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本編

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アングレーズソースが冷えたらさっき作ったなんちゃって生クリームを混ぜてアイスクリームの生地は完成だ。

次は、アレンの好きなオレンジでソルベの生地を作っていく。

オレンジの実をよく洗って飾り用に輪切りにした物を砂糖と水を沸かしたシロップで煮込んでおく。
これも後でラインハルトに乾燥させて貰おうと思う。


実は絞ってジュースにする物と皮をむいて実だけを外した物、2種類用意する。

「じゃあ、カイルくんはオレンジを絞ってくれる?」

「分かりました。」

カイルくんがオレンジを絞っている間に包丁でオレンジの皮を剥いていく。
上下を落としてシャトー剥きという剥き方で実だけ残るように皮を剥く。
あとは実を外していくだけだ。


「痛っ……。」
隣でカイルくんの声が聞こえた。
包丁で手を少しだけ切ってしまってらしい。

「!?大丈夫?」

「はい、ちょっとだけ切っただけです。
すみません……。」
シュンとしていた…。

「とりあえず止血しよう。」
俺は近くにあった紙でカイルくんの切った手を抑えた。

「大丈夫ですよ、これくらい。
鍛錬で擦りむくこともありますし…。
2~3日したら治りますって……。」

そうは言っても、天使のように可愛いカイルくんの手に傷があるなんて……。

え?過保護すぎる?
そんなの知らない。

早く治るといいなぁ……。

「え!?トオルさん?」
急にカイルくんが驚きの声をあげた。

「え?なに?痛かった?」
心配になり抑えている手を外すと切り傷が……あれ?無い?

「今、魔法使いました?」

え?魔法?俺が?

「いや、わからないよ?」

「どうしたんだ?」
ちょうどアレン達の所に行っていたラインハルトが帰ってくる。

「今、トオルさんが……。」

ラインハルトは、カイルくんの言葉にジト目で俺を見てくる。

「トオル、何したんだよ?」

「なんもしてないよ!
なんもしてないからそんな目で見ないで……。」

ラインハルトはカイルくんを見る。

「今、僕が包丁で手を切っちゃって……。」

「は!?大丈夫か?怪我は?見せてみろ?止血しないと!」
ラインハルトはまるでさっきの俺みたいに慌て出す。
ね?過保護じゃないでしょ?

「いや、それが……治りました?」

「はぁ?怪我が一瞬で治るなんて御伽噺の白魔法でもあるまいし………!?」

言葉の途中でラインハルトがまた俺を見てくる。

「トオル。」

「は、はい、なんでしょう?」

「朝の魔力測定の時、白かったよな?」

「え?あ、うん、白かった。
いや、御伽噺なんでしょ?白魔法?ってやつ。
魔力が白かったからって安直過ぎない?」

俺がそういうとラインハルトはまた俺をジト目で見る。

「御伽噺の渡り人が何言ってんだよ?」


あ、確かにそうでした……。
俺の存在が御伽噺レベルでしたね……。


「はぁ……。とりあえずカイルに怪我がないならいいか……。後でアレンとヴェインに報告だな。さぁ、さっさと仕上げるぞ!」

ちなみに、アレンとヴェインさんはお皿を洗い終わって談話室に戻った所だった。

「わかったよ……。」

オレンジソルベ作りに戻る。

外した実を角切りにする。
カイルくんが絞ってくれたジュースは鍋に入れて砂糖をいれ煮詰めていく。

ある程度煮詰まったら実を加えて、ふやかしておいたゼラチンを入れて粗熱をとる。
これでオレンジソルベの生地も完成だ。


ラインハルトにお願いしてアイスクリームとオレンジソルベの生地を氷魔法で冷やしながら空気を含ませるように絶え間なく混ぜて凍らせていく。
これは、2人に任せて俺はメレンゲ菓子を作る。

今回はイタリアンメレンゲで作っていく。

イタリアンメレンゲは、水と砂糖を117℃まで温度を上げて少しづつ卵白に加えながら泡立てる方法だ。
冷えるとシロップが飴状になるから時間が経ってもメレンゲが潰れにくい。
バタークリームに入れると口当たりが良くなるし、マカロンに入れれば綺麗な膨らみのあるマカロンが安定して作りやすい。

魔法で乾燥させるとどうなるのか分からないから少しでも卵白が安定するようにイタリアンメレンゲにしてみた。

水と砂糖を火にかけて煮詰めていく。
温度計がないからいいくらいに煮詰まったら2本の棒をシロップに付けてから水で冷やして離す。
間にシロップが糸状になればちょうどいい煮詰まり加減だ。

ある程度立てておいたメレンゲに少しづつ糸を垂らすようにしながらさらに立てていく。
一気に入れてしまうと卵白が固まって口当たりが悪くなってしまうので少しづつ一定の量を入れていく。
全て入れてメレンゲに艶が出てきたら粗熱が取れるまで混ぜ続けて完成だ。

絞り袋がないので手頃な紙でコロネ(円錐状にした紙)を作って入れて絞っていく。

一直線に長い棒にしたり、丸く水玉みたいに絞ったり様々な形を作った。

煮込んでいたオレンジもシロップから水気を切って並べたらあとはラインハルトにお任せだ。

ちょうどアイスクリームとソルベが固まったようなのでラインハルトと交代して味見をする。

アイスクリームは、程よく空気を含んで滑らかで風味付けにいれたブランデーが香って美味しいかった。

オレンジソルベもオレンジの甘酸っぱさと滑らかな口当たりが絶妙だった。
果肉も入っていて食感が違うのもまたいい。
アレン喜んでくれるといいな…。

「トオル、乾燥はこんなもんでいいか?」

「え?もう出来たの?」
見に行くと完璧に乾燥している。

「ラインハルト凄い!」

本当に万能すぎる。
やっぱり一家に一人ラインハルトだよ!
これなら次からは普通にフレンチメレンゲで作っても大丈夫かもしれない。

「いや、そんなに褒めるなよ……。カイル、楽しかったか?」
ラインハルトは少し照れながらカイルくんに聞く。

「はい!ラインハルト様!
トオルさんもありがとうございました!
魔法って人を傷つけるだけの物だって思ってましたけどトオルさんが言う通り美味しいものを作って人を笑顔に出来るんですね……。」

「まぁ、トオルは特例中の特例だけどな。
カイルいいか、魔法はな確かに人を傷つけることもある。
戦争なんかで使われれば沢山の人が死ぬかもしれない。」

「ラインハルト?」
俺がラインハルトの言葉を止めようとするが彼は続けた。
カイルくんも真剣に耳を傾けている。

「でもな、カイルが魔法を使って皆を守ればいいんだ。
俺やトオルをカイルの大切な人を。
カイルは人を傷つける為に魔法を使うんじゃなく守るために魔法を使える立派な騎士になれ。」

「………はい。
ラインハルト様……。ありがとうございます。」

カイルくんは何か考えるような素振りを見せたあと、ラインハルトをまっすぐ見つめてお礼を言った。
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