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【異世界召喚ですか?】その2

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「ああ、やはりそうですか・・・」
「え? やはりってどういう意味ですか?」
「いえ・・・ね? 異世界から召喚された者は、元の世界に自分を示す名前を置いてきてしまうそうです」
 ぷつり・・と、私の中で何かが切れた。
「ヲぉい待てやぁ? あん? 異世界から召喚? あんたら何したんだあ?」
 びくり、と、ミニマムサイズのGさんは答えた。
「いや・・・あのう・・・こちらの星を巡る“生命の水”が枯渇しまして・・・ね? 異世界からそのぅ、生命の水を循環させる“特殊能力”と“希なる才”を持つ聖女様をですね・・・お取り寄せ? した感じでしてね?」
「はあぁぁぁん? 何やらかしてんだぁ・・・それともソレは上司命令かぁあん?」
 (いかん、夢の中でも仕事に気を使ってる!)
 気が付いた時には、小さいGさんの襟首を締め上げていた。
「す・・・すみません! 本当にすみません! この国は正直、弱小国家でして! 6つの国を統括している、皇帝陛下のご命令でして! 我が国の陛下もそれに逆らえず、国内のワシが新月の今宵に命を懸けて、召喚術を発動しましたっ!! 申し訳ございません! 聖女様の向こう側の転生を奪う結果となったのは、重々承知しておりますぅ!!」
 はっと、私はその手を放し、小さなGさんは床に崩れ落ちた。
「宰相様!」
「マテオ様! ご無事ですか!」
 (あ~アレだ、確か宰相さいしょうって国王の命令で逆らう貴族を武力モロモロで黙らせるエライ人だ。大臣の代表? みたいな?)
 ちっこいGさんに駆け寄ってくる若者を、冷めた眼で私は眺めながら、さっきまで光を放っていた不思議な噴水に振り向いた。
 濡れていたはずの服が、乾いていた事に気が付き、試しに手を噴水の水に触れさせてみた。
 流れゆく澄んだ水は輝き始め、金色の光を放ち始めた。
 手を離すと、すうっとその光は消え去り、どう見ても普通の水に見えた。
 だが、手は一向に濡れていない。
 死んだはずの私が、五体満足でこの噴水から出て来た?
 おかしい。
 見える・聞こえる・声が出る・・・身体に重力を感じ、頬に風を感じる。

 本当にこれは夢だろうか?
 けれど、私がの夢なら、今頭に浮かんだ事が出来るはずだ。

 なんとなく・・・だが、私はその不思議な水を両手ですくい、腰を抜かしている小さなGさんの両膝に少しずつ均等にかけた。
 かすかな光が、ちっこいGさんの両膝に滲み込んでいくのが見えた。
「ご・・・ごめんなさい・・・私が急に手を放したから、膝を打ってしまいましたよね?」
 二人の若者に支えられながら、そのちっこいGさんは膝をさすりながら立ち上がった。
「痛く・・・ない!」
 (どうか傷害罪で訴えられませんように!)
『おおおっ!』
 部屋中が騒めくが、四方の扉の前の警備をしている(ような?)騎士コスプレの人は微動びどうだにしない。
 (プロだ! きっと会場警備の人が騎士のコスプレをしているんだ・・・て、コレ夢だよね?)
 その騎士の中に、ひと際私の眼を引く人物がいた。
 (はて? どっかで? ・・・いや、似てる。色的にちょっと違うけど、知り合いに似てる人がいる!)
 そう、あれは――――。
「では、聖女様・・・この世界でのあなたに仕える世話係をこの4名の中から選んでください」
「世話係?」
「はい。どんな時もあなたのおそばにいて、支える存在となりましょう」
 私はさっきの警備のプロの方に視線を戻そうとしたが・・・それを遮る男性達が私の前に立ちはだかった。
 (ちっ! 邪魔だよ、見えないよ!)
 そんな私をスルーして、アイドルグループみたいな4人組が何故か自己紹介を始めた。
 エントリーナンバーいちばん!
「マクシムと申します。身長179センチ、年齢21歳、趣味は音楽です。聖女様に退屈させないように努力させて頂きます」
 (ちょ・・・眩しいよ! なにこの美形は!)
 ふんわりと天使のような笑顔、王道の甘いマスクの金髪碧眼の青年・・・て、このタイプは将来太ると悲惨なのだ。
 エントリーナンバーにばーん!
「ナトンって言います!身長158センチ、年齢16歳、趣味は・・・投げナイフ? 友達からはお笑い担当って言われてます」
 くるんとした茶髪に、黄緑色の瞳をキラキラさせ、半ズボンが似合う・・・私は“ショタ派”ではない。“イケおじ派”だ!
 (・・・っていうか、投げナイフが趣味って物騒だな)
 このタイプは老けると需要がなくて苦労するのだ。
 エントリーナンバーさんばん!
「・・・ルベンでございます。身長183センチ、年齢25歳、趣味は薬草学と魔術、あなたに私の知識を捧げましょう」
 長く美しい黒髪、赤い宝石のような瞳、超絶美形! ・・・ですが、このタイプの現実的観点に於いて、しょうもないポイントは熟知している。
 エントリーナンバーよんばん! よかった、やっと終わる。
「イスマエルと申します。身長は185センチ、年齢23歳、趣味は読書と酒・・・聖女様の補佐をさせて頂ければ光栄です」
 上品な灰色の髪をオールバックに決めて、黒縁メガネの奥には南国の海のような深く青い瞳があった。
 他の三人よりもルックスは地味だけど、十年後が楽しみな逸材だな!
 小さいGさんが最後に前に出てきて、私に言った。
「さ、みな家柄も才能も申し分ない者達です。この中から一人“世話係”を選んで下さい。そして、あなたのこの世界での新しい名を決めて下され」
「あの人じゃダメですか?」
 私は最初に眼を付けた騎士を掌でそっと示した。
 ざわり、と、部屋中が緊張した空気をかもし出した。
 (いいじゃん、言うだけならタダでしょうが?)
 本人も眉間にしわを寄せて、困惑しているようだ。
「え~と、いけません! あの者は騎士ですので、世話係の教育は受けていません」
「でもぅ・・・」
「絶対ダメです! あの騎士には資格が・・・」
「聖女様、発言をお許し下さい」
 オールバックのメガネキャラがなんか言ってる。
 イケメンボイスの小さな声で、周りに聞こえないように私にそっと耳打ちしたのだ。
「チャンスはあります。世話係は途中交代可能ですから・・・」
 (ぐほっ! やるなインテリキャラ! あんたの将来がおねーさん楽しみだよ!)
「イスマエル! 抜け駆けはずるいぞ!」
 マクシムと名乗っていた金髪の凄い美形のおにーちゃんがなんか言ってる。
 でも、今は夢なんだから最短距離を狙おう。
「世話係は途中交代可能なんですよね?」
 ちっこいGさんに念の為、確認しておく。
「あ・・・いや・・・はい、やむを得ない場合は可能です」
 (よしゃ! 言質とったぜ! 覚悟はいいな? そこのインテリっぽいメガネ!)
「では、イスマエル様を世話係にお願いします。かなりの覚悟があってのご意見でしたので」
 イスマエルはふっと、目を伏せる。
 (この人、何者なんだろうか?)
「では、“名呼び”を――――」
「名呼びって?」
「この世界での聖女様のお名前を、決めた世話係に呼んでもらうのです」
「は? この世界って・・・」
 もう、何が何だかわからないが・・・私は、はた、と気が付き、床に放っていた鞄を開け、大慌てで財布を開いた。
「めめめめ、免許証ぉ! 私の名前!」
 私の証明写真がぼやけ始め、印刷された氏名欄が薄くなっていくのが分かった。
「ダメ! 消えないで! 私はココにいるの! お願い!」
 (呼んで! 誰か! 私の名前を――――)
 部屋中を見渡し、跪くファンタジーな服装の人達と――――。
 四方の大きな扉の前に立つ、4人の騎士達がいた。
 私は思わず、その中の一人に駆け寄った。
「お願い! 私を認識して! そして、私の名前を・・・どうか私の名前を呼んで・・・」
 元はきっと色白であったろう、日焼けした肌、短いすすけた金髪、刻まれた眉間のしわと、夕刻の深い青空色の瞳の横に、わずかな笑い皺のあと・・・鍛えられた無駄のない筋肉・・・。
 ああ、この人だと思った。
「な、なんとお呼びすれば・・・」
「“ヒロコ”と、呼んで・・・先生ぃ」
「ヒロコ・・・大丈夫かい?」
 (優しい、優しい・・・低く、甘く響くあなたの声・・・私はずっと・・・)

 意識が遠退きそうだったが・・・それが私の全てを奪う現象だと察した。
 全身の力が抜け、崩れゆく私の体を彼は支えてくれた。
 その彼の両腕を、私は掴み返す。
 私は目を見開き、頭に浮かんだ言葉を口にした。

「私は逆らう! “この星の意思”の全てに・・・この星が滅びの運命を迎えようとしていても、私が今この世界を見つめている限り・・・この星の命を繋げましょう! 私の全てと引き換えに!」

 私は・・・鬱になんか負けない・・・いいえ、それと混じって感覚を薄められればいいんだ。

 水だけの入った水槽に垂らされた一滴の墨汁をイメージした。

 これが、世に言うテンプレ召喚ならば・・・私が呼ばれたこの感覚は、この星の意志は・・・私と同じかも知れない。

 と、思いながらも、逞しいイケおじの腕にしがみつく私であった。
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