15 / 30
3、迎えに来たのは
Ⅱ
しおりを挟む
「……よく聞け! 私の名は、レオン・リカルド・ラート! ヴルス隊所属。階級は少佐。ほぼ壊滅の被害の後解体され、立場が決まらずレイス大佐の直属として今の今まで、彼女の護衛としてここに駐留することになっていた! ……レイス大佐、ディール准将とは兄弟だ。そして……」
「ラート総帥の……」
「そう。現総帥の息子だ。権力闘争を繰り返す狸よ、はたして俺に喧嘩を売る覚悟はあるのか? このまま貴様らの上官を殺しても、我が母のことだ、コバエをはたいたぐらいの認識で私の殺人をもみ消すだろう……」
「見なさい!」
凛とした声を張り上げたクロエに目を向ければ受け取ったナイフを自分の首に突きつけていた。それに苦い思いを抱きながら表情を変えずに見回す。
「お嬢様っ」
「そんな真似はっ」
慌てふためく小物たちを見ながらクロエは立ち上がって一歩踏み出してレオンの隣に並び立った。その表情は揺るがずにまっすぐと前を見つめている。
「あなたたちがその人を殺したら、このナイフで私は彼について逝くわ。貴方たちの権力の道具になって犯されて死ぬぐらいなら、この人と一緒に逝ったほうが、父が愛し守った国を荒らすことはなくなるわ。私は国を守りたい。だから、身を消したの。身寄りのなくなった私は貴方たちからしたら金の生る実だから」
引きなさい。と命令するクロエの風格は、そこらをはしゃぎまわって散歩している少女のそれではなかった。凛としたそのたたずまいは、確かに軍人の高潔さを感じさせるものだった。
畳みかけるように一歩近づくと、毒気を抜かした男の部下たちはおとなしく引き下がった。
「素直な子が大好きらしい」
先ほどの言葉をからかってそう言ってレオンは伸びている男を担いで家の外に投げた。着弾した恐怖に漏らして気絶したらしい。たたき上げではないその情けなさに鼻を鳴らしてもう一発蹴り上げると、あたりを見回した。
「いるか」
ひと声かけるとさっと軍服の男たちが数人出てきた。誰もがレオンに片膝をついていることにクロエは戸惑った声を上げた。
「えっ?」
「レイス大佐の部下だ。……丁重に扱うように。出所も吐かせて兄上に報告して差し上げろ」
「はっ」
敬礼を返して男を受け取った彼らはさっと姿を消した。ひとり一度振り返りレオンに目を送ったのにうなずいて見せたレオンは、狐につままれたような顔をしているクロエを振り返って、目を閉じてため息をついた。
「クロエさん」
「あ、はいっ?」
ナイフ返してと、手を出して受け取ったレオンは鞘にしまってその場に座り込んだ。
「あ、レオンさっ」
いつものかと、おもってクロエが盥を取りに行こうとするのをレオンは膝立ちになって体を伸ばして腰をさらって捕まえた。
「レオンさん?」
「……」
後ろからぎゅうと抱き付いてくるレオンにクロエは困ったように振り返って、後ろに手を伸ばして頭を撫でる。腰に回った腕が小刻みに震えていた。なだめるようにその腕をそっと撫でながら硬い髪を感じてクロエは唇をかみしめた。
「ごめんなさい」
ポツリとつぶやいたクロエにレオンがびくりと震えた。その言葉が、レオンが、クロエの父の部隊に所属し、その死に目に立ち会った生き残りであることに気付いていたことを肯定していると、わかったのだ。
「君は気づいていたのか? だいぶ最初から」
「……ええ。石碑で長時間祈っていた神父様が、軍人で情報をやっていた。っていうのを聞いてまさかと思って、確信したのはリカルド中将のことで……」
「……」
はあとため息をついたレオンが震えているのに気づいたクロエが体を入れ替えようとしたがそれを拒むように抱く力を強めて、小さな肩に額を預けた。
「貴女のほうが、ずいぶんと辛い思いをしただろうに、とんだ醜態ばかり見せてしまいましたね」
最初の頃よりも硬い敬語にクロエの肩がびくりと震える。
「レオンさん?」
「……少し考える時間をくれ。少し今混乱している」
そう言って体を離してクロエに背中を向けたレオンが丘へ歩いていくのに、クロエは立ち上がってついていこうとしたが、ぐっとこぶしを握ってうつむくと立ち止まって家へおとなしく帰るのだった。
「ラート総帥の……」
「そう。現総帥の息子だ。権力闘争を繰り返す狸よ、はたして俺に喧嘩を売る覚悟はあるのか? このまま貴様らの上官を殺しても、我が母のことだ、コバエをはたいたぐらいの認識で私の殺人をもみ消すだろう……」
「見なさい!」
凛とした声を張り上げたクロエに目を向ければ受け取ったナイフを自分の首に突きつけていた。それに苦い思いを抱きながら表情を変えずに見回す。
「お嬢様っ」
「そんな真似はっ」
慌てふためく小物たちを見ながらクロエは立ち上がって一歩踏み出してレオンの隣に並び立った。その表情は揺るがずにまっすぐと前を見つめている。
「あなたたちがその人を殺したら、このナイフで私は彼について逝くわ。貴方たちの権力の道具になって犯されて死ぬぐらいなら、この人と一緒に逝ったほうが、父が愛し守った国を荒らすことはなくなるわ。私は国を守りたい。だから、身を消したの。身寄りのなくなった私は貴方たちからしたら金の生る実だから」
引きなさい。と命令するクロエの風格は、そこらをはしゃぎまわって散歩している少女のそれではなかった。凛としたそのたたずまいは、確かに軍人の高潔さを感じさせるものだった。
畳みかけるように一歩近づくと、毒気を抜かした男の部下たちはおとなしく引き下がった。
「素直な子が大好きらしい」
先ほどの言葉をからかってそう言ってレオンは伸びている男を担いで家の外に投げた。着弾した恐怖に漏らして気絶したらしい。たたき上げではないその情けなさに鼻を鳴らしてもう一発蹴り上げると、あたりを見回した。
「いるか」
ひと声かけるとさっと軍服の男たちが数人出てきた。誰もがレオンに片膝をついていることにクロエは戸惑った声を上げた。
「えっ?」
「レイス大佐の部下だ。……丁重に扱うように。出所も吐かせて兄上に報告して差し上げろ」
「はっ」
敬礼を返して男を受け取った彼らはさっと姿を消した。ひとり一度振り返りレオンに目を送ったのにうなずいて見せたレオンは、狐につままれたような顔をしているクロエを振り返って、目を閉じてため息をついた。
「クロエさん」
「あ、はいっ?」
ナイフ返してと、手を出して受け取ったレオンは鞘にしまってその場に座り込んだ。
「あ、レオンさっ」
いつものかと、おもってクロエが盥を取りに行こうとするのをレオンは膝立ちになって体を伸ばして腰をさらって捕まえた。
「レオンさん?」
「……」
後ろからぎゅうと抱き付いてくるレオンにクロエは困ったように振り返って、後ろに手を伸ばして頭を撫でる。腰に回った腕が小刻みに震えていた。なだめるようにその腕をそっと撫でながら硬い髪を感じてクロエは唇をかみしめた。
「ごめんなさい」
ポツリとつぶやいたクロエにレオンがびくりと震えた。その言葉が、レオンが、クロエの父の部隊に所属し、その死に目に立ち会った生き残りであることに気付いていたことを肯定していると、わかったのだ。
「君は気づいていたのか? だいぶ最初から」
「……ええ。石碑で長時間祈っていた神父様が、軍人で情報をやっていた。っていうのを聞いてまさかと思って、確信したのはリカルド中将のことで……」
「……」
はあとため息をついたレオンが震えているのに気づいたクロエが体を入れ替えようとしたがそれを拒むように抱く力を強めて、小さな肩に額を預けた。
「貴女のほうが、ずいぶんと辛い思いをしただろうに、とんだ醜態ばかり見せてしまいましたね」
最初の頃よりも硬い敬語にクロエの肩がびくりと震える。
「レオンさん?」
「……少し考える時間をくれ。少し今混乱している」
そう言って体を離してクロエに背中を向けたレオンが丘へ歩いていくのに、クロエは立ち上がってついていこうとしたが、ぐっとこぶしを握ってうつむくと立ち止まって家へおとなしく帰るのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる