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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その12

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「で? ヒロコ殿・・・食品を介しての“才”の証明に関しては、アーチュウと協力して内密に研究を進めておくとして、お願い・・・とはなんじゃ?」

 私は侍女のクレーと、料理長のギヨムに協力してもらい、私の調理した食品が食べた人の体力や潜在能力を引き出す作用を調べてみた。

 ギヨムの伝手で調理後の食品の成分に危険な変化がないか数値などで表した資料を作成し、アーチュウとマテオGに頼んでこの席を設けることを準備していた。
 そこにひょっこり、ヴィヨレが偶然にも参加した形になってしまったのだ。
 ちょうどアーチュウが検証したかった、私の涙を飲んだ実験体1号。
 隷属契約が成立してしまったのは偶然だが・・・飛んで火にいる夏のヴィヨレである。

 ソラルが父親であるイスマエルにはできるだけ秘密にしたかった。
 何故なら、イスマエルが一番・・・私とソラルに近しい人間であり、彼自身が諜報員の観察対象だからだ。
 移動の多い騎士団長であるソラルを絶えず付け狙うのは難しい。
 ならば、行動範囲が狭いイスマエルを調査するのが妥当だろうと私ならば考える。
 けれど・・・彼の“地味の才”は、諜報員を巻くのに素晴らしい能力を発揮しているらしい。

 左右の席を埋める彼らの顔を見まわしながら、決意を込めて私は言った。
「この度は私の独断により、皆様にご迷惑をおかけしました」
 私は静かに頭を垂れる。
「あ・・・いや、ヒロコ殿の場合は不可抗力では?」
 アーチュウが当惑したような声を上げ、私をフォローしてくれようとした。
「いえ・・・後付けになりますが大変申し訳ありません・・・私のヴィヨレの行動が混乱を招いたのは事実です」
「「「私の・・・」」」
 世話係が、微妙な表情でつぶやく。
「私の?」
 ヴィヨレは自分の顔を指さした。
 緩い笑顔で、私は彼に向って頷く。
「先ほど、ヴィヨレは自分の・・・本来は秘密であるはずの自分の能力を正直に公開しました。これは、完全に我々に降伏した証とだと思います。悪用すれば、この国を混乱に陥れた事でしょう」
「いや、もう少しで本当に危なかったんだけど?」
「主にヒロコがね・・・」
 ナトンとマクシムの憎まれ口はスルーしておく。
「ヴィヨレ、あなた・・・読み書きは得意な方?」
「・・・はっ、馬鹿言っちゃいけねーよ! オレぁ、そんじょそこらの貴族のボンボンより博識だぜ? でなきゃ貴族や医者のふりして忍び込めねーって」
「――――だそうですよ?」
 感情のない笑顔を浮かべたまま、私はアーチュウと視線を合わせ、頷いて見せた。
「なるほど・・・」
 いささか呆気に取られながら、私の考えを察してくれたようだ。
「彼のたぐいまれなるその能力には今後期待できそうではありませんか? マテオ様」
「・・・う・・・うむ・・・、だが、彼の罪を問わない訳には・・・」
 私は膝の上にあった両手をテーブルの上に乗せ、するりと組み、細めた鋭い眼差しで前を見据えた。
「よって・・・ヴィヨレには、しかるべき罰を与えます」
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