65 / 71
【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その12
しおりを挟む
「で? ヒロコ殿・・・食品を介しての“才”の証明に関しては、アーチュウと協力して内密に研究を進めておくとして、お願い・・・とはなんじゃ?」
私は侍女のクレーと、料理長のギヨムに協力してもらい、私の調理した食品が食べた人の体力や潜在能力を引き出す作用を調べてみた。
ギヨムの伝手で調理後の食品の成分に危険な変化がないか数値などで表した資料を作成し、アーチュウとマテオGに頼んでこの席を設けることを準備していた。
そこにひょっこり、ヴィヨレが偶然にも参加した形になってしまったのだ。
ちょうどアーチュウが検証したかった、私の涙を飲んだ実験体1号。
隷属契約が成立してしまったのは偶然だが・・・飛んで火にいる夏のヴィヨレである。
ソラルが父親であるイスマエルにはできるだけ秘密にしたかった。
何故なら、イスマエルが一番・・・私とソラルに近しい人間であり、彼自身が諜報員の観察対象だからだ。
移動の多い騎士団長であるソラルを絶えず付け狙うのは難しい。
ならば、行動範囲が狭いイスマエルを調査するのが妥当だろうと私ならば考える。
けれど・・・彼の“地味の才”は、諜報員を巻くのに素晴らしい能力を発揮しているらしい。
左右の席を埋める彼らの顔を見まわしながら、決意を込めて私は言った。
「この度は私の独断により、皆様にご迷惑をおかけしました」
私は静かに頭を垂れる。
「あ・・・いや、ヒロコ殿の場合は不可抗力では?」
アーチュウが当惑したような声を上げ、私をフォローしてくれようとした。
「いえ・・・後付けになりますが大変申し訳ありません・・・私のヴィヨレの行動が混乱を招いたのは事実です」
「「「私の・・・」」」
世話係が、微妙な表情でつぶやく。
「私の?」
ヴィヨレは自分の顔を指さした。
緩い笑顔で、私は彼に向って頷く。
「先ほど、ヴィヨレは自分の・・・本来は秘密であるはずの自分の能力を正直に公開しました。これは、完全に我々に降伏した証とだと思います。悪用すれば、この国を混乱に陥れた事でしょう」
「いや、もう少しで本当に危なかったんだけど?」
「主にヒロコがね・・・」
ナトンとマクシムの憎まれ口はスルーしておく。
「ヴィヨレ、あなた・・・読み書きは得意な方?」
「・・・はっ、馬鹿言っちゃいけねーよ! オレぁ、そんじょそこらの貴族のボンボンより博識だぜ? でなきゃ貴族や医者のふりして忍び込めねーって」
「――――だそうですよ?」
感情のない笑顔を浮かべたまま、私はアーチュウと視線を合わせ、頷いて見せた。
「なるほど・・・」
些か呆気に取られながら、私の考えを察してくれたようだ。
「彼の類まれなるその能力には今後期待できそうではありませんか? マテオ様」
「・・・う・・・うむ・・・、だが、彼の罪を問わない訳には・・・」
私は膝の上にあった両手をテーブルの上に乗せ、するりと組み、細めた鋭い眼差しで前を見据えた。
「よって・・・ヴィヨレには、しかるべき罰を与えます」
私は侍女のクレーと、料理長のギヨムに協力してもらい、私の調理した食品が食べた人の体力や潜在能力を引き出す作用を調べてみた。
ギヨムの伝手で調理後の食品の成分に危険な変化がないか数値などで表した資料を作成し、アーチュウとマテオGに頼んでこの席を設けることを準備していた。
そこにひょっこり、ヴィヨレが偶然にも参加した形になってしまったのだ。
ちょうどアーチュウが検証したかった、私の涙を飲んだ実験体1号。
隷属契約が成立してしまったのは偶然だが・・・飛んで火にいる夏のヴィヨレである。
ソラルが父親であるイスマエルにはできるだけ秘密にしたかった。
何故なら、イスマエルが一番・・・私とソラルに近しい人間であり、彼自身が諜報員の観察対象だからだ。
移動の多い騎士団長であるソラルを絶えず付け狙うのは難しい。
ならば、行動範囲が狭いイスマエルを調査するのが妥当だろうと私ならば考える。
けれど・・・彼の“地味の才”は、諜報員を巻くのに素晴らしい能力を発揮しているらしい。
左右の席を埋める彼らの顔を見まわしながら、決意を込めて私は言った。
「この度は私の独断により、皆様にご迷惑をおかけしました」
私は静かに頭を垂れる。
「あ・・・いや、ヒロコ殿の場合は不可抗力では?」
アーチュウが当惑したような声を上げ、私をフォローしてくれようとした。
「いえ・・・後付けになりますが大変申し訳ありません・・・私のヴィヨレの行動が混乱を招いたのは事実です」
「「「私の・・・」」」
世話係が、微妙な表情でつぶやく。
「私の?」
ヴィヨレは自分の顔を指さした。
緩い笑顔で、私は彼に向って頷く。
「先ほど、ヴィヨレは自分の・・・本来は秘密であるはずの自分の能力を正直に公開しました。これは、完全に我々に降伏した証とだと思います。悪用すれば、この国を混乱に陥れた事でしょう」
「いや、もう少しで本当に危なかったんだけど?」
「主にヒロコがね・・・」
ナトンとマクシムの憎まれ口はスルーしておく。
「ヴィヨレ、あなた・・・読み書きは得意な方?」
「・・・はっ、馬鹿言っちゃいけねーよ! オレぁ、そんじょそこらの貴族のボンボンより博識だぜ? でなきゃ貴族や医者のふりして忍び込めねーって」
「――――だそうですよ?」
感情のない笑顔を浮かべたまま、私はアーチュウと視線を合わせ、頷いて見せた。
「なるほど・・・」
些か呆気に取られながら、私の考えを察してくれたようだ。
「彼の類まれなるその能力には今後期待できそうではありませんか? マテオ様」
「・・・う・・・うむ・・・、だが、彼の罪を問わない訳には・・・」
私は膝の上にあった両手をテーブルの上に乗せ、するりと組み、細めた鋭い眼差しで前を見据えた。
「よって・・・ヴィヨレには、しかるべき罰を与えます」
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる