【短編集】ざまぁ

彼岸花

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お見合いをした女と男

前編

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夫とはお見合いをして意気投合し、とんとん拍子で結婚が決まり、両家の両親、親族に祝福されて結婚式を挙げ、三人の子どもに恵まれ……気が付けば十年経っていた。

まだ十年というべきか、もう十年というべきか。

「どうしたの?」

一緒にお酒を飲んでいた夫から声を掛けられ、

「貴方と出会ってからの十年間、幸せだったなって」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」

――――――

ビクトリアが初めてお見合いをしたのは、十六歳の頃だった。
見合い相手はジョエルと言い、家格や身分、年齢など全て釣り合いが取れている相手だった。

ジョエルとの初顔合わせは、その後、数度行った見合いと比べても普通だった。だが、その後のジョエルの行動は「なぜ見合いをしたのか?」と思うようなありさまだった。

見合いのあと話が進み、二人で交流を持つことになったのだが、ジョエルが待ち合わせの時間に来たことは、一度も無かった。

最初のデートの時は、待ち合わせの劇場に到着すると、ジョエルの実家の執事がおり、ジョエルが急用で来ることができなくなったと伝えられ、ジョエルからの詫びの手紙を差し出された。

初めてのことだったので「そういうこともあるのだろう」と思い、特になにか言うことはなかった。

それが悪かったのかどうかは解らないが、以降、ジョエルはいつもデートをキャンセルしてきた。
それも事前キャンセルではなく当日キャンセルで、ジョエルの事情でのキャンセルだというのに穴埋めをすることもなく、キャンセルを繰り返す。
最初と二回目は、直筆の詫びの手紙を用意していたが、以降は手紙すらなく、執事が送られてくるだけ。
回数を重ねるごとに、執事の顔色が悪くなり痩せていったのは、可哀想だとビクトリアは思ったが、執事に負担を掛けているのはジョエルなので、ビクトリアにはどうすることもできない。
六回目のデートをキャンセルされたとき、ビクトリアは両親にジョエルとの交流を絶ちたいと伝えた。
侍女から話を聞いていた両親も異存はなく、ジョエルの実家に「ご縁が無かったということで」と連絡を入れてから、次の見合い相手との席を設け、ビクトリアは次の相手に心を躍らせた。

そして四度目のお見合いで、夫と出会い結婚するに至った。

――――――

ビクトリアの実家から「ご縁が無かった」という連絡を貰ったジョエルの両親も「そうですか」と受け入れた。
ビクトリアとジョエルの見合いは、政略的なものなどではないので、条件もそうだが相性が合わなければ、見合い相手とは簡単に終わりになる。

「ジョエルとビクトリア嬢はどうだった?」

ジョエルの父親に二人の関係を聞かれた執事は、

「ジョエル様はビクトリア嬢には、興味がなかったようです」

お断りの連絡が届くのは当然だったと、ジョエルの父親であり仕える主人の問いに答えた。

「そうか」

ただの見合いなので、ジョエルの父親もそれほど気に留めず、次の見合い相手でも探そうかと軽く流した。
その後、ジョエルの父親は少し体調を崩したので、見合い相手探しは後回しにした。ジョエルはまだ若いので、焦って探す必要がなかったことも大きい。

「定期の領地見回りに行けなかったから、再来月に……」
「そうですね。閣下の体調もそうですが、天候も気になるところです」

体調が回復したジョエルの父親は、領地から呼んだ代官と共に、領地に関して話し合っていると、

「父上!」

不躾にドアが開き、ジョエルが入室の許可も得ずにずかずかと入り込んできた。

「入室を許可した覚えはないぞ、ジョエル」

座って話し合いをしていた代官が立ち上がり、場を譲る。
そして遅れて執事が寝室へとやってきた。執事はジョエルの入室を阻止するために努力したが、押さえきれなかったのだ。

「父上!今日、ビクトリアが結婚式を挙げていたのです!」
「私も体調が許せば、出席したかったところだ。今日は天気もよいから、よい結婚式になったことだろう」

ジョエルの実家にも結婚式の招待状が届いており、ジョエルの母親は親戚を数名連れて式に参列していた。

「裏切りじゃないですか!」
「なにがだ?」
「何がではありません!ビクトリアは私の婚約者ですよ!それなのに、見ず知らずの男と結婚だなんて」
「ビクトリア嬢はお前の婚約者でも、なんでもないぞ」

ジョエルの父親は、息子が何を言っているのか全く解らなかった。

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