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第2章 魔術学園編

3話 入学式のいざこざ(1)

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 翌朝の晴れた日の早朝──。

 俺はローレン魔術学園の洒落た制服を身にまとう。

「それじゃあ、俺は行ってくるから。留守番頼んだぞ」
「大丈夫です。任せてください。タームは畑の手入れしておきます!」

 何やらはりきっているターム。

 俺といるときにも極力自由にさせているが……一人っきりの時間が訪れることを、心待ちにしている様子だ。
 露骨に表情をかえることはしないが、少女のうさぎ耳は嘘をつけない。
 にこやかな彼女の笑顔をみると、なんとも子育ては難しいものだと実感する。
 
「まさか独身貴族だった俺が、娘に嫌われている父親の心情を理解できる日がくるとは……」
「ご主人様、何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもないぞ。じゃあ、行ってくるな」
「いってらっしゃいませ!」

 のびやかなタームの声とともに、高く垂直にジャンプする。空中で体勢を整えて、学園のある方角に向かって飛び立った。
 一瞬にしてトップスピードに達する。走るよりも圧倒的に速い。向かい風の風圧をきりさきながら飛行する。
 我流の飛行魔法といったところだ──。

 我流としたのは、この世界に正真正銘の飛行魔法は存在するのだが、俺にはまだ使えない。
 そこで利用したのが、俺が持つもう一つの固有スキル──【瞬間移動】だ。
 まあ、瞬間移動というと聞こえはいいが、範囲10メートル以内と制限がある。
 俺はこれを繰り返し発動させることによって、空中飛行を可能にしているのだ。


 †
 †


 高速飛行によって、リアンの街へはすぐにたどり着いた。
 市街地に入る前に俺は地上に降り立ち、そこからは歩いて行くことにした。
 飛行魔法を使える学生となると、どうにも目立ってしまう。
 俺は特に学園で目立つつもりも、偉ぶるつもりもない。

 俺が学園の通う目的。それは、──今度こそ青春を謳歌するため、である。

 元の世界では冴えない学生生活。青春の思い出など一ページも有しない。そんな悲惨な学生生活であった。
 
 ──俺はを送りたいのだ。
 だから自ら能力ちからをひけらかし、悪目立ちする気もない。既にサーシャに無理難題を擦り付けられているのだから、これ以上の面倒事を抱え込むつもりはないのだ。

 もちろん、キチンとした目的もある。
 右も左も分からない異世界での生活だ。教育機関が充実しているのなら、その恩恵を得ることが得策である。若者世代の情報網も馬鹿にならないだろうしな。


 俺は正門前で、わずかに乱れた制服の襟を但す。
 新入生たちを歓迎するかのように陽は暖かく差しこみ、木々の若葉が風で揺れている。
 以前、俺が不法に乗り越えた正門を、初々しい新入生たちが次々とくぐりぬけていく。
 そんな光景と春っぽい香りに、俺も胸に期待を膨らませて正門をくぐった。
 
 
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