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第二章
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すると、村人たちの間にざわめきが起こった。
だが村長が右手を上げると、ざわめきはすぐに収まった。
村長はゼロスを値踏みするように見た。
「人語を話すのではないか?」
そう言われ、ゼロスが俺とレノアの顔を交互に見た。
俺もレノアもうなずいた。
ゼロスはそれをGOサインと受け取り、口を開いた。
「いかにも。わたしは人語を話すことが出来る」
すると、村人たちから悲鳴のような声が上がった。
どうやら彼らはネメセス族の存在は知っていたものの、実際に会うのは初めてのようだった。
だが村長は微動だにしない。
ゼロスを一点に見つめ、言った。
「ネメセス族は長命だと聞く。実はわしは、若い頃に一度だけネメセス族に会ったことがあるのだ。もしかすると、あのとき出会った集団の中にいたのではないか?」
村長の言葉に、ゼロスが笑みを浮かべた。
「あのとき……か。貴方が言っているのが七十年前の出来事ならば、わたしは確かにそこにいただろう」
すると村長がうめき声を上げた。
「おぉ……やはりか。あのとき見たネメセス族の一団は、それはもう美しかった。煌めくようなビロードの肌が、炎に照らされ、輝いておった」
レノアが敏感に反応する。
「炎?」
村長は暖かな笑みをこぼす。
「安心するといい。戦ったのではない。それどころか、彼らネメセス族は我らの村を助けてくれたのだ」
「助けた?もしかして、火事?」
「そうだ。あの日は風が強くてな。ある家の竈から出火した火が、瞬く間に他の木造の家々に燃え移ったのだ。炎は風をはらんで大きくうねり、竜巻のように上空高くまで立ち昇って天を焦がした。そんなときだった。彼らネメセス族が現れたのは」
レノアが怪訝な表情となった。
「ネメセス族が?なぜこの村に?」
レノアの問いに、ゼロスが答える。
「偶然だ。わたしたちは群れで狩りをする習性がある。あの日、あの風が強い日、わたしたちはたまたまこの村の近くまで狩りに来ていたのだ。そこで、悲鳴を聞いた。だからだ」
村長が、ゼロスの言葉を引き取る。
「そうであったか。わしらはあの日、そなたらが何故この村に現れたのか、わからんかった。だがそうか、狩りの途中であったか」
「うむ。我らは人間よりも遥かに耳がいいのでな。だから風に紛れた悲鳴が聞こえた。いや、もしかしたらその風こそが、貴方たちの声を運んでくれたのかもしれぬ」
「皮肉なものよ。あの大風によって村全体を焼き尽くす大火になったというのに、その同じ大風が、そなたらを導いてくれたということか」
「運命とは、ときに皮肉に、わたしたちを嘲笑うのかもしれぬ」
「そうかもしれぬな……」
村長は、そう言って空を見上げ、遥か遠くを見つめた。
その姿は、七十年前の苛烈な出来事に、思いを馳せているようであった。
だが村長が右手を上げると、ざわめきはすぐに収まった。
村長はゼロスを値踏みするように見た。
「人語を話すのではないか?」
そう言われ、ゼロスが俺とレノアの顔を交互に見た。
俺もレノアもうなずいた。
ゼロスはそれをGOサインと受け取り、口を開いた。
「いかにも。わたしは人語を話すことが出来る」
すると、村人たちから悲鳴のような声が上がった。
どうやら彼らはネメセス族の存在は知っていたものの、実際に会うのは初めてのようだった。
だが村長は微動だにしない。
ゼロスを一点に見つめ、言った。
「ネメセス族は長命だと聞く。実はわしは、若い頃に一度だけネメセス族に会ったことがあるのだ。もしかすると、あのとき出会った集団の中にいたのではないか?」
村長の言葉に、ゼロスが笑みを浮かべた。
「あのとき……か。貴方が言っているのが七十年前の出来事ならば、わたしは確かにそこにいただろう」
すると村長がうめき声を上げた。
「おぉ……やはりか。あのとき見たネメセス族の一団は、それはもう美しかった。煌めくようなビロードの肌が、炎に照らされ、輝いておった」
レノアが敏感に反応する。
「炎?」
村長は暖かな笑みをこぼす。
「安心するといい。戦ったのではない。それどころか、彼らネメセス族は我らの村を助けてくれたのだ」
「助けた?もしかして、火事?」
「そうだ。あの日は風が強くてな。ある家の竈から出火した火が、瞬く間に他の木造の家々に燃え移ったのだ。炎は風をはらんで大きくうねり、竜巻のように上空高くまで立ち昇って天を焦がした。そんなときだった。彼らネメセス族が現れたのは」
レノアが怪訝な表情となった。
「ネメセス族が?なぜこの村に?」
レノアの問いに、ゼロスが答える。
「偶然だ。わたしたちは群れで狩りをする習性がある。あの日、あの風が強い日、わたしたちはたまたまこの村の近くまで狩りに来ていたのだ。そこで、悲鳴を聞いた。だからだ」
村長が、ゼロスの言葉を引き取る。
「そうであったか。わしらはあの日、そなたらが何故この村に現れたのか、わからんかった。だがそうか、狩りの途中であったか」
「うむ。我らは人間よりも遥かに耳がいいのでな。だから風に紛れた悲鳴が聞こえた。いや、もしかしたらその風こそが、貴方たちの声を運んでくれたのかもしれぬ」
「皮肉なものよ。あの大風によって村全体を焼き尽くす大火になったというのに、その同じ大風が、そなたらを導いてくれたということか」
「運命とは、ときに皮肉に、わたしたちを嘲笑うのかもしれぬ」
「そうかもしれぬな……」
村長は、そう言って空を見上げ、遥か遠くを見つめた。
その姿は、七十年前の苛烈な出来事に、思いを馳せているようであった。
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