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「君を愛することはない」と初夜に宣言した夫の三年後
「君を愛することはない」と初夜に宣言した夫の三年後
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「君を愛することはない」と初夜に宣言され、数時間前に夫になった人物は部屋を去った。
「本当に愛しているのは彼女だけだ」と何もなかった初夜の翌日に、愛人を紹介された。
「三年経ったら離婚する」と告げられ、契約書にサインさせられた。
夫らしき人物の愛人は、邸内では後任で、私が二人の関係に割り込んできた邪魔者という認識だった。
なのでこの邸の女主人は夫らしき人物の愛人。だから私の扱いが悪いこと、悪いこと。
私も貴族なので政略結婚は招致しているし、両親は不仲というより冷め切っているが、それでも、本邸で愛人をのさばらせるようなことはしなかったし、正式なパートナーを差し置くようなまねもしなかった。
使用人たちも主人を違えるようなことはしなかった。
「だから落ちぶれたんでしょうね」
私がこの家に嫁いだ理由は、夫らしき人物の家が傾いたから。
隠居した夫らしき人物の祖母が、昔の伝手を使って家の建て直しのために必死に奔走して、援助してくれそうな家を探し、我が家に有利な条件を提示して、結婚という形で契約を結んだ。
夫らしき人物はそんなことを理解していないらしい。
彼の頭の中にあるのは、愛人のことだけ。
あの愛人は、夫の領地の食堂で働いていた娘。領地を見回るときに立ち寄り、そこから急速に仲が深まった。そして二人は恋人同士になったが、祖母は当然赦さず……愛人の存在について夫の祖母からは聞いていない。
最初から聞かされていたら……もっと我が家に有利な条件を飲ませることが出来たのに。
愛人の過去や夫との出会いについては、使用人たちが私に聞かせる目的で大声で話してくれたので。
私がショックを受けるとでも思っていたらしいが、初夜にこんな間抜けなことを言い出す男に対して、ショックを感じるほど私も暇ではない。
初夜の出来事は、白い結婚を含めて両親に伝えた。
さすがに、私の両親の耳に入ってはいけないことくらいは夫も解っていたらしく、手紙などは破られたが、夫婦で出席しなくてはならない会合の席で、知人に手紙を届けてもらった。
実家は私の手紙を受け取ってすぐに夫の身辺について調査し、祖母が愛人の存在を隠していたことを掴んだ。
そして夫ではなく、祖母相手に交渉を開始し、
「知ってたのなら、最初から言って欲しかったですね」
「申し訳……」
「あ、そういうのは結構です」
祖母は私に頭を下げて謝罪しようとしたが、今更なので断った。バレたから謝るというパフォーマンスにしか過ぎないから。
結局どうなったかというと、私と夫は離婚した。婚姻期間は三ヶ月。夫の邸にいたのは一週間にも満たない。
離婚を告げられた時、夫は無言のまま口をぱくぱくさせていたが、なぜあんなことを宣言して離婚されないと思ったのだろう?
そして私が三年間も黙って待っていると思ったのだろう?
大体、夫は初夜に「実家の権力で、私の妻の座に収まった!」と叫んでいたのに。そう、我が家は夫の家よりも裕福で権力もある。だから、傾いた夫の実家の立て直しのパートナーに選ばれたのだ。
なので私のほうが、優位に動くことができる……ことくらい、解らなかったのだろうか?
もしも解らないのだとしたら、この家、長くないな。
――三年後
私は前夫の本邸にいる。
僅か一週間しか住まなかった、良い思い出はないが、悪い思い出もない邸に。
私がこの邸にいる理由は、売りに出されたから。
あの後、私と夫の結婚を画策した祖母は失意のうちに亡くなり、夫には既に両親はいないので、頼れる人もなかった。
本来であれば、妻とその実家を頼りにするところだが、その頃には既に離婚していたので、頼れるところがなかった。
そうなって初めて、離婚したことに焦り、何度か私に復縁を要請してきたが、とうぜん相手にしなかった。
だって貴族同士じゃなければ結婚できない……ということすら知らずに、離婚後に愛人との結婚を届け出て、突き返され、食ってかかって、ちょっと役職のある人物からこんこんと説明を受けて、顔を真っ赤にして帰宅したような男と、復縁するなんてあり得ない。
顔を真っ赤にして帰宅したのを何故知っているかというと、その部署のお偉いさんが、私の今の夫だから。
今の夫と付き合う切っ掛けは、前の夫のこの行動。
平民の愛人と結婚しようと届け出を出したあと、前夫の行動があまりにも貴族らしくないので、貴族ではない誰かが前夫と入れ替わったのではないか?と疑念をいだかれ、会議でも議題に挙がり、少し調査することになった。
そこで前夫の顔をもっとも知っている人物として「確認して欲しい」と頼まれたから。
事情を聞いたとき「あの男なら、そういうことするな」としか思えなかったが、初めての人が遭遇したら、不審に思ってもしかたない。
私は「初夜に愛することはない」と言われた女ですよと返したら、夫が困ったような表情を浮かべたのは懐かしい思い出だ。
貴族とは思えない無知さを暴露した前夫は、私とも復縁できず、貴族としての無知さを人々に暴露してしまい、詐欺師の恰好のカモになった。
詐欺師はかなり優秀で、貴族の財産である土地には手をださなかった。土地に手を出すと、国が介入してくるので、あくまでも動産のみ。
前夫が気付いたときには、土地以外の財産はほとんど奪われ、私に対して酷い態度を取った使用人たちまで人買いに。
こうして本当に無一文になった前夫は、愛人と心中しようとしたが拒否され、激昂して殺害しようとしたが、愛人に激しく抵抗され、バランスを崩して腰を強く打って寝たきりになった。
愛人は貴族を害したということで、絞首刑になって野ざらしに。
寝たきりになった前夫は、体が動かないだけで、頭はしっかりしていた……賢くはないけれど、意識はしっかりしていたので、随分と苦しんだそうだ。
そうして動けないまま苦しい日々を過ごし、先日死去した。
そして、土地と家屋が私のものになった。これは離婚時の取り決め。財政的に苦しい前夫の家に慰謝料を求めても無駄なので、前夫の死後、これらを全て私が受け継ぐという書類を作成したのだ。
前夫の祖母は、家の延命を考えてのことだったが、
「結局、三年しか延命できませんでしたね」
貴族の息がかかった詐欺師に目を付けられたのが最期。内情をよく知っている貴族から情報を貰った詐欺師は、とても仕事がし易かったと言っていた……らしい。
「本当に愛しているのは彼女だけだ」と何もなかった初夜の翌日に、愛人を紹介された。
「三年経ったら離婚する」と告げられ、契約書にサインさせられた。
夫らしき人物の愛人は、邸内では後任で、私が二人の関係に割り込んできた邪魔者という認識だった。
なのでこの邸の女主人は夫らしき人物の愛人。だから私の扱いが悪いこと、悪いこと。
私も貴族なので政略結婚は招致しているし、両親は不仲というより冷め切っているが、それでも、本邸で愛人をのさばらせるようなことはしなかったし、正式なパートナーを差し置くようなまねもしなかった。
使用人たちも主人を違えるようなことはしなかった。
「だから落ちぶれたんでしょうね」
私がこの家に嫁いだ理由は、夫らしき人物の家が傾いたから。
隠居した夫らしき人物の祖母が、昔の伝手を使って家の建て直しのために必死に奔走して、援助してくれそうな家を探し、我が家に有利な条件を提示して、結婚という形で契約を結んだ。
夫らしき人物はそんなことを理解していないらしい。
彼の頭の中にあるのは、愛人のことだけ。
あの愛人は、夫の領地の食堂で働いていた娘。領地を見回るときに立ち寄り、そこから急速に仲が深まった。そして二人は恋人同士になったが、祖母は当然赦さず……愛人の存在について夫の祖母からは聞いていない。
最初から聞かされていたら……もっと我が家に有利な条件を飲ませることが出来たのに。
愛人の過去や夫との出会いについては、使用人たちが私に聞かせる目的で大声で話してくれたので。
私がショックを受けるとでも思っていたらしいが、初夜にこんな間抜けなことを言い出す男に対して、ショックを感じるほど私も暇ではない。
初夜の出来事は、白い結婚を含めて両親に伝えた。
さすがに、私の両親の耳に入ってはいけないことくらいは夫も解っていたらしく、手紙などは破られたが、夫婦で出席しなくてはならない会合の席で、知人に手紙を届けてもらった。
実家は私の手紙を受け取ってすぐに夫の身辺について調査し、祖母が愛人の存在を隠していたことを掴んだ。
そして夫ではなく、祖母相手に交渉を開始し、
「知ってたのなら、最初から言って欲しかったですね」
「申し訳……」
「あ、そういうのは結構です」
祖母は私に頭を下げて謝罪しようとしたが、今更なので断った。バレたから謝るというパフォーマンスにしか過ぎないから。
結局どうなったかというと、私と夫は離婚した。婚姻期間は三ヶ月。夫の邸にいたのは一週間にも満たない。
離婚を告げられた時、夫は無言のまま口をぱくぱくさせていたが、なぜあんなことを宣言して離婚されないと思ったのだろう?
そして私が三年間も黙って待っていると思ったのだろう?
大体、夫は初夜に「実家の権力で、私の妻の座に収まった!」と叫んでいたのに。そう、我が家は夫の家よりも裕福で権力もある。だから、傾いた夫の実家の立て直しのパートナーに選ばれたのだ。
なので私のほうが、優位に動くことができる……ことくらい、解らなかったのだろうか?
もしも解らないのだとしたら、この家、長くないな。
――三年後
私は前夫の本邸にいる。
僅か一週間しか住まなかった、良い思い出はないが、悪い思い出もない邸に。
私がこの邸にいる理由は、売りに出されたから。
あの後、私と夫の結婚を画策した祖母は失意のうちに亡くなり、夫には既に両親はいないので、頼れる人もなかった。
本来であれば、妻とその実家を頼りにするところだが、その頃には既に離婚していたので、頼れるところがなかった。
そうなって初めて、離婚したことに焦り、何度か私に復縁を要請してきたが、とうぜん相手にしなかった。
だって貴族同士じゃなければ結婚できない……ということすら知らずに、離婚後に愛人との結婚を届け出て、突き返され、食ってかかって、ちょっと役職のある人物からこんこんと説明を受けて、顔を真っ赤にして帰宅したような男と、復縁するなんてあり得ない。
顔を真っ赤にして帰宅したのを何故知っているかというと、その部署のお偉いさんが、私の今の夫だから。
今の夫と付き合う切っ掛けは、前の夫のこの行動。
平民の愛人と結婚しようと届け出を出したあと、前夫の行動があまりにも貴族らしくないので、貴族ではない誰かが前夫と入れ替わったのではないか?と疑念をいだかれ、会議でも議題に挙がり、少し調査することになった。
そこで前夫の顔をもっとも知っている人物として「確認して欲しい」と頼まれたから。
事情を聞いたとき「あの男なら、そういうことするな」としか思えなかったが、初めての人が遭遇したら、不審に思ってもしかたない。
私は「初夜に愛することはない」と言われた女ですよと返したら、夫が困ったような表情を浮かべたのは懐かしい思い出だ。
貴族とは思えない無知さを暴露した前夫は、私とも復縁できず、貴族としての無知さを人々に暴露してしまい、詐欺師の恰好のカモになった。
詐欺師はかなり優秀で、貴族の財産である土地には手をださなかった。土地に手を出すと、国が介入してくるので、あくまでも動産のみ。
前夫が気付いたときには、土地以外の財産はほとんど奪われ、私に対して酷い態度を取った使用人たちまで人買いに。
こうして本当に無一文になった前夫は、愛人と心中しようとしたが拒否され、激昂して殺害しようとしたが、愛人に激しく抵抗され、バランスを崩して腰を強く打って寝たきりになった。
愛人は貴族を害したということで、絞首刑になって野ざらしに。
寝たきりになった前夫は、体が動かないだけで、頭はしっかりしていた……賢くはないけれど、意識はしっかりしていたので、随分と苦しんだそうだ。
そうして動けないまま苦しい日々を過ごし、先日死去した。
そして、土地と家屋が私のものになった。これは離婚時の取り決め。財政的に苦しい前夫の家に慰謝料を求めても無駄なので、前夫の死後、これらを全て私が受け継ぐという書類を作成したのだ。
前夫の祖母は、家の延命を考えてのことだったが、
「結局、三年しか延命できませんでしたね」
貴族の息がかかった詐欺師に目を付けられたのが最期。内情をよく知っている貴族から情報を貰った詐欺師は、とても仕事がし易かったと言っていた……らしい。
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