立つ風に誘われて

真川紅美

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3、迎えに来たのは

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「……よく聞け! 私の名は、レオン・リカルド・ラート! ヴルス隊所属。階級は少佐。ほぼ壊滅の被害の後解体され、立場が決まらずレイス大佐の直属として今の今まで、彼女の護衛としてここに駐留することになっていた! ……レイス大佐、ディール准将とは兄弟だ。そして……」
「ラート総帥の……」
「そう。現総帥の息子だ。権力闘争を繰り返す狸よ、はたして俺に喧嘩を売る覚悟はあるのか? このまま貴様らの上官を殺しても、我が母のことだ、コバエをはたいたぐらいの認識で私の殺人をもみ消すだろう……」
「見なさい!」
 凛とした声を張り上げたクロエに目を向ければ受け取ったナイフを自分の首に突きつけていた。それに苦い思いを抱きながら表情を変えずに見回す。
「お嬢様っ」
「そんな真似はっ」
 慌てふためく小物たちを見ながらクロエは立ち上がって一歩踏み出してレオンの隣に並び立った。その表情は揺るがずにまっすぐと前を見つめている。
「あなたたちがその人を殺したら、このナイフで私は彼について逝くわ。貴方たちの権力の道具になって犯されて死ぬぐらいなら、この人と一緒に逝ったほうが、父が愛し守った国を荒らすことはなくなるわ。私は国を守りたい。だから、身を消したの。身寄りのなくなった私は貴方たちからしたら金の生る実だから」
 引きなさい。と命令するクロエの風格は、そこらをはしゃぎまわって散歩している少女のそれではなかった。凛としたそのたたずまいは、確かに軍人の高潔さを感じさせるものだった。
 畳みかけるように一歩近づくと、毒気を抜かした男の部下たちはおとなしく引き下がった。
「素直な子が大好きらしい」
 先ほどの言葉をからかってそう言ってレオンは伸びている男を担いで家の外に投げた。着弾した恐怖に漏らして気絶したらしい。たたき上げではないその情けなさに鼻を鳴らしてもう一発蹴り上げると、あたりを見回した。
「いるか」
 ひと声かけるとさっと軍服の男たちが数人出てきた。誰もがレオンに片膝をついていることにクロエは戸惑った声を上げた。
「えっ?」
「レイス大佐の部下だ。……丁重に扱うように。出所も吐かせて兄上に報告して差し上げろ」
「はっ」
 敬礼を返して男を受け取った彼らはさっと姿を消した。ひとり一度振り返りレオンに目を送ったのにうなずいて見せたレオンは、狐につままれたような顔をしているクロエを振り返って、目を閉じてため息をついた。
「クロエさん」
「あ、はいっ?」
 ナイフ返してと、手を出して受け取ったレオンは鞘にしまってその場に座り込んだ。
「あ、レオンさっ」
 いつものかと、おもってクロエが盥を取りに行こうとするのをレオンは膝立ちになって体を伸ばして腰をさらって捕まえた。
「レオンさん?」
「……」
 後ろからぎゅうと抱き付いてくるレオンにクロエは困ったように振り返って、後ろに手を伸ばして頭を撫でる。腰に回った腕が小刻みに震えていた。なだめるようにその腕をそっと撫でながら硬い髪を感じてクロエは唇をかみしめた。
「ごめんなさい」
 ポツリとつぶやいたクロエにレオンがびくりと震えた。その言葉が、レオンが、クロエの父の部隊に所属し、その死に目に立ち会った生き残りであることに気付いていたことを肯定していると、わかったのだ。
「君は気づいていたのか? だいぶ最初から」
「……ええ。石碑で長時間祈っていた神父様が、軍人で情報をやっていた。っていうのを聞いてまさかと思って、確信したのはリカルド中将のことで……」
「……」
 はあとため息をついたレオンが震えているのに気づいたクロエが体を入れ替えようとしたがそれを拒むように抱く力を強めて、小さな肩に額を預けた。
「貴女のほうが、ずいぶんと辛い思いをしただろうに、とんだ醜態ばかり見せてしまいましたね」
 最初の頃よりも硬い敬語にクロエの肩がびくりと震える。
「レオンさん?」
「……少し考える時間をくれ。少し今混乱している」
 そう言って体を離してクロエに背中を向けたレオンが丘へ歩いていくのに、クロエは立ち上がってついていこうとしたが、ぐっとこぶしを握ってうつむくと立ち止まって家へおとなしく帰るのだった。
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