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第一章
「いつもお世話になってます」 5
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「キスだけじゃ全然足りないです」
椅子を回されたのだと紗菜が気付いた時にはすぐ正面に晃の顔があった。
「もしかして、キスもしたことなかったですか?」
紗菜にとってはファーストキスだった。彼にとっては気軽なものでも、紗菜にとってはそうではない。
またすぐに唇が触れてしまいそうな距離で、するりと髪を撫でられ、思わず背中を引いても背もたれが軋むだけだった。
恥ずかしさから頷くこともできなかったが、晃は答えを確信したのだろう。
「へぇ……それなら、もっと記憶に残るような気持ちいいキスしないとですね」
「やっ! もうかえる……!」
耳を挟むように顔の横に手を回され、再び距離を縮めようとする晃の胸を紗菜は咄嗟に押していた。
しかし、細く見える晃の体だが、突き飛ばすには至らない。それどころか、触れたからこそ、その体が硬く引き締まっているのがよくわかる。
そして、大きな手にしっかりと手首を掴まれてふりほどくこともできないまま、上を向かされた紗菜は再び晃の顔が近付いてくるのを許すしかなかった。
「んっ! んぅ……」
今度は一度だけでは済まなかった。何度も押しつけられる唇を紗菜は受けることしかできない。ぎゅっと唇を引き結んで息も止めてしまっていた。
「そんなに俺とキスするの嫌ですか?」
「ふ、っあ……」
じっと見つめられても紗菜は答えることもできない。嫌悪というほどの感情はないが、気持ちの良いことなのかもわからない。ただ息ができなくて苦しくて涙がじわりと滲む。
「ちゃんと鼻で息しないとだめですよ」
それができていたら紗菜が苦しさを感じることはなかっただろうが、晃はやめるわけでもない。ゆるく開いた下唇を紗菜は食べられたと感じた。
「ん……んぁ……」
これもキスなのだろうか。強く噛まれるわけではないが、何度も晃の唇が紗菜の唇を挟む。粘膜の触れ合いに妙な気持ちになるのは酸素が足りなくなったせいだろうか。
「んんっ! ふぁ……!」
いつしかだらしなく開いていた唇の隙間から晃の舌が入り込んできても紗菜は追い返すこともできなかった。ただ柔らかな舌に口内を蹂躙されるだけだ。
散々、貪られて解放されても紗菜はぼんやりと晃を見ることしかできなかった。唇の端から垂れていた唾液と滲み出ていた涙を拭われ、ようやくハッとする。
「も、かえるっ……!」
「帰れると思います? 俺の力に敵わないくせに」
「うっ……」
クスクスと楽しげに晃は笑ってはいるが、手首に込められた力の強さに紗菜は顔を顰める。
優しそうに見えるからと言って彼を信じるべきではなかったのだ。痛い目を見なければわからないほど自分が愚かだったと気付いて後悔してももう遅い。
『あれ? もしかして、家に行ったら襲われちゃうーとか思ってます?』
紗菜の脳裏に晃の言葉が蘇る。
彼に笑われたから一瞬でも襲われるかもしれないと考えてしまったことを紗菜は恥ずかしく感じたのだ。それなのに、この状況は一体何なのか。
「襲わないって、言ったのに……」
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら紗菜は言葉を紡ぐ。
心のどこかでは、やはり自分なんか襲われるはずがないと思っていたのかもしれない。常々周りと見比べては子供のような体にコンプレックスを感じていた。
それでも彼が劣情を催したことは聞いていたのに信じてしまった。同意しなければ犯されることはないと安心していた。
「ええ、だから襲ってません」
しれっと言い放つ晃に紗菜は愕然とした。今だって彼は手首を掴んで離さない。勝手にキスまでしておいて襲ったのでなければ何だと言うのか。
「先輩の同意がなければ本番は絶対にしません。それだけは嘘じゃないですから安心してください」
今となってはもうそんな言葉で安心できるはずもない。それなのに、信じてほしいと訴える声と真っ直ぐな眼差しに惑わされてしまいそうで、目を逸らした紗菜は声を絞り出すように口を開く。
「本番って……」
「俺のチンポを先輩の中に突っ込むってことですけど」
晃は平然と言ってのけるが、その生々しさに紗菜は聞いてしまったことを後悔した。
紗菜が性行為について知っていることは多くない。避妊の大切さを聞かされても快楽のための行為には抵抗感を覚えていた。
早熟なクラスメートの話を聞かされることはあったが、恋愛さえよくわかっていないのだ。紗菜にとってセックスは子供を作るための行為であって、自分が経験するのは早くとも十年ほど先のことだろうと思っていたくらいだ。
結婚するまで純潔を守り通さなければならないような教育を受けてきたわけでもないが、自分が大人の体に近付いていないと感じているからこそ、まるで考えられなかったのだ。
椅子を回されたのだと紗菜が気付いた時にはすぐ正面に晃の顔があった。
「もしかして、キスもしたことなかったですか?」
紗菜にとってはファーストキスだった。彼にとっては気軽なものでも、紗菜にとってはそうではない。
またすぐに唇が触れてしまいそうな距離で、するりと髪を撫でられ、思わず背中を引いても背もたれが軋むだけだった。
恥ずかしさから頷くこともできなかったが、晃は答えを確信したのだろう。
「へぇ……それなら、もっと記憶に残るような気持ちいいキスしないとですね」
「やっ! もうかえる……!」
耳を挟むように顔の横に手を回され、再び距離を縮めようとする晃の胸を紗菜は咄嗟に押していた。
しかし、細く見える晃の体だが、突き飛ばすには至らない。それどころか、触れたからこそ、その体が硬く引き締まっているのがよくわかる。
そして、大きな手にしっかりと手首を掴まれてふりほどくこともできないまま、上を向かされた紗菜は再び晃の顔が近付いてくるのを許すしかなかった。
「んっ! んぅ……」
今度は一度だけでは済まなかった。何度も押しつけられる唇を紗菜は受けることしかできない。ぎゅっと唇を引き結んで息も止めてしまっていた。
「そんなに俺とキスするの嫌ですか?」
「ふ、っあ……」
じっと見つめられても紗菜は答えることもできない。嫌悪というほどの感情はないが、気持ちの良いことなのかもわからない。ただ息ができなくて苦しくて涙がじわりと滲む。
「ちゃんと鼻で息しないとだめですよ」
それができていたら紗菜が苦しさを感じることはなかっただろうが、晃はやめるわけでもない。ゆるく開いた下唇を紗菜は食べられたと感じた。
「ん……んぁ……」
これもキスなのだろうか。強く噛まれるわけではないが、何度も晃の唇が紗菜の唇を挟む。粘膜の触れ合いに妙な気持ちになるのは酸素が足りなくなったせいだろうか。
「んんっ! ふぁ……!」
いつしかだらしなく開いていた唇の隙間から晃の舌が入り込んできても紗菜は追い返すこともできなかった。ただ柔らかな舌に口内を蹂躙されるだけだ。
散々、貪られて解放されても紗菜はぼんやりと晃を見ることしかできなかった。唇の端から垂れていた唾液と滲み出ていた涙を拭われ、ようやくハッとする。
「も、かえるっ……!」
「帰れると思います? 俺の力に敵わないくせに」
「うっ……」
クスクスと楽しげに晃は笑ってはいるが、手首に込められた力の強さに紗菜は顔を顰める。
優しそうに見えるからと言って彼を信じるべきではなかったのだ。痛い目を見なければわからないほど自分が愚かだったと気付いて後悔してももう遅い。
『あれ? もしかして、家に行ったら襲われちゃうーとか思ってます?』
紗菜の脳裏に晃の言葉が蘇る。
彼に笑われたから一瞬でも襲われるかもしれないと考えてしまったことを紗菜は恥ずかしく感じたのだ。それなのに、この状況は一体何なのか。
「襲わないって、言ったのに……」
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら紗菜は言葉を紡ぐ。
心のどこかでは、やはり自分なんか襲われるはずがないと思っていたのかもしれない。常々周りと見比べては子供のような体にコンプレックスを感じていた。
それでも彼が劣情を催したことは聞いていたのに信じてしまった。同意しなければ犯されることはないと安心していた。
「ええ、だから襲ってません」
しれっと言い放つ晃に紗菜は愕然とした。今だって彼は手首を掴んで離さない。勝手にキスまでしておいて襲ったのでなければ何だと言うのか。
「先輩の同意がなければ本番は絶対にしません。それだけは嘘じゃないですから安心してください」
今となってはもうそんな言葉で安心できるはずもない。それなのに、信じてほしいと訴える声と真っ直ぐな眼差しに惑わされてしまいそうで、目を逸らした紗菜は声を絞り出すように口を開く。
「本番って……」
「俺のチンポを先輩の中に突っ込むってことですけど」
晃は平然と言ってのけるが、その生々しさに紗菜は聞いてしまったことを後悔した。
紗菜が性行為について知っていることは多くない。避妊の大切さを聞かされても快楽のための行為には抵抗感を覚えていた。
早熟なクラスメートの話を聞かされることはあったが、恋愛さえよくわかっていないのだ。紗菜にとってセックスは子供を作るための行為であって、自分が経験するのは早くとも十年ほど先のことだろうと思っていたくらいだ。
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