眠たげな月が沈むころ

真川紅美

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1、ため息が止まらない

4、

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 細かい醜態はぼやかして(一緒にお風呂に入っていたなんて言ったらどんなことになるかわからなかったから言わなかったというのが正解)、酔いつぶれた後皆川さんに拾われて、家にお持ち帰りで介抱してもらって、いろいろな事情を経て彼の家事手伝いをバイトでやることになった。そうかいつまんで話すと優ちゃんはぐびぐびとチューハイを開けながら頬杖をついて呆れたように口を開いた。
「ほんと体のいい家政婦よね。ダメだよそんなことしちゃ」
「優ちゃんそういう言い方はダメだよ」
「でもね」
「お金もきちんと払っているなら、それは家政婦というか、立派なバイトじゃん。知らない男の人にお持ち帰りされた後に家政婦のバイトはさすがにヤバイと思うけど、知っている人だし会社の同僚だったらギリ許容じゃない? 私はやらないけど」
「ちょっとグサッときた」
「優ちゃんよりましでしょ」
「うーん」
「……本当、今日は飲みすぎちゃだめだからね」
「うん」
 じゃあ飲ませないでよ。といつも絡み酒からの飲ませるにシフトする同期に警戒しながら、職場の愚痴とアローンを嘆く悲しい飲み会にシフトしていった。
「ももちゃん、気を確かに」
「やだーかえるー」
「今帰っているから!」
 と、結局飲まされてべろべろになった私はなっちゃん、こと夏樹ちゃんに抱えられて駅まで向かっていた。会社の近くの駅だけれど、会社の人はほとんどいない。残業もこのリモートワーク半日出社でかなり少なくなったという。というかリモートワークの間の残業時間をつけていない説が出ているから人事は躍起になって残業申請しろと呼び掛けている。
「……ん? 百瀬さん?」
 聞きなれた声。前を見ると見慣れたイケメン。夏樹ちゃんの足が一歩止まった。誰がいるのか一瞬わからなくて酔いが回って眠い目を瞬かせた。
「あ、手が早いんだか遅いんだかよくわからない雇用主」
「なんですか、それ。……あー、酔ってますね」
 夏樹ちゃんの良くわからない評価に的確に突っ込んだ後、私を覗き込んで苦笑をした皆川さん。その前に夏樹ちゃんが私を隠すように立ちはだかった。私は夏樹ちゃんの背中にまとわりついていた。
「……ねえ皆川さん」
「ん?」
「本当に手は出してないんだよね?」
 その言葉に瞬きを一つ返して、状況を理解したようにうなずいた彼は大きくため息をついた。
「当たり前です。少なくともこんな状態の女性に手を出すほど僕も相手に困ってないわけじゃないんで。しかも一夜の相手には会社の人はリスクがありすぎますからね。……あの日は本当に誰も彼女の知り合いが近くにいない状態だったから寝ざめが悪くなるのが嫌で連れて帰っただけです」
 信じられないのはわかっていますが、彼女の名誉もあるので。と柔らかくもきっぱりした声でそういった彼に夏樹ちゃんは深くため息をついた。
「……私はそう思っているよ、この状態のももちゃんを放置したら悪い結果しか思いつかないもん」
「……だったら」
 この後の流れが予想できた皆川さんが半身になってすぐに逃げられるように身構えた。草食動物の逃げるかとどまるか判断に迷っているポーズ。
「……私これから予定あるからさ。連れて帰れないの」
「つまり?」
 だからよろしく。と夏樹ちゃんに見放されて皆川さんに渡されて、私はぽけーと見ていた。
「百瀬さん? 意識あります?」
「んー、みながわさーん?」
 それだけはわかったけれどどうしてここに立っているかはわからなくなっていた。
「……クリスマスの時よりはましか。家に帰りますよ」
「はーい」
 深く考えられなくて私は彼の後ろをふにゃふにゃ言いながら駅の改札を抜けて電車に乗った。そこからの記憶はなくなった。
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