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パンドラの箱

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『何、ボーとしてんのよ?着いたわよ』


 言われて気付く。なんかものすごい恐怖を味わった気がするが、実はあまり記憶がない。

 世界樹の頂上に行く言われて着いた場所は、周囲を木で囲われた広場のようなところだった。木が鬱蒼としていて、自然豊かなはずなのに、何故かとても殺風景に感じた。俺は周囲を見渡しながら呟く。


「なんか殺風景なところだな。何だろう…ただ在《あ》るだけというか…」


『そりゃそうでしょ。ユグドラシルはあんたに全部譲ったんだから。…ここはもう生きてないの。意志がないから、抜け殻みたいなものよ。まさか本当に予言を信じてるとは思わなかったわ。誰から聞いたのかしら』


「予言?」


『ユグドラシルが言ってたでしょ?ヘドニグに根を喰われて、ラグナロクで焼かれるだけだって。あれはミドガルドの予言なのよ。出所はわからないんだけどね。予言通りなら、全部私が悪い事になるじゃない…』


「ん?よくわからないんだけど…」


『今はわからなくてもいいわ。さて、さっきは弱っちいあんたのために、耐寒、耐風、耐衝撃のシールド張ってあげてたから魔力使いすぎたわ。さっさと用事済ませるわよっ!』


(なんか知らんが気を遣わせたみたいだな。そんなにリーシュが怖いのかよ…)


 ロキが広場の端の方へ走って行く。


「あ、おいっ!…ったく、説明くらいしろよな」


 俺も呆れながらもロキを追いかけた。ロキは広場の端にある石碑の前に立っていた。そして、小さな声で…


『…もうあなたはここにはいないのよね。あなたに預けていた物、返してもらうわ…』


 ロキが石碑に手をかざす。紫色の魔力がロキの手から石碑に流れていくのが見えた。



 パシィ!ブワッ!



 何かが弾ける音がして、水蒸気のようなものに石碑が包まれ、しばらくすると


「…剣?」

 石碑に美しい銀色の剣が突き立っていた。
 ロキは俺の言葉を無視し、剣を指差した。


『これを引き抜きなさい。ユグドラシルの意志を受け継いでいるのなら抜けるはずよ…』


(これ、ゲームとかでいう聖剣みたいなものか?これを抜いたら俺も勇者…なんて)


 ジーっとこちらを見ていたロキが俺の心を読んだかのように言う。


『…はぁ~…あんたが考えてるような生易しい物じゃないわよ?言ったでしょ?パンドラの箱だって…もちろんそれは言い回しであって、オリンポスの本物ではないわ。下手したらそれよりヤバイけど…』


「そんな物に触るのかよ。避けて通りたいんだが…」

『ダメよ。これを今、安全に抜けるのはあんたしかいないの。ユグドラシルから意志と力を継いだあんただけ…』


「…わかったよ。とりあえずやってみる」


 俺は美しい剣の装飾のされた柄を握り、力いっぱいに引き抜こうと引っ張った。



 ・・・・・



(ビクともしないだけど…もう一度っ!)


「ふぬっ!」




 ・・・・・





 ・・・・・



「おいっ!全然抜けないぞ!?」


『はぁ?そんなわけないでしょ?触れてるじゃない。本当は触れるのすらキツいんだから。もっと本気でやれ、カス』



「カスって言うなっ!やってやるよっ!!」


 俺は魔力を体に通し、剣を引っ張る。



 ・・・


 更に魔力を通し、引っ張る。


 ・・・



「ォォオォォ…」



 ほぼ全力に近い魔力を通し、拳にも魔力を込めて引っ張った。


 ・・・


 ・・・


 ・・・ズズッ…


(おぉっ!…え?)



 キィーーーン…



 剣が光り始めた…俺は眩しさに目を閉じてしまった。
 なんだが、俺の魔力が剣に流れ込んでいる気がした。


 キィーーーン…



『…しまったっ!!今すぐ魔力を止めなさいっ!』


 キィーーーーーーンッ!


 魔力を止めようとしてもどんどん剣に吸われていて止めようがないし、自力で手を離せなくなっていた。


「おいっ!魔力吸われてて、手も離れないぞ!?…おわっ!」



 キィーーーーキュィーーーーンッ!!!



 握っていたはずの柄の感覚がなくなった…と同時に更に激しく光り輝いた。



 ・・・・・



 光がおさまり、俺はゆっくりと目を開けた。石碑にはすでに剣は刺さっておらず、近くに転がってる訳でもない。俺はロキに事情を聞こうと振り向いた。


「おい…剣が無く…」


 ズシリ…


 手に重みを感じ、手元を見てみると


「…ん?なんだこれ…腕輪?」


 俺の両手首には銀色の、さっきの剣に良く似た美しい銀色の腕輪が付いていた。何か不吉な感じがしたので、急いで外そうとしたのだが



「なっ!?これ…全然外れないっ!」


 腕輪はまるで吸い付くように嵌《は》まっており、どこを見ても継ぎ目すらないので、外し方がわからなかった…ロキが腕輪を見ながら


『…ちっ、まさかこんなことになるなんて。これ外れないわね。多分…』


「なっ!?外れないってどうゆうことだよ!?お前の物なんだろ!?」


『ガタガタうっさいわねっ!私にも何でこうなったのかわからないんだから、しょうがないでしょ?家帰ったら、調べてあげるから黙ってなさいよ!』


 まさか本当に外せないとは思わなかったが…何故かこの腕輪を付けていると血が巡るというか、動悸が早くなるというか、言い知れぬ不気味さがあった。


「…わかったよ。はぁ…で、この腕輪ってどうゆう腕輪なんだ?いや、この場合、剣なのか」


  おそらくさっきの剣が腕輪になったのだろうが、あそこまで封印されていたら気にならないわけがない。


『それは、えーと…』


 ロキが急に言葉を濁す。


「…おい!今すぐ外せっ!お前のその反応…絶対まともな物じゃないだろ!?さっきも生易しい物じゃないとか言ってたし、怖いから外せっ!」


『あら、私のことわかってきたじゃない。だけど惜しいっ!30点ね。あんたの想像の3倍はヤバイわ』


 ロキが親指を立て、パチッとウインクしてくる。可愛いがそんな状況ではない。


「なお悪いわっ!こうゆう状況でウインクしてくんな!」


『これからバトルが始まるのよ?今のうちに心にゆとりを持たないとね?やっぱ来たか…』


 ドスンッ!ドスンッ!


 大きな足音のようなものが聞こえてきた。


「バトル…?こんなとこで何と!?」


『あんた、ミドガルドの時に北欧神話とか読まなかった?勉強不足ね。聞いたことない?世界樹の頂上には化物《・・》が住んでるって…』


 そう言ってロキは後ろを振り向いた。釣られて俺も振り向いたのだが


(こいつに付き合うと本当に巻き込まれるよな…)



 俺は今日ロキに付き合った事を心の底から後悔した。


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