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第一章 序章

18話 タームの性格と黒髪の少女

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「どのお店も混んでますね。どうしますグラッドさん?」

 リアンの繁華街を歩くが、どこもかしこも店は客で一杯だ。
 
「そりゃそうだろう。受験生だけでもあの人数だからな。親も含めたらかなりの数だ」

 試験結果は二時間後、大聖堂前にて行われる。
 時間潰しを必要とする客たちが、大聖堂近くの繁華街に押し寄せたのだから当然こうなる。

「タームちゃんは何か食べたいものとかある?」

 ティアナはミディアムボブの金髪を揺らしながら、手を繋いでいる小さな少女へ尋ねた。

「大丈夫です。タームはご主人様に頂いたパンを食べましたから」

 タームの口癖は『大丈夫』のようだ。
 彼女に何を訊いてもあまり意味を持たない。
 奴隷生活のせいだろう。彼女は肯定と遠慮の二つでしか答えない。決して本性を見せることはない。優等生な従順奴隷を演じている。
 だがしかしだ。彼女の心の内をある程度把握できるすべを、オレは持っているのだ。
 
 繁華街を抜けきる手前で、

「ティアナ、繁華街の中央付近にあったパンケーキの店にしよう」
「パンケーキですか? 分かりました。じゃあ戻ろっか、タームちゃん」
「は、はい」

 踵を返してパンケーキ屋へと引き返す。
 多少混んでいるが仕方ない。
 店の外の列に、三人で並ぶ。

「グラッドさんって甘いものが好きなんですね。意外だな~」
「まあね」

 何故か嬉しそうにするティアナはクスクスと笑う。
 元の世界では甘いものを好んで食べる事はなかったが、この世界での俺はティアナと同年代だ。
 甘いものを受付ける胃袋になっているだろう。

「あっ、見て見てタームちゃん。この三段重ねのパンケーキ美味しそう~」

 店頭のメニュー看板を見て、はしゃぐティアナ。
 ことあるごとに彼女はタームのほほをぷにぷにともてあそぶ。
 一方、タームは触られることに嫌がる素振りを見せることなく、作り笑顔でティアナに合わせていた。
 俺もタームの餅のような頬を触りたい衝動に駆られる。だが耐えた。警戒心満載の少女に邪推されかねない。

 席が空くまでの間、ティアナはタームの髪型をツインテールにセッティングして暇をつぶしていたのだ。

「おっと、順番が回って来たぞ」
 
 店内に入り席についた。
 姉妹のような二人の少女は仲良く対面に座る。

「どれにしようかな~。やっぱりコレかな?」

 ティアナは、メニュ表を俺やタームにも見えるように配慮してテーブルに広げて見る。
 女子力が高そうだ。

 それにしてもこの店を選んで正解だった。

 メニュー表を見つめる、ツインテールの少女の瞳は爛々と輝きを放っている。
 そして、彼女のご自慢のうさぎ耳は言うまでもなく内心を物語っているのだ。さっき店前を通り過ぎたときのように。

「何になさいますか?」

 愛想の良いの声をした女性店員が俺の横に立つ。
 チラリと流し見てみる。まだ若い。俺やティアナと変わらないぐらいだ。
 メイド調のコスチューム姿をした黒髪ロングの美少女。口調と服装に身合った清楚系だ。

「これ下さい。タームちゃんもコレでいい?」
「いえ、タームは大丈夫です。お腹一杯ですので」
「え……? そうなの?」

 やれやれ。

「同じやつを三つ頼む」

 俺は強行的にタームの分も注文する。

「大丈夫だよタームちゃん。私もそんなにお腹減ってないけど、甘いものは別腹だから」

 ティアナという少女は実に賢い。
 即時に俺の意図を察してフォローせしめた。
 タームにとって姉的ポジションになり得る彼女。実に有難い存在である。
 
「かしこまりました。『蜂蜜たっぷりの三段重ねケーキ』を三つです……ね、って! ロイズ! なんであんたがココにいるのよ⁉︎」

 メイド姿の少女は驚いた様子で丁寧な口調から一変した。

「……俺はロイズじゃないぞ。グラッドだ」
「何いってるのよ。あたしがアンタを見間違えるわけないじゃん!」
「やれやれ。ないじゃんと言われても。それにメイドキャラが崩壊しているぞ」
「あたしだってこんな格好したくないわよっ。でもマスターがこの格好だと時給アップするって言うから」

 栗色頭の少年に加えて、次にメイド姿のバイトときたか。これで俺を知っている奴が二人現れた事になる。
 一体どうなってやがる。
 
「悪いが他人の空似だ。早く『蜂蜜たっぷりの三段重ねケーキ』とやらを三つ持ってこい」
「……アンタちょっと合わない間に性格悪くなったわね」

 マジマジと凝視する黒髪少女。

「あのー、グラッドさんのお知り合いですか? ロイズって言うのは?」

 ティアナが話に割って入った。

「誰かと勘違いしているんだろう。気にするな」
「……そうですか」

 まあ、本当に他人の空似の可能性もある。
 いづれにしても記憶がないのだから考えるだけ無駄だ。
 俺は少し強い口調で、

「俺たちは客だぞ。注文をとらないのなら、マスターとやらを呼んでもらうが」
「……分かったわよ。でもアンタがこの街に居ることは、フィートに報告しておくんだからね」
「勝手にしろ」

 彼女は渋々と注文を受け付けて、すごすごと厨房へと戻っていったのだ。
 
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