていた。
***
結局は彼の優しさに甘え続けているのだ。他に頼れる者もなく、何かができるわけでもなく、彼がそれを望んでいるから良いのだと自分に言い訳を繰り返しながら。
何より許されなければ恋人として振る舞うことはできない。後で辛くなることはわかりきっている。
一度学園長に呼び出されて意思を確認された時に釘を刺されたこともある。彼は何かを知っているようではあったが、尋ねることは出来なかった。
この日も茉莉愛は早足で保健室に向かい、いつものベッドにアルベールの姿を探す。最早、勝手知ったるものだが、ルームメイトがいる自分の部屋に入ることには全く慣れられないでいる。
「そんなに急がなくても僕は逃げないよ」
指定席とも言える窓際のベッドで体を起こした彼がふわりと笑う。クレメンスの姿もなく、先ほどまで本を読んで過ごしていたらしい。
「早くアルに会いたくて……」
急に恥ずかしくなりながら、茉莉愛はベッドに近づき、いつものように側に置いてある椅子に座る。
「僕も少しでも長く君と一緒にいられたら嬉しいけど、転んで怪我でもしたら大変だからね。あんまり心配させないで?」
伸びてきた手に頭を撫でられ、アルベールが呆れている様子ではないことに茉莉愛はほっとしながらも何となく切ない気持ちになる。
『僕だけの聖女になってくれないかな?』
今でもあの言葉が耳に蘇って赤面してしまうことがあるのだ。
「今日は良い報告があるんだ」
いつになく弾んだ声に茉莉愛はきょとんとして彼の顔を覗き込む。彼がこれほど興奮することとは何だろうか。まさか、許しが出たとでも言うのか。
身構えてしまうのは不可能だと思っていたからなのかもしれないが、アルベールはふわりと微笑む。
「課題が出たんだ。実験が成功すれば君との結婚が認められる」
「陛下から……?」
恐る恐る問いかければアルベールはおもむろに頷く。
無理難題ではないのか、茉莉愛が心配になれば、彼の目も不安げに揺れる。
「嬉しくない、かな?」
「ううん……ビックリしちゃって……」
国王の許しなどありえないと無意識に考えていたのかもしれない。それなのに、こんなにも早く訪れるとは思ってもみなかった。
「大丈夫、すぐに結婚を迫ったりしないよ。ただ証明させてほしい」
はっとして茉莉愛はアルベールの顔を見詰めることしかできなかった。優しい彼がそんなことをするという懸念は微塵も抱いていなかったのに、言葉にできない。
けれども、アルベールは続ける。
「それでね、その実験の助手をしてほしいんだ」
「助手……?」
その言葉を反芻して茉莉愛は自分の眉間に皺が寄ったことにも気付いていなかった。
「大丈夫。難しいことじゃない。危なくもない」
つんと茉莉愛の眉間を突き、アルベールは微笑む。
彼は実験が成功して認められると信じているのだろうか。安心させようとしてくれていることはわかっていながらも重大なことが魔力もない自分に務まるのか自信がないのだ。
「君だから手伝ってほしい。マリアじゃなきゃだめなんだよ」
真剣な眼差しでそう言われてしまえば、元来頼みを断れない茉莉愛は断る理由を見つけられずにいた。
「泊まりがけになるけど、学園長には話を通してあるから、やるかやらないかは君次第」
優しい言葉は選択肢を与えてくれているようで違うと茉莉愛は感じていた。
たった一人この世界にやってきた茉莉愛には家族はおらず、学園長が父親の代わりになっている。既にその学園長の許可があるならば決定事項のようなものではないのか。
「僕を支えてくれないかな?」
縋るような眼差しに茉莉愛は今度こそ頷いていた。
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