35 / 96
腕輪の名
しおりを挟む
「…んっ……」
『ユシルっ!…よかった』
誰かに頭を抱き締められた。
(…この花のような香りはリーシュかな)
「リーシュ…ゴメン……また心配かけちゃって」
『ううん!いいの!生きていてくれただけでいいの』
そこで腕に痛みがない事に気付く。
「あれ…腕…」
『腕はツグミちゃんが治してくれたよ。傷も残ってないから大丈夫。タケミカヅチさんが血だらけのユシルを抱えてきたのを見た時は心臓が止まるかと思ったよ』
「そっか、ゴメン…あのリーシュ?そろそろ離してもらってもいい?」
この会話の間もリーシュは俺の頭を抱き続けていた。
『…嫌』
「え!?…あの」
『いくら油断してたとはいえ、あの羅刹とやり合って生きてるのは奇跡なんだよ?アイツは対峙した相手を全て喰ってきたの』
「羅刹を知ってるのか?」
『ユシルは覚えてない?あたしの神格……あたしは天部十二天の風天……羅刹とは昔の同僚だったの』
(そうだ、だから聞き覚えがあったんだ…というかリーシュと羅刹が同僚? 天部十二天って、どんな組織なんだよ)
「あのさ、天部十二天って何なんだ?」
疑問を口にしたその時だった。
『それは私たちも聞きたいわ!』
ロキがツグミとウズメを連れて入ってきた。
『ローちゃん』
『リーシュ…ずっと聞かずにいたけど、天部十二天って何なの?何で戦場に乱入してくるの?』
今までの神界大戦や大きな戦いには、|必ず天部十二天が乱入してきたそうなのだ。
『答えるから、あたしもローちゃんに聞きたい事があるの』
『…何?』
『ユシルの腕輪、これ…何なの?アンドヴァリナウトって言ってたから、調べてみたんだけど、これは違うよね?外れなくなったり、両腕だったり』
ロキがそれを聞き、何か諦めたように目を伏せる。
『…ごめんなさい、リーシュの言う通り…それはアンドヴァリナウトじゃないわ』
「じゃあ、この腕輪は本当は何なんだ?」
『それは…』
ロキがツグミとウズメを見る。
『ツグミ様、私共は席を外しましょう』
ウズメがツグミを連れて部屋を出ようとする。
『ウズメさんっ!いいの。もうユシルの腕輪が普通の代物じゃないって聞かれちゃったし、天部十二天の話も天照大御神様だけになら、話してもいいとあたしは思ってる。…ローちゃんは隠したい?』
『そうね、ツグミたちに制約の魔法をかけてもいいのなら。ちなみに許可なしにこの話を他人に言ったら死ぬ事になるわ』
ロキが二人を見る。
(そんな制約かけるなんて言ったら、絶対聞かないんじゃないか?そもそも、そんな制約をかけなきゃいけないような代物なのか?)
そう思ったのだが
『…私は…聞きたいです。ロキ様たちが何を抱えているのか。私の…あの…初めての友人…なので…』
ツグミが顔を赤くして俯く。
『私は敵か味方かは聞いた後に考えます。ただ…天照大御神様がマスターとまで仰ぐユシル様の事情は知りたいです。制約は受け入れます』
ハッキリと本音を言うウズメ
(マスターはマスターでも、ラブマスターだけどな)
『なら、いいよね?ローちゃん?…それにユシルの敵はあたしの敵だから』
場に緊張感が漂う。
張り詰めた空気を変える為か、ロキが手を叩く。
『リーシュ、ツグミが泣きそうよ。やめてちょうだい。リーシュの話にも制約はかけるから』
リーシュが俺の頭を布団に下ろした。
『わかった。それでいいよ。じゃあ、あたしの話からだね。天部十二天っていうのは……治安維持組織なの』
『…治安維持?戦場に乱入してくるのに?』
『天部のトップである釈迦はね、神界での絶えない争いにずっと心を痛めていたの。人の身から神になって神界を見て回ったら争いばかりで神の世界でも争いはなくならないのかって。でも、釈迦だけでは争いを止める事は出来なかった。だから釈迦は作ったのよ。争いを武力で止める為の組織。争いの嫌いな釈迦が作った矛盾した組織…それが[天部十二天]という組織なの』
『確かに矛盾ね。でも…確かに十二天が参戦し始めて戦場が減ったのよね。負傷者と死者は増えたけど』
『十二天の目的は戦場に水を差すこと。ゲリラ的に参戦して両軍に被害を与えて争う意欲を奪ったり、争っていたはずの両軍が手を組むように両軍の共通の敵になること。だから、前の神界大戦の時はそれぞれエリアを決めて各戦場に参戦したの』
『私と初めて会った時ね。それ以降大きな争いがないから、監視も含めてリーシュはアルフヘイムに住んでたって事?』
『そうだよ。今はもう十二天として仕事をする気はないけどね』
『リーシュと敵にならなければ何でもいいわ。で、十二天はどうやって集められたの?』
『釈迦が一人ひとり声をかけたんだよ。十二天の中にはあたしみたいに釈迦の考えに賛同して、それで争いがなくなるのならって参加する人もいるし、とにかく戦いたい…殺し合いがしたい…って人もいたの。羅刹もその1人』
『そんな奴を釈迦は十二天に誘ったの?おかしくない?』
『今考えるとおかしかったのかもしれない。だって十二天の参加条件は他の神を圧倒できるくらいの力を持つ事。一人で神界の争いに混ざっても勝ち抜けるくらいの実力がなきゃ意味がないって言ってた』
『リーシュクラスがあと11人もいるってこと?しかも、まだ現役の』
『そうゆう事になるね。十二天同士の喧嘩は御法度だったから、誰が強いとかはわからないんだけどね。羅刹が十二天を辞めたのは初耳』
(そんな組織だったのか。リーシュが強いわけだ)
『名前は知っていましたが、そのような組織だったとは知りもしませんでした』
ツグミが呟く。ウズメも似たような感想のようだが
『争いを止めるために争いに参加させる。矛盾以外の何物でもありませんね。結果が出ているだけにたちが悪い』
いくら釈迦という人物が争いが嫌いでも、他にやり方は有りそうな気がした。いろんな事情があるのだろうが。
『十二天については大体わかったわ。それじゃあ、次は私が話すわ…ユシル?』
「ん?何だ、ロキ?」
『あんたの腕輪を使った感想は?』
俺は天井を眺めながら答える。
「感想…急に手甲になって、その手甲を使ってみた感想なんだけど。この手甲、結界とか障壁を紙みたいに突き抜けるんだよ。今までダメージの通らない相手に手甲を使ったら、使った直後からダメージが入る。障壁無視というか、魔力を纏わない状態で」
皆が静かに聞いているので、少し恥ずかしい。
「あの…以上です」
・・・
『あんた馬鹿なの?それしか感想ないの?しかも、それ感想じゃなくてただの状況説明じゃない!』
「だって、いきなり話振られても」
『あんたに聞いた私が馬鹿だったわ。私が説明するわ。この腕輪はね』
ロキは皆に俺とロキでユグドラシルの頂上での出来事を説明した。最初は剣であったこと…ユグドラシルに預けていた事、ヴィゾーヴニルを倒したこと、もちろん、俺がユグドラシルから力と意思を受け継いだ事も含めて
『ヴィゾーヴニル…あれは倒せない魔獣だと聞いていましたが?』
ウズメが聞いてくる。
『倒せないと言うより、倒すのが物凄く難しいって方が合ってるわね。けど、あの剣は倒せるのよ。腕輪になったり、手甲になったりしても本質は変わらないの』
『ローちゃん、そんなものどこで手に入れたの?』
『手に入れた。いえ作ったのよ、私が。正確には出来てしまったでしょうね。ルーン魔法というのは知ってる?』
『ルーン魔法?ルーン文字を使った魔法?』
リーシュが答える。
『まぁ、その解釈で合ってるわ。正確にはルーン文字を魔法の呪文に変換して使う魔法よ。まぁ、私の研究成果というか、私はそれができるの。そして、そのルーン魔法は威力が絶大だった。恐ろしいくらいに魔力持ってかれるけどね』
「そのルーン魔法とこの腕輪は何か関係あるのか?」
ロキが呆れた顔で俺を見ながら
『当たり前でしょ?だから、説明してんじゃない。ちょっと黙ってなさいよ。…オホンッ、続けるわ。私はある日いつもの街の住民たちの態度に本当に嫌気がさした時があったの。思い出したくないくらい酷かったわ。だから、ニブルヘイムの門の前でルーン魔法をアースガルドにブチ込んでやろうと思ったの。1日分の魔力つぎ込めば結構な被害は出るはずだし。で、そのままニブルヘイムで生きていこうって、そう思ってルーン魔法を発動しようとしたら私、あの日はうっかりしていたわ。1万年分の魔力を溜めた指輪をその日に限ってつけていたの。ルーン魔法を止めようとしたけど、間に合わなかった。指輪の魔力がすべてルーン魔法発動用として奪われていて、焦ったわ。1万年分よ?アースガルドなんて跡形もなく吹き飛ぶわ。さすがにそこまではしたくなかった。だから、発動が止められないならと思って攻撃魔法からクリエイト魔法に変更したの。ルーン魔法を使ったクリエイト魔法…しかも1万年分の魔力で。それでできたのがこの腕輪。前は剣だったけれど。私は剣を見てガッカリしたわ。だって1万年分の私の魔力の結晶がただの剣なのよ?…だから、ちゃんと調べもせず下界ミドガルドに捨てたの。しばらくして剣の行方を調べたら大変な事になってたわ。あんたも知ってるキリスト…バルドルの顕現してる時の名ね。そのキリストを刺した槍になってたんだから』
「それって確かロンギヌスの槍だっけ?」
『そうよ。まぁ、ロンギヌスは私の捨てた剣を拾った奴の名前だけどね…。あのバルドルが剣1本に、ただの人間にやられたのよ?慌てて回収したわよ。で、知らぬ存ぜぬで隠してたんだけど、いなくなるの。隠し場所を見るといつの間にか無くなってるの。毎回探して見つけ出してたんだけど、さすがにおかしいと思って、封印する事にしたの。誰にも見つからないようにって場所を探したらユグドラシルの頂上が頭をよぎったの。よく一人でユグドラシルに会いに言ってたから…まぁ、会話はできないんだけど、通じる意思があるというか。それでこの剣を預かってくれないかってユグドラシルにお願いしたのよ。そして、守護用にヴィゾーヴニルを置いてきたの。なのに、あんたがユグドラシルから全部もらっちゃうから、あのよくわからないヤバイ剣の封印が解けちゃってると思って取りに行ったの。あんたから外れなくなった時にまた封印したのに、何故か今はその封印もなくなってるし』
・・・
『そんなのがユシルに』
『ごめんなさい。あの腕輪は存在自体がヤバイ代物なの。ユシルの話やヴィゾーヴニルの事を考えるとこの腕輪には神殺しと障壁破壊がすでにあるという事になるわ。それも制作者の私の制御できないレベルのね。それが神界中に知れたらどうなると思う?あのバルドルを人間が殺せる神器よ。神界の者が使えば主神すら屠れるかもしれない。ユシルの両腕切り落として持っていくなんて良い方よ。きっと、戦争が起こるわ。だから、言えなかったの』
『この話は私とツグミ様は聞かない方がよかったですね。いつかその腕輪で確実に戦が起こるでしょう』
「だから、俺に強くなれって言ってたのか。でも、外れなくなったのはロキのせいじゃないしな」
『しょうがないね。あたしが守るから、ユシルは何も心配しなくていいよ』
「いや!もう守られ続けるのは嫌なんだ!リーシュもロキもツグミも皆…俺が守ってあげられるようになりたいんだ!」
そう、もう守られてばかりは嫌だった。心配もかけたくない。この腕輪はある意味チャンスなのだ。
「俺はこの腕輪を使いこなす。羅刹が言っていた、大きな戦の前だと。俺は誰も失いたくない!」
『ユシル?それはあたしたちも同じなんだよ?でも、しょうがないよね。ずっと守ってあげたかったけど…男の子だもんね。あたしは応援するよ。強くなるまでは守られていてね♪』
『わ、私は別にあんたの事なんてどうでもいいんだけどね?まぁ…特別に手伝ってあげるわ』
『…あの…私も協力させてください!』
『もう関わってしまったのでしょうがありませんね。協力しましょう』
ツグミとウズメも協力してくれるようだ。
「ありがとう、皆!頑張って使いこなしてみせる。ロキ、この腕輪なんて名前なんだ?」
『は?あんたわかってないの?ミドガルドの北欧神話にも出てくるでしょう?』
「いや、北欧神話とかよく知らないし、俺は日本人だし」
『馬鹿がいると説明ばかりで疲れるわね。その腕輪は…』
ミドガルドの北欧神話でそれは
かつてロンギヌスの槍と呼ばれ
かつてミストルティンと呼ばれ
かつてフレイの勝利の剣と呼ばれ
唯一ヴィゾーヴニルを倒す事ができると吟われたモノ。
その名は…
『レーヴァテインよ。覚えておきなさい』
『ユシルっ!…よかった』
誰かに頭を抱き締められた。
(…この花のような香りはリーシュかな)
「リーシュ…ゴメン……また心配かけちゃって」
『ううん!いいの!生きていてくれただけでいいの』
そこで腕に痛みがない事に気付く。
「あれ…腕…」
『腕はツグミちゃんが治してくれたよ。傷も残ってないから大丈夫。タケミカヅチさんが血だらけのユシルを抱えてきたのを見た時は心臓が止まるかと思ったよ』
「そっか、ゴメン…あのリーシュ?そろそろ離してもらってもいい?」
この会話の間もリーシュは俺の頭を抱き続けていた。
『…嫌』
「え!?…あの」
『いくら油断してたとはいえ、あの羅刹とやり合って生きてるのは奇跡なんだよ?アイツは対峙した相手を全て喰ってきたの』
「羅刹を知ってるのか?」
『ユシルは覚えてない?あたしの神格……あたしは天部十二天の風天……羅刹とは昔の同僚だったの』
(そうだ、だから聞き覚えがあったんだ…というかリーシュと羅刹が同僚? 天部十二天って、どんな組織なんだよ)
「あのさ、天部十二天って何なんだ?」
疑問を口にしたその時だった。
『それは私たちも聞きたいわ!』
ロキがツグミとウズメを連れて入ってきた。
『ローちゃん』
『リーシュ…ずっと聞かずにいたけど、天部十二天って何なの?何で戦場に乱入してくるの?』
今までの神界大戦や大きな戦いには、|必ず天部十二天が乱入してきたそうなのだ。
『答えるから、あたしもローちゃんに聞きたい事があるの』
『…何?』
『ユシルの腕輪、これ…何なの?アンドヴァリナウトって言ってたから、調べてみたんだけど、これは違うよね?外れなくなったり、両腕だったり』
ロキがそれを聞き、何か諦めたように目を伏せる。
『…ごめんなさい、リーシュの言う通り…それはアンドヴァリナウトじゃないわ』
「じゃあ、この腕輪は本当は何なんだ?」
『それは…』
ロキがツグミとウズメを見る。
『ツグミ様、私共は席を外しましょう』
ウズメがツグミを連れて部屋を出ようとする。
『ウズメさんっ!いいの。もうユシルの腕輪が普通の代物じゃないって聞かれちゃったし、天部十二天の話も天照大御神様だけになら、話してもいいとあたしは思ってる。…ローちゃんは隠したい?』
『そうね、ツグミたちに制約の魔法をかけてもいいのなら。ちなみに許可なしにこの話を他人に言ったら死ぬ事になるわ』
ロキが二人を見る。
(そんな制約かけるなんて言ったら、絶対聞かないんじゃないか?そもそも、そんな制約をかけなきゃいけないような代物なのか?)
そう思ったのだが
『…私は…聞きたいです。ロキ様たちが何を抱えているのか。私の…あの…初めての友人…なので…』
ツグミが顔を赤くして俯く。
『私は敵か味方かは聞いた後に考えます。ただ…天照大御神様がマスターとまで仰ぐユシル様の事情は知りたいです。制約は受け入れます』
ハッキリと本音を言うウズメ
(マスターはマスターでも、ラブマスターだけどな)
『なら、いいよね?ローちゃん?…それにユシルの敵はあたしの敵だから』
場に緊張感が漂う。
張り詰めた空気を変える為か、ロキが手を叩く。
『リーシュ、ツグミが泣きそうよ。やめてちょうだい。リーシュの話にも制約はかけるから』
リーシュが俺の頭を布団に下ろした。
『わかった。それでいいよ。じゃあ、あたしの話からだね。天部十二天っていうのは……治安維持組織なの』
『…治安維持?戦場に乱入してくるのに?』
『天部のトップである釈迦はね、神界での絶えない争いにずっと心を痛めていたの。人の身から神になって神界を見て回ったら争いばかりで神の世界でも争いはなくならないのかって。でも、釈迦だけでは争いを止める事は出来なかった。だから釈迦は作ったのよ。争いを武力で止める為の組織。争いの嫌いな釈迦が作った矛盾した組織…それが[天部十二天]という組織なの』
『確かに矛盾ね。でも…確かに十二天が参戦し始めて戦場が減ったのよね。負傷者と死者は増えたけど』
『十二天の目的は戦場に水を差すこと。ゲリラ的に参戦して両軍に被害を与えて争う意欲を奪ったり、争っていたはずの両軍が手を組むように両軍の共通の敵になること。だから、前の神界大戦の時はそれぞれエリアを決めて各戦場に参戦したの』
『私と初めて会った時ね。それ以降大きな争いがないから、監視も含めてリーシュはアルフヘイムに住んでたって事?』
『そうだよ。今はもう十二天として仕事をする気はないけどね』
『リーシュと敵にならなければ何でもいいわ。で、十二天はどうやって集められたの?』
『釈迦が一人ひとり声をかけたんだよ。十二天の中にはあたしみたいに釈迦の考えに賛同して、それで争いがなくなるのならって参加する人もいるし、とにかく戦いたい…殺し合いがしたい…って人もいたの。羅刹もその1人』
『そんな奴を釈迦は十二天に誘ったの?おかしくない?』
『今考えるとおかしかったのかもしれない。だって十二天の参加条件は他の神を圧倒できるくらいの力を持つ事。一人で神界の争いに混ざっても勝ち抜けるくらいの実力がなきゃ意味がないって言ってた』
『リーシュクラスがあと11人もいるってこと?しかも、まだ現役の』
『そうゆう事になるね。十二天同士の喧嘩は御法度だったから、誰が強いとかはわからないんだけどね。羅刹が十二天を辞めたのは初耳』
(そんな組織だったのか。リーシュが強いわけだ)
『名前は知っていましたが、そのような組織だったとは知りもしませんでした』
ツグミが呟く。ウズメも似たような感想のようだが
『争いを止めるために争いに参加させる。矛盾以外の何物でもありませんね。結果が出ているだけにたちが悪い』
いくら釈迦という人物が争いが嫌いでも、他にやり方は有りそうな気がした。いろんな事情があるのだろうが。
『十二天については大体わかったわ。それじゃあ、次は私が話すわ…ユシル?』
「ん?何だ、ロキ?」
『あんたの腕輪を使った感想は?』
俺は天井を眺めながら答える。
「感想…急に手甲になって、その手甲を使ってみた感想なんだけど。この手甲、結界とか障壁を紙みたいに突き抜けるんだよ。今までダメージの通らない相手に手甲を使ったら、使った直後からダメージが入る。障壁無視というか、魔力を纏わない状態で」
皆が静かに聞いているので、少し恥ずかしい。
「あの…以上です」
・・・
『あんた馬鹿なの?それしか感想ないの?しかも、それ感想じゃなくてただの状況説明じゃない!』
「だって、いきなり話振られても」
『あんたに聞いた私が馬鹿だったわ。私が説明するわ。この腕輪はね』
ロキは皆に俺とロキでユグドラシルの頂上での出来事を説明した。最初は剣であったこと…ユグドラシルに預けていた事、ヴィゾーヴニルを倒したこと、もちろん、俺がユグドラシルから力と意思を受け継いだ事も含めて
『ヴィゾーヴニル…あれは倒せない魔獣だと聞いていましたが?』
ウズメが聞いてくる。
『倒せないと言うより、倒すのが物凄く難しいって方が合ってるわね。けど、あの剣は倒せるのよ。腕輪になったり、手甲になったりしても本質は変わらないの』
『ローちゃん、そんなものどこで手に入れたの?』
『手に入れた。いえ作ったのよ、私が。正確には出来てしまったでしょうね。ルーン魔法というのは知ってる?』
『ルーン魔法?ルーン文字を使った魔法?』
リーシュが答える。
『まぁ、その解釈で合ってるわ。正確にはルーン文字を魔法の呪文に変換して使う魔法よ。まぁ、私の研究成果というか、私はそれができるの。そして、そのルーン魔法は威力が絶大だった。恐ろしいくらいに魔力持ってかれるけどね』
「そのルーン魔法とこの腕輪は何か関係あるのか?」
ロキが呆れた顔で俺を見ながら
『当たり前でしょ?だから、説明してんじゃない。ちょっと黙ってなさいよ。…オホンッ、続けるわ。私はある日いつもの街の住民たちの態度に本当に嫌気がさした時があったの。思い出したくないくらい酷かったわ。だから、ニブルヘイムの門の前でルーン魔法をアースガルドにブチ込んでやろうと思ったの。1日分の魔力つぎ込めば結構な被害は出るはずだし。で、そのままニブルヘイムで生きていこうって、そう思ってルーン魔法を発動しようとしたら私、あの日はうっかりしていたわ。1万年分の魔力を溜めた指輪をその日に限ってつけていたの。ルーン魔法を止めようとしたけど、間に合わなかった。指輪の魔力がすべてルーン魔法発動用として奪われていて、焦ったわ。1万年分よ?アースガルドなんて跡形もなく吹き飛ぶわ。さすがにそこまではしたくなかった。だから、発動が止められないならと思って攻撃魔法からクリエイト魔法に変更したの。ルーン魔法を使ったクリエイト魔法…しかも1万年分の魔力で。それでできたのがこの腕輪。前は剣だったけれど。私は剣を見てガッカリしたわ。だって1万年分の私の魔力の結晶がただの剣なのよ?…だから、ちゃんと調べもせず下界ミドガルドに捨てたの。しばらくして剣の行方を調べたら大変な事になってたわ。あんたも知ってるキリスト…バルドルの顕現してる時の名ね。そのキリストを刺した槍になってたんだから』
「それって確かロンギヌスの槍だっけ?」
『そうよ。まぁ、ロンギヌスは私の捨てた剣を拾った奴の名前だけどね…。あのバルドルが剣1本に、ただの人間にやられたのよ?慌てて回収したわよ。で、知らぬ存ぜぬで隠してたんだけど、いなくなるの。隠し場所を見るといつの間にか無くなってるの。毎回探して見つけ出してたんだけど、さすがにおかしいと思って、封印する事にしたの。誰にも見つからないようにって場所を探したらユグドラシルの頂上が頭をよぎったの。よく一人でユグドラシルに会いに言ってたから…まぁ、会話はできないんだけど、通じる意思があるというか。それでこの剣を預かってくれないかってユグドラシルにお願いしたのよ。そして、守護用にヴィゾーヴニルを置いてきたの。なのに、あんたがユグドラシルから全部もらっちゃうから、あのよくわからないヤバイ剣の封印が解けちゃってると思って取りに行ったの。あんたから外れなくなった時にまた封印したのに、何故か今はその封印もなくなってるし』
・・・
『そんなのがユシルに』
『ごめんなさい。あの腕輪は存在自体がヤバイ代物なの。ユシルの話やヴィゾーヴニルの事を考えるとこの腕輪には神殺しと障壁破壊がすでにあるという事になるわ。それも制作者の私の制御できないレベルのね。それが神界中に知れたらどうなると思う?あのバルドルを人間が殺せる神器よ。神界の者が使えば主神すら屠れるかもしれない。ユシルの両腕切り落として持っていくなんて良い方よ。きっと、戦争が起こるわ。だから、言えなかったの』
『この話は私とツグミ様は聞かない方がよかったですね。いつかその腕輪で確実に戦が起こるでしょう』
「だから、俺に強くなれって言ってたのか。でも、外れなくなったのはロキのせいじゃないしな」
『しょうがないね。あたしが守るから、ユシルは何も心配しなくていいよ』
「いや!もう守られ続けるのは嫌なんだ!リーシュもロキもツグミも皆…俺が守ってあげられるようになりたいんだ!」
そう、もう守られてばかりは嫌だった。心配もかけたくない。この腕輪はある意味チャンスなのだ。
「俺はこの腕輪を使いこなす。羅刹が言っていた、大きな戦の前だと。俺は誰も失いたくない!」
『ユシル?それはあたしたちも同じなんだよ?でも、しょうがないよね。ずっと守ってあげたかったけど…男の子だもんね。あたしは応援するよ。強くなるまでは守られていてね♪』
『わ、私は別にあんたの事なんてどうでもいいんだけどね?まぁ…特別に手伝ってあげるわ』
『…あの…私も協力させてください!』
『もう関わってしまったのでしょうがありませんね。協力しましょう』
ツグミとウズメも協力してくれるようだ。
「ありがとう、皆!頑張って使いこなしてみせる。ロキ、この腕輪なんて名前なんだ?」
『は?あんたわかってないの?ミドガルドの北欧神話にも出てくるでしょう?』
「いや、北欧神話とかよく知らないし、俺は日本人だし」
『馬鹿がいると説明ばかりで疲れるわね。その腕輪は…』
ミドガルドの北欧神話でそれは
かつてロンギヌスの槍と呼ばれ
かつてミストルティンと呼ばれ
かつてフレイの勝利の剣と呼ばれ
唯一ヴィゾーヴニルを倒す事ができると吟われたモノ。
その名は…
『レーヴァテインよ。覚えておきなさい』
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
ブスを粗末にするな!~顔だけ美人のイジメ主犯格に旦那を寝取られ、復讐に燃える元妻
青の雀
恋愛
人生で最高とも思える運命の相手と結婚しておきながら、その相手を高校時代、さんざん虐めていた美人同級生に誑かされ、浮気、不倫離婚をした夫が転落していくという話。
同時にイジメの張本人も元妻から強烈な仕返しが待っていた。
元妻は元夫から、慰謝料として貯金、不動産を貰い、第2の人生を歩む前にひき逃げにより死亡してしまう。
次に転生したカラダは、絶世の美女としてリアルタイムに略奪婚をした相手と対峙し、復讐を果たすという話にする予定。
肉体ブティックに入れようかと思ったけど、長くなるかもしれないので、別建てにしました。
フリーターは少女とともに
マグローK
キャラ文芸
フリーターが少女を自らの祖父のもとまで届ける話
この作品は
カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891574028)、
小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4627fu/)、
pixiv(https://www.pixiv.net/novel/series/1194036)にも掲載しています。
オリジナル楽曲演るためであって恋愛なんて妄想するしかなかった高校生ベーシストの
藤森馨髏 (ふじもりけいろ)
恋愛
高校生四人組が、先輩に作ってもらったオリジナル曲。うちのバンドボーカルのミリアは男の娘で、歌詞をいろいろ作り替えようとする。そのうち先輩の友人で歌の上手い年上OLと知り合って……🎵
わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますの。
みこと。
恋愛
義妹レジーナの策略によって顔に大火傷を負い、王太子との婚約が成らなかったクリスティナの元に、一匹の黒ヘビが訪れる。
「オレと契約したら、アンタの姿を元に戻してやる。その代わり、アンタの魂はオレのものだ」
クリスティナはヘビの言葉に頷いた。
いま、王太子の婚約相手は義妹のレジーナ。しかしクリスティナには、どうしても王太子妃になりたい理由があった。
ヘビとの契約で肌が治ったクリスティナは、義妹の婚約相手を誘惑するため、完璧に装いを整えて夜会に乗り込む。
「わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますわ!!」
クリスティナの思惑は成功するのか。凡愚と噂の王太子は、一体誰に味方するのか。レジーナの罪は裁かれるのか。
そしてクリスティナの魂は、どうなるの?
全7話完結、ちょっぴりダークなファンタジーをお楽しみください。
※同タイトルを他サイトにも掲載しています。
片思いに未練があるのは、私だけになりそうです
珠宮さくら
青春
髙村心陽は、双子の片割れである姉の心音より、先に初恋をした。
その相手は、幼なじみの男の子で、姉の初恋の相手は彼のお兄さんだった。
姉の初恋は、姉自身が見事なまでにぶち壊したが、その初恋の相手の人生までも狂わせるとは思いもしなかった。
そんな心陽の初恋も、片思いが続くことになるのだが……。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私と彼の夏休み~あと15センチ近付きたい
松林 松茸
恋愛
夏休み中、私は同じクラスで同じバイト先の〝近藤 祐樹君″が大好き! 私は思い切って夏祭りに誘ったらOKされた。 私の女子力で虜にしてやる…はずだったのに… 数々の敵が私の女子力を下げていく…このままでは… 果たして2人は結ばれるのか?
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる