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5.作戦
最終話.スズ・ゴフェル
しおりを挟む「あ、あなた……どうして……?」
俺に召喚されて現れたノアアークは、絞り出すようにつぶやいた。
信じられないような表情をして、俺を見ている。まあ、そりゃそうか。いつか呼び出すとは言ったけど、こんなに早く呼び出されるなんて思わないよな。
何て言おうか少し迷って、俺は笑って口を開いた。
「急に呼び出してごめん。さすがにひとりじゃ心細くってさ」
「こ、心細いって……そんな理由で俺を呼び出したのか……?」
「駄目だった? そりゃ俺はもうゴフェルじゃないけどさ、知らない場所に一人で放りこまれるよりは二人一緒の方がいいだろ? 一緒にティルナノーグを探そう。ゴフェルもきっと、それを望んでるだろうし――」
そう言った瞬間、強く抱きしめられてぎょっとする。
慌てて暴れたけれど、大きな身体はびくとも動かなかったので、俺は諦めてじっとしていた。
「……今までごめん」
「え、あの、ちょっと」
「ひどいことをたくさんした。本当にごめん」
そう言って髪を撫でられて、ほんの少しだけどきりとする。
恥ずかしくなってきて思いっきり身体を離すと、ノアアークは黄金の瞳から涙をこぼしていた。
な、なんだよ……そんなにさみしかったのか?
「いや、俺もいるんだけど。お前、仲間って恋人かよ……」
そばにいたジャフリールさんに、呆れたようにたずねられて俺は思いっきり首を振った。
「ち、ちがいますよ。そんなんじゃありません!」
「ふーん。あっちは本気みたいだけどな」
「そ、そそ、そんなわけないでしょう!」
慌ててそう言ったけど、ノアアークは俺の腕にしがみついて、腰に手を回してくる。
これじゃ説得力がないからやめてほしい。
「まあいいけど。恋人同士だろうが何だろうが、うちのギルドは実力主義だからさ。弱い奴は淘汰されるのみ。強い奴は何をやっても許されるんだ。じゃあ案内してやるよ、二人ぐらい荷台に乗れるだろ」
「いや、どう見ても乗れそうにないんで、移動能力で後ろからついていきます……」
呆れたようにつぶやくと、ジャフリールさんは気にする様子もなく「便利だなーじゃあよろしくな」と言った。
エンジンがかけられて、ジャフリールさんがハンドルを握る。
思い出したようにジャフリールさんが振り返って、口を開いた。
「そういや、お前名前は?」
煙を吐きながらたずねられる。
俺は口を開いた。
「スズです。こっちはノアアーク」
「スズに、ノアアークね。ファミリーネームは?」
当然のようにたずねられる。
……そうか。あの世界では存在しなかっただけで、元々ローレン王のように、ファミリーネームがあるのが普通なんだ。
何て応えようか迷って、思いつく。
「ゴフェルです! スズ・ゴフェル!」
口元をゆるませてそう答えると、ジャフリールさんは前を見たまま、また煙を吐いた。
ノアアークは驚いたように目を見開いて、掴まれている腕に力が入る。いや、痛いから。俺はノアアークを睨んで、足を蹴った。
「ほーん、ゴフェル? あんま馴染みのねぇ名前だなー」
「へ、ヘンですかね……?」
「いや、別に? 大陸外から来たんならいいんじゃね。そっちの男前の兄ちゃんは?」
「俺もゴフェルです。俺たちは義理の兄弟なんですよ」
そう言ったノアアークは人の良い笑みを見せた。
なんだそのさわやかな感じは。ついさっきまで泣いてたくせに。
「ほーん。そりゃ難儀なカップルだな」
「だから違いますって!」
「なんでもいいや。じゃあ、スズにノアアーク。出発するからついてこいよー」
ジャフリールさんがハンドルを回した途端、エンジン音がさらに派手に響き渡る。
その後、すぐにバイクは動きはじめたので、慌てて俺たちはついていった。
大きく揺れる荷物の上から、街の風景を見渡す。
このフェズリーの街は空気が淀んでいて、ティルナノーグのように綺麗とは言えない街だ。
それに、ガラの悪い人が多いのか、そこかしこで喧騒が絶えない。そこら中で、言い合いやら殴り合いの喧嘩をしている。治安はめちゃくちゃ悪そうだ。
俺、こんなところで寝てて、よく無事でいられたな……ジャフリールさんありがとう……。
荒れた街を眺めていた、そのときだった。
至近距離で大爆発が起きた。
ものすごい爆発音と共に、すぐそばの建物が炎上する。
「え!? えええええ! ジャ、ジャフリールさんッ!? 何かすぐそこで大爆発が起きたんですけどッ!?」
「ああ? 爆発ぐらいで騒ぐな。ここじゃ日常茶飯事だよ」
「爆発が日常茶飯事なんですかッ!? 嘘だろッ!?」
思わず叫んだけど、確かに街の人々はさほど慌てた様子はなく、ちらりと見る程度で、平然と道を歩いている。ジャフリールさんの言うとおり、本当に日常茶飯事らしい……。
やばい。とんでもない街に来てしまった。
俺はこの街を拠点に、リオやエリスちゃんが待ってるティルナノーグを探すことになるんだろう。
きっとそれは、一面中に広がる砂浜から、たったひとつの小石を探すぐらい、難しいことなんだろう。そんな気がしていた。
――だけど、どうしてだろう。
はるか遠い場所に飛ばされて、こんなヤバイ街に住むことになって。エリスちゃんやリオへの手がかりも全然なくてさ。
確かに悲しくて、怖くて嫌なんだけど、ほんのちょっとだけ俺はわくわくしていた。
まるで、仕事中に突然ダンジョンに転移されてしまった、あの日みたいに。
胸が自然と高揚して、口元が緩む。
俺の非日常は、しばらく続きそうだ。
[終]
長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
もしよければ感想を頂けるとうれしいです。
BL大賞にも参加しているので、ぽちっとしていただけると喜びます。
ここまで読んでくださったみなさんに、いいことがありますように。
森野
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すごく面白かったです。読み終わったあとの興奮が冷めきらなく、ぜひ続編を出していただきたいです!叶うならノアアークとの幸せ回を見たいです!
森野いつき先生の、他作品も見ようと思ったのですが、何も痕跡が見つからなく泣く泣く断念しています。
とにかく、とても最高でした!
読ませて頂きありがとうございました!
すごくすごく
面白くてすぐ読めてしまいました✨
2週目読んできます!
最近冷えるので
お身体に気をつけてください!
あなたの作品大好きです!
わ〜!余韻がやばいです!
本当にこの物語を作ってくださって感謝しかないです!最後の終わり方が最高でした😇