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第二章

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「デガローに向かう途中で凪にあったら、どうするんだ?」

 俺の問いに、翁は呵々と笑う。

「心配ない。東に向かう途上で、凪になることはあるまい」

「何故だ?」

「偏西風が吹いておる。よほどのことがない限り、凪にはならん」

「そうか。なら一直線だな」

「そういうことだ。洋上で強風を孕み、一気にデガローまで驀進じゃ!」

 そのとき、ネーレウス号が洞窟を抜けた。

 燦燦と照り付ける太陽が眩しい。

 暗いところから一気に明るいところへ出たために、眩しさを感じたのだろう。

 俺は思わず右手をかざし、陽光を避けた。

 だがしばらくすると、それにも慣れた。

 かざした右手を下ろす。

 そこには、一面の青が広がっていた。

 透き通った空と、輝く海の青が水平線で混じり合っている。

 上を見上げれば、たくさんの白い横帆が、風をつかまえて大きくはらんでいる。

 斜め前方を小さな帆船が走っている。

 あれがタグボートだろう。もうロープでつながれてはいないようだ。

 それにしてもあの小さな船が、この巨大船を曳いたのか。凄いものだ。

 俺が感心し、タグボートの白い軌跡を目で追っていると、バーン翁が言った。
 
「まずは沖へ出る。そこで偏西風をつかまえたら、東に進路変更じゃ」

「外洋を行くってわけだ」

「その通りだ。途中で寄り道はせぬよって、三日間はずっと洋上じゃ。すぐに飽きるとは思うが、しばしの間じゃ、我慢せい」

「わかった。だが飽きるのは構わないが、それよりも酔いが心配だ」

「大丈夫じゃろ。大きな船だからな。あまり酔うことはないと思うぞ。さあ、それでは船室に行こうかの。茶でも飲もうぞ」

「ああ。そうだな」

 俺は、すでに踵を返して船室へ向かうバーン翁を追おうとしたものの、ゼロスが微動だにしないことに気付いた。

「そうか。ゼロスは海に出るのは初めてだもんな」

 ゼロスは視線を水平線から動かさず、答えた。

「うむ。海とは実に興味深いものだ。わたしはしばらくここで海を感じていたい。お前は船室に行くといい」

「そうか。じゃあじっくり楽しんでくれ。とはいっても三日間景色は変わらないらしいから、すぐに飽きるとは思うけど」

 ゼロスが相好を崩した。

「それまではせいぜい楽しませてもらおう」

 俺は笑みを浮かべ、踵を返した。

 そして、少し先で俺のことを待っていたバーン翁の元へ向かう。

 途中振り返って見ると、ゼロスは触手をひらひらと中空に漂わせていた。

 なんだが楽しそうだ。そうだよな。初めてのことって大概楽しいんだよ。

 俺はそんなことを思いながら、バーン翁と共に船室へと入っていった。
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