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羅刹

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 その男はゆっくりと立ち上がった。


「ユシルっ!鬼神とは戦うな!昔、2回ほど鬼神が現れた時は高天原に住む八百万の神のうち4分の1が食われたんだ!頼む、逃げてくれ!」


「それは無理だな。確かにヤバそうだけど、さっきまで狩ってた鬼の派生だろ?…とりあえず、ぶっ飛ばして逃げる」



「だから!鬼神は別格なんだって!」


≪貴様ら、何の勘違いだ?あんな黄泉の魔物と同格とは。我も地に墜ちたものだ≫



「は!?じゃあ、お前は何なんすか!!鬼神じゃないなら何で神喰いなんてやってんすか!!」


≪大きな戦の前だ。力を蓄えるのは当たり前だろう?喰われる前に教えてやる。我が名は[羅刹]その身に刻んで死んでゆけ≫


 男の名前を聞いた瞬間、ニニギが反応する。


「…羅刹?天部十二天の羅刹天すか!?」


(天部十二天?なんか聞いたことがあるような)


≪ほぅ…懐かしい。そんな名で呼ばれていた時もあったか。まぁ、元だがな≫


「そんなっ!羅刹天は仏教徒の護法善神じゃないすか!何で…」


≪今はこれが我だ、死ね≫


 羅刹が掌をニニギに向け魔力弾を放った。



 バシンッ!!…ドゴーーン!!



 少し離れたところで爆発が起こる…俺が羅刹の魔力弾を弾いたからだ。


≪ん?≫


 俺はニニギの前に立ち、腕を軽く上げ構えた。


≪ほぅ、我に抗うと? 珍しい者もいたものだ≫


「…お前なんか知るかよ。俺は自分の出来ることをするだけだ。(ニニギ、歩けなくていいから、いつでも立てるようにしておいてくれ…合図するから)」


「(え?…わかった…)」


 小声でニニギに伝えた。


 格上なのは承知の上。チャンスは、スキル[暗夜之礫]の必中とクリティカル効果が発動する初撃


(初撃を入れて逃げる!)


≪なら共に死ね≫


 キュンッ!キュキュンッ! 


 魔力弾が高速で飛んでくる。


 バシンッ、パパシンッ!


 俺は拳と蹴りで弾く。


(この程度なら…)


≪珍しい戦い方をするな。だが…神器を使わずして我に傷を負わせるのは難しいぞ?≫


「お前に勝つのが目的じゃねぇんだよ!」




 思いきり踏み込み、羅刹と距離を詰める。羅刹が眼前で魔力弾を放とうとした瞬間に俺はスキル[疾風迅雷]を使用し、羅刹の目の前から消える。




≪何!?≫




 そう言葉を発した時には俺はすでに羅刹の脇腹に拳を放っていた。



「爆炎撃っ!」



 パリンッ!



 必中にクリティカル効果…そして、爆炎撃…防御障壁も破壊した感触があった。生じる爆発を利用して羅刹から距離を取る。


「来いっ!ニニギ!!」


 凄まじい爆風の中、俺はニニギを脇に抱え走り出した。



「スッゲェな、ユシル!魔力弾弾いたと思ったら羅刹に向かって行くし、途中で消えるし、ヤバイ威力の攻撃するし…マジ何者?」



「…それは俺も知らん」



 そんな冗談を言えるほどに油断していた。


 あの威力で障壁も破ったのだ。それは当然の事だった。



 ふと嫌な気配がして俺は横に飛んだ。




 ザザザッ!!ドドドドスッ!!




「くっ!」


 直感を信じて正解だった。今まで俺たちがいた場所には剣山のように枝分かれした槍が突き刺さっていた。避けなければ
 全身を串刺しにされていただろう。


「あっぶね~…もしかしてアイツ、生きてる?」



≪あの程度で我をどうにかできるわけがないだろう。だが褒めてやろう。今のはなかなか面白かったぞ?障壁を破って油断したようだが上位神同士の本来の戦いはわざと・・・破れるように薄い障壁を張っておくのが普通だ≫



 土煙の中から現れたのは無傷の羅刹だった。


「そんなっ!…無傷!?」


 暗夜之礫は発動していたはずだ。今の俺の最高威力は初撃が1番高いはずだった。



「…ユシル、もう無理だ。頼むから俺ッチを置いて逃げてくれ!」


 ニニギが言う。


「だからっ!それはできないって言っただろうが!」



≪…もうよい。死ね≫


 俺はニニギを放り投げ、魔力を前面に張る。



 ガツッ!!…ガーーーン!!



 羅刹の槍の一撃に俺は弾き飛ばされ、近くの岩壁に叩きつけられた。


「ゴフッ…」


 口から鉄の味がし、体から力が抜ける。


「ユシルっ!!」


 ニニギの悲痛な叫び声が聞こえた。


≪容易い。神器がない時点で結果は見えているだろうに≫


 ガシッ…


「ぐぁぁぁ…」


 ニニギの髪を掴み持ち上げる羅刹



≪貴様から喰ってやろう。我の糧となれるのだ。名誉だと思って自分の運命を受け入れろ≫



 羅刹が大きく口を開き、ニニギの首に噛みつこうとしていた。


(…くっ……ニニギ!)


「…[風刃]!」


 キンッ!


 小さな風の刃が喰おうとしていた羅刹の顔付近の障壁に当たって弾かれた…


≪…往生際が悪い。邪魔するなら貴様からだ≫




 羅刹はニニギを投げ捨て俺の方へ歩いてきた。そして、俺の髪を掴み持ち上げる。



「…くぁっ…」



 呻き声が漏れる。



(…どうする。どうしたらこの状況を打開できる。神器のない俺じゃ羅刹はどうにもできないのか?せめて何か神器を持っていれば)


≪貴様の道はここで途絶える。我と遭遇した運命を呪え≫


 羅刹が大きく口を開く。



(…もう…無理なのか。せっかく転生して友達もできたのに、もう終わるのか?リーシュ…ロキ…ゴメン…)








 ~人に流されるな…坊主の道は坊主だけのもんだ~







 オーディンに言われた言葉が頭の中に響いた。


(そんな事言われた時もあったな、おっさん。真面目な顔してたよな)







 ~嫌いでもいいから、少しは信用してよ!!~



 ロキに言われた言葉が響く。


(ロキにはこんなこと言われたっけ。信用どころか、結構好きだけどな…お前の事)







 ~あなたが死ぬなんて、あたしが許さない~



 リーシュの言葉が響く。


(リーシュ…いつも俺の味方をしてくれて…いつも優しくて、いつも心配してくれて、俺が死んだら悲しむ…よな……皆に悲しい顔させたくない)




 まだ一ヶ月程の転生だったがいろんな事があった。


 いろんな人と出会ったし、前世ではできない事もたくさんさせてもらった。





 ~好きに生きろ~






 ・・・







「…ぁぁあぁぁぁあ~!!」



 俺は全身に全力で魔力を流した。



(…運命?俺の道は途絶える?
何でお前に決められなきゃいけないんだ?
俺だけの道だ……俺が決める!!
何でもいい!生きられるなら何でもいい!!
無様に逃げても…例え傷だらけになっても、皆を悲しませたくないんだ。
だから俺は命が尽きるその瞬間まで諦めない!何とかしたい!絶対に…生きたい!!)




 キィーーーーーン…




 それは偶然だったのか…




 それとも必然だったのか…




 はたまた運命だったのか…




 ユシルの強い意思…願いを叶えるためにスキル[精神一到]が選んだ答え。



 それは足が速くなるわけではなく




 力が強くなるわけでもなく




 必殺技が生まれるわけでもなかった。








 ユシルの願いは生きること。



 今のこの状況を打開する事ではない。



 ただ…ただ…これから先も生きていく事。



 それがユシルの願望だった。





 そして、[精神一到]はその願いをユシルが思いもしない形で叶える。




 キィーーーーーン…



 腕輪が光だし…紫色の読めない文字が腕輪の周りを回る。



 そして、その紫色の文字が次第に薄く透明になっていき、やがて消え去った。





 …シャコン!カシャッ!!




≪何だそれは!?≫




 俺がうっすら目を開けると…ヴィゾーヴニルを倒した時に出現した銀色の手甲が両腕に装着されていた。



(何でもいい!足掻く!)



「…あぁぁぁぁ!!」



 俺は吊り上げられながらも、思いきり羅刹を殴り付けた。



 バシュンッ!!…ドゴーーン!!



 障壁を易々と手甲は貫通し、羅刹を殴り飛ばした。



「…ゲホッ!…エホッ!…何なんだ、この腕輪」







 スキル[精神一到]がユシルの願いに対しての答え







 それは腕輪の封印を解くこと。ただそれだけだった。



   
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