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七魔導

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 ふわふわした心地よさに俺が意識を取り戻し、目を開けるとリーシュが俺の頭をゆっくりと撫でていた。


『…おはよう、具合はどう?』


「まだ少し痛むけど、大丈夫そうかな。多分動ける」


『…そう』


 動けると返事をしても、一向にリーシュは撫でるのをやめない。


「ごめん、勝手にいなくなっちゃって…」


『本当だよ……すごく心配したんだからね?ピーちゃんが呼びに来なかったら間に合わなかったかもしれないんだから。でも、最後まで諦めなかったね♪ あたしはちゃんと見てたよ♪』



(そうだ、リーシュに言わなきゃいけなかったんだ。)



「ありがとう…、ありがとう!リーシュ!」


『あたしがユシルを助けるのは当たり前でしょ?気にしな…』

「そっちじゃないんだ。えぇと、今までの事すべてに対しての感謝の気持ちなんだ。リーシュに今までの感謝の気持ちを伝えてなかったから、絶対に死ねないと思ったんだ」


『…そう、でもこちらこそだよ?あたしもユシルにはすごく助けられたの。本当だよ?』


「…」



 リーシュと目が合う。目が逸らせない。心臓がバクバクする。



『…』







『は~い、スト~ップ!私がいるの忘れてない?私んちでそのピンクな空気はやめて』



[[ビクッ!!]]


見つめ合う俺とリーシュの真横からロキが突然顔を出した。邪魔された事より先にヴァルハラ城に投げ込まれた事への怒りが沸いた。

「ロ、ロザリー…いや、ロキ! お前のせいで死にかけたんだからなっ!!」


『はぁ?何で私?あんたが弱いのがいけないんでしょ?』


「…ぐっ…お前がヴァルハラ城に投げ入れたんだろうがっ!!」


『…確かに投げ入れたけど、鼻の下伸ばして私についてきたのはあんたでしょうが』


「お前が引っ張ってったんだろ!?」


 俺とロキが言い争っていると


『あら、二人とも仲がいいのね。…フフフ、へぇ~…そうなんだぁ?ユシルは鼻の下伸ばして?ローちゃんはユシルと手を繋いでたと、へぇ~そうなんだぁ』


 笑顔ではあるが、リーシュの目が笑っていない。


『あ、あのねっ!リーシュっ!私は全然悪くないのよ?ホントよ?こいつは私の顔見てニヤニヤと気持ち悪い顔してたけどね!』


「いや、してないし!顔は確かに可愛いかもしれないけど、リーシュの方が100倍可愛いからなっ!」


『はい、ストップっ!言い争っててもしょうがないから、とりあえずローちゃんはユシルに謝って?…さっきの話は後で個別に聞くからね』


 流せたと思ったが、結局個別で聞くらしい。


『えぇ~、こんな雑魚に謝りたくな~い』


『ローちゃんっ!!』


『ヒッ!…わかったわよ。ユシル君、ごめんちゃい♪でも、あなたがカスだから悪いんだからねっ♪』

 そう言ってこっちを指差し、ウインクしてくる。正直、超が付くほど可愛いが、言われた内容を思い返すと腹が立ってくる。 


「お前っ!全然反省してねぇじゃねぇか!ちゃんと謝れよ!」


『はぁ?カスに贈る言葉なんて、私は持ち合わせてないわ。カスから脱してから来なさいな』


「ぐぬぬぬ…」


『まぁまぁ、二人とも。ローちゃんはそうゆう性格だからしょうがないね…とりあえず、ご飯にしよっか!』


『わぁ~い♪リーシュ大好きっ♪』


(おいおい、なんだこの対応の差は、ツンデレか?リーシュにデレて俺にはツンなのか?)


 そして、リーシュが作った食事がテーブルに並ぶ。4人掛けで、リーシュの隣にロキが座り、フェニは定位置のおれの、肩の上におり、俺がリーシュの向かい側に座ろうとすると…


『何、椅子に座ろうとしてんの?あんたはここよ!』


 ビシッと指差された先は床だった。


「お前、本当に性格悪いな」


『当たり前でしょ?私たちは神様!しかも七魔導なのよ?同じテーブルにつけると思ってるあんたがおかしいのよ!』


『はいはい…ユシル、気にせず座って♪いいでしょ?ローちゃん』


『もちろんよ、リーシュ♪……ちっ…』


「おい、今舌打ちしただろ?はぁ…まぁ、いいや。というか七魔導って何なんだ?」


『口の聞き方に気を付けなさい。この下等生物が!』


(こいつ…てか、何で知ってるんだ?)


『ローちゃん?』


 イラッとしたが黙っている事にした。


『はいはい、すいませんねぇ。リーシュに免じて教えてあげるわ。七魔導っていうのは、七属性…火、水、土、雷、風、闇、光の各属性、アースガルドのトップに君臨する|6人の事よ。ちなみにあんたがボッコボコにされたトールは雷の魔導で、最後に出てきた白くて胡散臭いやつが光魔導のバルドルよ』


「ボッコボコって…ん? 6人?七魔導なんだろ?」


『火の魔導が空席なのよ。私は闇の魔導だけど、火魔法も得意中の得意だから兼任してあげるって言ったら、リーシュ以外の七魔導たちに猛反発されたわ』


「まぁ、お前みたいな奴は闇の魔導がしっくり来るからな。リーシュも七魔導なのか?」


『消すわよ?…リーシュはアースガルドに来てすぐに七魔導に就いたわ。私のリーシュは最強なのよっ!あんたと一緒にいること自体が奇跡みたいなもんなんだから、恐れ慄いて今すぐ死んで詫びなさいっ!』


『ローちゃんっ!言いすぎ! あたしは七魔導になんてなりたくなかったんだけどね。いつの間にか七魔導に数えられてて…』


『そりゃそうよ♪リーシュは前の神界大戦に突然現れて、風魔導だったボレアスと次期風魔導候補のノトスを葬ったんだからっ♪アレは痺れたなぁ…私♪』


『ちょ、ちょっとやめてよ~!若気の至りみたいなものなんだから…誰にでもあるでしょ?強い人と戦いたいって思う事』


(いや、ねぇよ)俺はこの言葉を飲み込んだ。


『しかもねっ!このルックスだし、優しいから男神からモテにモテてね!迷惑がってたから、私が対応策を考えてあげたの♪あんたも見たでしょ?オラオラ系リーシュっ♪いつもとのギャップにマジ惚れるわぁ…』


 ガタッ!


「お前かぁ!リーシュにあの怖い一面作ったの!最初会った時、めちゃくちゃ怖かったんだぞ!?」


 思わず立ち上がってしまった。初めて会った時、思ったのだ。本当に言葉遣いだけが残念だと。今は優しくて女神だけど…


『知らないっつぅの。私のリーシュに口出ししないでくれる?』


『はいはい、喧嘩はやめてね?ローちゃんもユシルもあたしの大事な友達だよ♪二人には仲良くしてもらいたいんだけど?』


 ピチュ~♪ 


『ほらっ、ピーちゃんもそう思うって♪』


『あら…この子…朱雀の稚児?…可愛いわね…ほら…おいで?御馳走あげるわ』


 そう言ってロキは手の平からオレンジの火を出した。フェニが俺の肩から降り、トコトコとロキの出した火に近づき、啄み始めた。


 ピ~♪ピチュチュ~♪♪ 


 フェニがとても嬉しそうにオレンジの火を食べている。不思議な光景だった。 ロキはそんなフェニを少し赤くなった顔で眺めながら


『美味しい?純度の高い火は大好物だもんねぇ~♪…私にはリーシュとユグドラシルしか友達がいないから、よかったら私の使い魔になる?』


 フェニが食べるのを止め、首を振る。ロキはそれを見て少し悲しそうに


『そう…でも、友達にはなってくれる?食べてていいわよ』


 ピチュ~♪


 フェニは嬉しそうにロキの手に顔を擦りつけた。


(リーシュとユグドラシルしか友達いないって。だから、あんなにリーシュに固執するのか?ていうかユグドラシル!?)


『ありがとう、よろしくね?ピーちゃん♪』


「いや、フェニだから!フェニって名前あるから!」


『うっさいわね。そんな変な名前よりピーちゃんの方が可愛らしいじゃない』


『あっ!そうだっ!ローちゃんとユシルも友達になればいいんだよ♪二人とも私の友達だし、ピーちゃんも二人の友達だもんね?皆で生活したらきっと楽しいよ♪』


 ピ~♪


 フェニが賛成の鳴き声をあげる。


 バンッ!


 ロキがテーブルを叩いた。

『冗談じゃないわよっ!何で私がこんな下等生物と!』

「下等生物って言うな!!俺だって願い下げだ!」


(何で俺がこんな人格破綻者と。顔は可愛いけど…)


『まぁまぁ、二人とも落ち着いて…ね?…ユシル、あの事ローちゃんに言ってもいい?』


(ん?もしかして俺がユグドラシルの力で転生したことか?)

 俺はコクリと頷く。


『あのね、ローちゃん…とりあえず最後まで聞いてね?実はユシルは…』


 その後30分ほど俺が死んだ理由、ユグドラシルとの会話、そして力をもらい転生した事を俺とリーシュでロキに教えた。ロキはその間、驚愕したり頭を抱えたりしていたが、内容が気になるのか、話を遮る事なく聞いていた。
 そして、話し終わった後の最初の一言が



『…ちょっと信じられないんだけど。マイリスト見せてよ?それで信じるから』


『ローちゃん、それはあなたもマイリストを見せなきゃ釣り合わないでしょう?』

「いい。見せるよ。それで信じるんだろ?」


『え?でも、ユシル、それは…』


 ロキがこちらを見ていたので、俺もロキの目を見ながら言った。


「多分こいつは俺や他の奴の事は何の躊躇もなく殺せるくらい嫌いなんだ。だから、自分の決めた円の中の人には特に優しくする。例えばリーシュやフェニみたいに。きっとユグドラシルもその円の中に入ってたんだろ?なら見せてやりたい。友達がリーシュとユグドラシルだけだって言ってたその片方がいなくなったら、どうしてるのか…どうなっているのか知りたいと思うのは当たり前だ」


『…御礼とか言わないからね?それに今のだって、あんたの想像だから!この妄想族っ!』


 プイッと目を逸らされたが、何だかその態度が子供っぽくて少し、ほんの少しだけ可愛く見えてしまった。


「御礼なんていらねぇよ。フフ…一応こっちにも打算があるからな。もし、本当だったら俺を殺したくなくなるだろ?…ほれ、確認しろ。マイリスト」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 名前   ユシル

 神格   転生した元人間

 経歴   ミドガルドにて邪竜ニドヘグに食い殺される。世界樹ユグドラシルに意志のみ吸収され、その後ユグドラシルより意志と魔力を譲渡され転生。転生後、風天ヴァーユ・リーシュと出会い、今に至る。

 スキル   [????]
    [世界樹]
    [風魔法](途)
    [火魔法](途)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ロキは食い入るように俺のマイリストを見た後、ストンと椅子に座り、俯いてしまった。そして…



『…まさか本当だとは思わなかったわ』


「まぁ、そうゆう事だ。どうだ?少しは俺にも優しくする気になったか?」


 別に元気付けようとか思った訳ではない。ただ美少女が落ち込むのを見るのはあまり好きではないだけなのだ。だから、少しからかってみたのだが。

『うるさいっ!あんただって、やっぱり下等生物だったじゃないっ!』


「!?…お前、さっきから何で下等生物ってわかったか気になってたが、本気で下等生物だと思ってたんだな!?」


『フフン…当たり前じゃないっ!あんたなんて下等生物で十分よっ!ヴァルハラ城の補修材料にでもされてきなさいよっ!』


「うるせーっ!ボッチ性悪女っ!」


『私にはリーシュがいるもんね~だっ!バーカ、バーカ』


『なんか…ローちゃん、元気になったねっ!やっぱりユシル効果かな?』


『そ、そんなわけないでしょっ!やめてよ、リーシュ~。私は今こいつと同じ空気を吸ってると思っただけで鳥肌が止まらないんだから』


「おいっ!!」



 こうして俺の命懸けの神界観光初日は終わった。結局ロキとは寝る間際まで喧嘩していたが、リーシュの無言の圧力により鎮圧されたのだった。
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