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第二章

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「へえ……それは、興味深いね……」

 エニグマが漫然とした笑みを浮かべ、僕の心の内側を覗き込もうとするかの如き鋭い視線を送って寄越す。

「でもさ、事故が起こったからって、君の心が耐え切れなくなるものかな?びっくりはするだろうけど、事故に遭ったからって心が壊れるようなことにはならないんじゃないかな?」

 僕はすでに覚悟を決めている。

「事故はきっかけに過ぎないさ。別人格に入れ替わった直接の原因は、別にある」

 エニグマはゆっくりと顔を上げる。

 だが視線は僕から外さない。

「なるほど。では、その直接の原因とやらを教えてもらえるかな?」

 僕は大きく深呼吸した。

 覚悟は決めているとはいえ、間は欲しい。

 だけど、あまり長い時間を取ると痛みが走るだろう。

 僕は自分を納得させるように何度かうなずくと、秘密の部屋の扉を自らの手で開ける。

「僕が両親を殺したからだ」

 エニグマの表情が驚愕に変わる。

 目を大きく見開き、口も開く。

 だが、声は出さない。

 いや、正確にはわずかにうめき声のようなものが聞こえる。

 僕は、静かに時を待つ。

 すると、エニグマがようやく立ち直り、口を開く。

「君は親殺しなのかい?」

 僕はゆっくりとうなずいた。

 エニグマが僕の話を噛みしめるように何度もうなずく。

「なるほど。その記憶を封じ込めるために、別人格が現れた……ということかな?」

 僕はまたも無言でうなずいた。

「おもしろい。実におもしろいよ……いや、失礼。おもしろがってはいけないね。君にとっては重大事だろうし」

 僕はそこでようやく口を開く。

「いや、君の好きにするといい」

 エニグマが意外そうな顔をする。

「僕がおもしろがってもいいと?奇異なことを言うね?」

「そう?別にそんなに変わったことを言ったつもりはないけど」

「へえ、ずいぶんと腹をくくったね」

「契約をしてしまったからね。そりゃあ覚悟を決めるさ」

「そう。じゃあ遠慮なく聞くけど、なんで殺したの?事故的なこと?それとも……」

 エニグマはゆっくりと口角を上げる。

 だが、その目は微塵も笑っていなかった。

「故意に殺したの?」

 僕はしばらく無言であったが、静かに口を開けると、肺腑の中の空気をゆっくりと吐き出してから答えた。

「故意だよ。ちゃんと殺そうと思って、殺したから」

 僕の答えを聞いて、エニグマが顔を上げて乾いた笑い声を立てた。

 僕はその笑い声を、無心で聞いている。

 秘密の部屋の扉は、すでに開け放たれた。

 ならば、何を動じるものでもない。

 さあ、次の質問をしてくるがいい。
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