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第六章 終わりなき初恋を君に

第六章 終わりなき初恋を君に11

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 「今日は実にめでたい日だ! 皆大いに騒ぐがいい」

 ロベルトの言葉を合図にしたかのように、その場はにぎやかなものとなった。
 騎士も、貴族も、街の人々も。そこにいる誰もが皆笑顔を浮べている。

 やがて会場には音楽が流れ始め、人々は音楽に合わせて踊り出す。
 カメリアとセロイスはそんな会場の様子を端の方で見ていた。

 踊る人々の中にはカメリアの見知った顔がいくつもあり、その光景はカメリアをひどく幸せな気持ちにさせるものだった。

「お前は踊らないのか?」
「この格好で踊れると思っているのか?」

 整えられた髪はつけ毛も取れてドレスの裾は破れ、靴のかかとも折れている。
 腰にはリボンチョーカーで剣を無理矢理結び付けている。
 とてもではないが、踊れる格好ではない。

 それはカメリアの隣にいるセロイスだって同じことだ。
 セロイスは髪形こそ普段後ろに流している髪を下ろしているだけだが、着ているものはあの青いドレスのままだ。
 不思議と違和感はないものの、さすがにその格好では踊れないだろう。

「お前は踊りたくないのか?」
「踊りたくないと言うと嘘になるが、さすがにこの格好ではな」
「いいんじゃないのか。俺はどんな格好だろうと、お前ならいいと思うがな」

 セロイスはそう言うと、カメリアへと手を伸ばした。
 耳元にそっと飾られたのは、あの花の髪飾りだった。

「……似合うか?」
「よく似合っている」
「そうか……」

 短い髪も、短くなったドレスも、かかとのない靴も、腰にある剣も。
 そのすべてがカメリアを形作り、そして彩っているもの達だ。

「無駄に飾らない、ありのままの姿をしたカメリアが美しいと、俺は思う」
 セロイスはカメリアへと手を差し出すが、セロイスの格好に改めて目をやったカメリアは思わず笑った。

「お前は、その格好で踊るつもりなのか?」
「これならば公平だろう?」

 目の前で手を差し出しているのは、あの日出会った少女の格好をしたセロイスだ。
 髪を下ろしているせいで幼く見えるとは言え、女装をしていることにはかわりない。

 セロイスの仕草だけを見れば、まるで王子様のようだが、実際は王子様ではなく、王子様に仕える騎士であり、カメリアもお姫様などではなく剣を手にする騎士だ。

 しかし、ふたりは選んだのだ。
 王子でも姫でもない、互いの目の前にいる騎士を。

「俺と踊ってくれるか、騎士様?」
「私でよければ喜んで相手になろう、騎士様」

 まるで試合の申し込みか何かのようなだが、ふたりにとってはこれ以上ないくらいの誘い文句だった。

 人々の視線をあびながらふたりが踊る姿はどこか武闘のようでありながらも、ドレスを翻すその様はまるで夜に咲く椿の花のように美しい。

 そんなふたりを祝福するかのように、夜の虹が夜空を優しく包み込んでいた。
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