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第2話 金魚の糞と言われましたけど何か?

可愛く無い事は……ない。

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 翌日の早朝七時。

「天気は快晴ね」

 わたしは木造二階建の我が家の二階自室にて、出窓から太陽を眺めながら小猫のように背伸びをした。
 部屋に吹き込む冷たい風が、ようやく肩先まで伸びた髪をなびかせる。

「うー、寒い寒い」

 三月だと言うのに朝夕は身を縮める寒さだ。
 ピシャリと窓を閉めてから、レースのカーテンをサッと閉じた。
 
「蓮はまだ寝てるかな?」

 ベットの上に飛び乗り、部屋にあるもう一つの窓から、カーテン越しに向こうを覗き込む。
 向こうに見えるのは蓮の部屋だ。厚手のカーテンは閉められたままである。
 偶然向こうの窓が開き、幼馴染同士で顔を見合わせて照れ合う。甘味なシチュエーション。ヒロイン気質が皆無なわたしには、そんな漫画の様なイベントはおとずれない。

「何やってるんだろ、わたし。これじゃあストーカーだわ」

 我に返り、部屋の片隅に立て掛けている等身大の姿見を見やる。鏡には、小柄で貧相な身体つきの無垢な少女が映し出されている。
 
「うーん。可愛くない事は……無いよね?」

 姿見に色んな角度を映し出し、自身をチェックする。贔屓目に見てもやはりそんなに悪くは無い。……筈だ。髪も肩先まで伸びてきている。
 周りには主役級の女子たちが居る為、相対的に悪く見えるのだ。そう思春期な自分を慰める。
 わたしも馬鹿では無い。蓮と釣り合いが取れてない事など百も承知だ。いや、だが、しかし、どうしても未練を断ち切れないのだ。

「……蓮がフリーな内は別に片思いしててもいいよね?」

 わたしは姿見に映る、間抜け面な自分にそう言い聞かせたのだ。

 乙女モードは一旦断ち切り、そのままベッドに寝そべりスマートフォンを手に取った。
 動画サイトアプリをタップし、再生リストにある【フューチャーズ・ザ ・ロック】から、お気に入りの動画を再生させた。––––蓮が率いるバンドの動画だ。
 登録者数と再生数は既に桁数を数えるのが面倒なほどである。
 わたしは毎日、画面越しに彼を見るのを日課としていた。コメント欄は英語で埋め尽くされている。
 蓮が書く作詞は日本語と英語半々で綴られており、国内を通り越して世界中で人気を博していたのだ。
 
 
 暫く動画を眺めていると、画面にチャットの通知バッチが現れた。動画を一時停止してチャットアプリを開く。––––ギターのヒロトからだ。
 チャット内容は『今、時間空いてるか?』と一言だけだ。
 何だろう? 用件を考える。さして心当たりもない。
 彼とグループチャットはするが、個別で連絡を取ることは稀だ。チャットアプリの電話マークをタップすると、ワンコールでヒロトが電話に出た。

『ヒロトから連絡とか珍しいね。どうしたの?』
『チャットの返信が電話とか雫らしいな』
『まあね。で、用件は?』

 そう尋ねると、彼は少しの沈黙を挟み電話口に言葉を紡いだ。

『まあ、なんだ、昨日の事だけど気にすんな。小春もあんな性格だからな。アイツも悪気があって言ってる訳じゃないし』
『へー、ヒロトが小春の為にわざわざフォローの連絡よこすなんて、珍しい事もあるのね?』
『っ……! 違う! 俺は別に小春のフォローがしたい訳じゃない!』
『分かってるって。何年、小春と一緒に居ると思ってるのよ。心配しないで、気にしてないから』
『……そうか。雫が元気ならそれでいい』
『わたしは何時だって元気モリモリよ! じゃあね!』

 電話を切り、勉強机に置かれた写真盾を眺める。中学一年生の夏に撮った七人の集合写真だ。
 皆んな楽しそうな笑顔だが、ヒロトは顔面に青タンを付け目の辺りを腫らしている。
 
「うーん。あのヒロトがまさかね……。もしかして小春に恋してる?」

 わたしは一人部屋で頭を縦に振り、至極納得してみせた。客観的に見てもヒロトは背も高く、イケメンだ。小春とだって釣り合いは取れている。
 わたしは仲間内のゴシップネタを、我が平たい胸だけに仕舞い込んだのだ。
 
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