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第2章 魔術学園編
20話 陰の実力者
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試験開始まで設けられた30分の自由時間────。
早速、マリアは移動を開始した。
俺は彼女がスタート地点から移動を始める前に、一つ戦略を申し出た。
『他チームの動向を確認してから動くほうが得策だ』と。
だが、彼女は彼女なりの考えがあるようで、
『団長は私よ。私の作戦に従いなさい』と、俺の提案は一瞬されてしまったのだ。
口を一文字に結んだ狭偏屈な少女を納得させるには、至極骨が折れそうである。と悟り的確信を持っている俺は、渋々と彼女の方針に従うことにした。
自称、団長様が仰っているのだ。『作戦がある』と。甘んじようではないか──彼女のいう作戦とやらに。
†
†
試験のフィールドである邪の森は、正にジャングルそのものである。草木が鬱蒼と生い茂り、川や沼などの水辺もあることから虫や動物も生息している。
薄暗い密林の中、前を走るマリアの後について走ったもんだから完全に方向感覚を失った。それにしても……。
「おいっ、どこまで行くんだ?」
木々を潜り抜けながら疾走するマリアの隣に追いつき声をかける。
彼女は足をとめるつもりはないようだ。
チラリとこちらに目をやったかと思うと、少女はトレンドマークの赤髪を背後にいっそう靡かせて加速させた。
「やれやれ」
仕方なく彼女の後ろをついて走る。
天邪鬼な少女に止まれと言ったところで止まるはずもないしな。
ほどなくして────
森を見渡せる岸壁の上でマリアはようやく足を止めた。
「おっと、やっと立ち止まったか」
俺は彼女を追い越したところで足を止める。
かなりの距離を移動した。そろそろ自由時間も尽きそうだ。方向感覚もなく走りまわったものだから正確な位置状況は分からないが。
「だいぶんスタート地点から移動したみたいだな?」
手で陽射しを遮り辺りを見渡す。
見渡しの良い崖上からは、スタート地点である教員たちが待機する広場は見えない。
木の頭頂部が地平線のごとく眼下に広がっているだけだ。
マリアへ目をやると、彼女は膝に手を当てて息を切らしている。健康的な肌には汗の玉がびっしりと浮かびあがった状態だ。
まあ、あれだけの速度で走れば、流石のマリアも疲労を隠せないか。
「これからどうするんだ。団長さん?」
チームは俺とマリアの二人だけだ。
ポイントを得るには他チームを水弾銃で狙撃退場させるか、スポットの確保が必要となる。
「あんた……何者なの……?」
乱れた呼吸と髪を整えたマリアは、一声とともにギョロリと睨む。
「何者? ローレン魔術学園一年D組のグラッド──」
「そういう事じゃないわよっ!」
「大声をだすな。他のチームの奴らに位置を特定されるぞ」
「くっ……!」
彼女の言わんとしていることは分かる。
クラスでの俺の立場は優等生でも劣等生でもない。
優等生たる彼女が息を切らしているのなら、俺もそのように装うべきだったのだ。
「……前にあなた『このまま誰ともチームを組めなかったら退学決定だ』とか言ってたけど、あれは嘘だったのね!」
「嘘じゃない。流石にこの特別試験をソロで挑むのはキツイからな」
「……」
嘘ではない。
チーム戦での特別試験にソロで臨むことは自殺行為に他ならない。まあ、それは俺のことではなく、暗にお前に向けて言ってたことだがな。
「私は全力で走ったのよ。それなのに……」
「逃足だけは速いんだ俺」
流石に無理があるか……。
実際、俺は息を切らすところが汗ひとつかいていない。
マリアは怪訝に表情を曇らせていたが、
「まあー、いいわ。あなたへの詮索は試験の後でたっぷりとさせて貰うから」と、取り敢えずに疑念の矛をおさめた。
それにしてもまずかった。
マリアの魔力はクラスでもトップクラス。
正直、他のクラスに在籍していても見劣りしないだろう。
そんな彼女が全力疾走してると気付かなかったとはいえ、安易に後ろをついて走ったのは失態である。
強さの基準────魔力と魔素量。
大まかにいえばこの二つにつきる。
勿論、頭脳に戦闘技術、魔法スキルなども多大に影響する。
しかし学生レベルの場合、それらはまだまだ横並びであり、魔力や魔素量である程度の優劣がついてしまう。
魔力と魔素は似て非なるもの。
魔素が魔法のエネルギー源であるとしたら、魔力は物理的な攻撃力、防御力や反射神経などの身体能力に直結する。
要は学校の授業で常に平均点を模索している俺が、簡単についていけてはダメだったのだ。
まあ、やってしまったことは取り消せない。弁明は後で考えるとするか。
特別試験が開始された────。
隣に佇むマリアと俺は、試験開始の花火が打ち上がった様を────見届けた。
早速、マリアは移動を開始した。
俺は彼女がスタート地点から移動を始める前に、一つ戦略を申し出た。
『他チームの動向を確認してから動くほうが得策だ』と。
だが、彼女は彼女なりの考えがあるようで、
『団長は私よ。私の作戦に従いなさい』と、俺の提案は一瞬されてしまったのだ。
口を一文字に結んだ狭偏屈な少女を納得させるには、至極骨が折れそうである。と悟り的確信を持っている俺は、渋々と彼女の方針に従うことにした。
自称、団長様が仰っているのだ。『作戦がある』と。甘んじようではないか──彼女のいう作戦とやらに。
†
†
試験のフィールドである邪の森は、正にジャングルそのものである。草木が鬱蒼と生い茂り、川や沼などの水辺もあることから虫や動物も生息している。
薄暗い密林の中、前を走るマリアの後について走ったもんだから完全に方向感覚を失った。それにしても……。
「おいっ、どこまで行くんだ?」
木々を潜り抜けながら疾走するマリアの隣に追いつき声をかける。
彼女は足をとめるつもりはないようだ。
チラリとこちらに目をやったかと思うと、少女はトレンドマークの赤髪を背後にいっそう靡かせて加速させた。
「やれやれ」
仕方なく彼女の後ろをついて走る。
天邪鬼な少女に止まれと言ったところで止まるはずもないしな。
ほどなくして────
森を見渡せる岸壁の上でマリアはようやく足を止めた。
「おっと、やっと立ち止まったか」
俺は彼女を追い越したところで足を止める。
かなりの距離を移動した。そろそろ自由時間も尽きそうだ。方向感覚もなく走りまわったものだから正確な位置状況は分からないが。
「だいぶんスタート地点から移動したみたいだな?」
手で陽射しを遮り辺りを見渡す。
見渡しの良い崖上からは、スタート地点である教員たちが待機する広場は見えない。
木の頭頂部が地平線のごとく眼下に広がっているだけだ。
マリアへ目をやると、彼女は膝に手を当てて息を切らしている。健康的な肌には汗の玉がびっしりと浮かびあがった状態だ。
まあ、あれだけの速度で走れば、流石のマリアも疲労を隠せないか。
「これからどうするんだ。団長さん?」
チームは俺とマリアの二人だけだ。
ポイントを得るには他チームを水弾銃で狙撃退場させるか、スポットの確保が必要となる。
「あんた……何者なの……?」
乱れた呼吸と髪を整えたマリアは、一声とともにギョロリと睨む。
「何者? ローレン魔術学園一年D組のグラッド──」
「そういう事じゃないわよっ!」
「大声をだすな。他のチームの奴らに位置を特定されるぞ」
「くっ……!」
彼女の言わんとしていることは分かる。
クラスでの俺の立場は優等生でも劣等生でもない。
優等生たる彼女が息を切らしているのなら、俺もそのように装うべきだったのだ。
「……前にあなた『このまま誰ともチームを組めなかったら退学決定だ』とか言ってたけど、あれは嘘だったのね!」
「嘘じゃない。流石にこの特別試験をソロで挑むのはキツイからな」
「……」
嘘ではない。
チーム戦での特別試験にソロで臨むことは自殺行為に他ならない。まあ、それは俺のことではなく、暗にお前に向けて言ってたことだがな。
「私は全力で走ったのよ。それなのに……」
「逃足だけは速いんだ俺」
流石に無理があるか……。
実際、俺は息を切らすところが汗ひとつかいていない。
マリアは怪訝に表情を曇らせていたが、
「まあー、いいわ。あなたへの詮索は試験の後でたっぷりとさせて貰うから」と、取り敢えずに疑念の矛をおさめた。
それにしてもまずかった。
マリアの魔力はクラスでもトップクラス。
正直、他のクラスに在籍していても見劣りしないだろう。
そんな彼女が全力疾走してると気付かなかったとはいえ、安易に後ろをついて走ったのは失態である。
強さの基準────魔力と魔素量。
大まかにいえばこの二つにつきる。
勿論、頭脳に戦闘技術、魔法スキルなども多大に影響する。
しかし学生レベルの場合、それらはまだまだ横並びであり、魔力や魔素量である程度の優劣がついてしまう。
魔力と魔素は似て非なるもの。
魔素が魔法のエネルギー源であるとしたら、魔力は物理的な攻撃力、防御力や反射神経などの身体能力に直結する。
要は学校の授業で常に平均点を模索している俺が、簡単についていけてはダメだったのだ。
まあ、やってしまったことは取り消せない。弁明は後で考えるとするか。
特別試験が開始された────。
隣に佇むマリアと俺は、試験開始の花火が打ち上がった様を────見届けた。
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