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第五章 重なる想い、重ならない想い
第五章 重なる想い、重ならない想い8
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「…………何か変なものでも食べたか?」
「ちげぇよ! 俺はただお前に謝ろうと思ってだな」
「謝る?……私に?」
バルドの言動にはあまりにも繋がりが見えず、意味がわからないままバルドを見ていたカメリアに気付いたバルドはどこか気まずそうに頭をかきながら口を開いた。
「俺はよ、上っ面だけで物を見る奴が大嫌いなんだ。なのに、俺もお前の上っ面しか見てなかった。だから、まさか馬鹿共がお前に対して裏で色々しているのも、俺は知らなかったんだ」
「どうして、そのことを……」
「あいつに聞いた。というより俺が話させた。あいつはお前と約束したんだって、なかなか俺にも話そうとはしなかった」
「わかってる。ドロシアは人のことを勝手にしゃべるような人ではないからな」
「とりあえず、俺の下にいる馬鹿なことした奴はしめといたが、ただ勘違いするなよ! お前が裏でされていることも知らずに上っ面しか見てなかったことは悪いと思ってるが、お前のことは嫌いだ」
(今なら聞いてみてもいいのかもしれない)
カメリアは疑問に思っていたことをバルドにたずねた。
「ひとつ聞きたいんだが、どうしてそこまで私を嫌うんだ? ドロシアのことが好きで私が邪魔だからか?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
即座に否定するロベルトだったが、その顔は真っ赤になっていた。
「でも、お前はドロシアのことが好きなんじゃないのか?」
「いや、好きだけどよ……」
どこか照れくさそうに答えるバルドは普段のカメリアに対する勢いが嘘のようにおとなしいしいものだったが、ドロシアが好きなことを否定することはなかった。
「ドロシアを好きなことは否定しないんだな」
「どうして否定する必要があるんだ? 俺があいつを好きなのは、本当のことだからな」
顔に赤さを残したままのバルドからのあまりに真っ直ぐな答えにカメリアはどう返せばいいかわからず、何も言えなかった。
そんなカメリアの反応に今更恥ずかしくなったのか、バルドはわざとらしく声を上げた。
「と、とにかくだ! お前を嫌うのとドロシアは関係ねぇよ!」
「なら、どうしてだ?」
何故自分を嫌っていながらも、わざわざつっかかってくるのか。
カメリアにはわからなかった。
「お前がいつまでも目を覚まさないからだ」
「どういう意味だ?」
ロベルトはカメリアからの問いかけに足を止めた。
周りを見てみれば、いつの間にかセロイスの屋敷に着いていた。
「お前は騎士にはなれても、皆が望むような王子になんざなれやしない。そのことにいつまでたっても気づきやしねぇ。お前のそういうとこが嫌いだ」
カメリアにそう告げると、バルドはその場を後にした。
城へ戻るバルドの背中をカメリアはただ見送ることしか出来なかった。
※※※
「王子様にはなれない、か」
部屋へと戻ってきた後も、カメリアの頭の中にはバルドの言葉が回っていた。
こんな自分を一体誰が王子様などと思うだろうか。
王子様にもお姫様にもなれない、中途半端な自分。
カメリアはふと起き上がると制服の上着を脱いだ。
その下にあるのは白いシャツに包まれた身体は、男性のように誰かを守れるたくましさも、女性のように誰かを包み込めるやわらかさも備えてはいない。
剣を振るうには細い腕、かすかなやわらかさを持った胸。
カメリアは自分の身体を抱き締めると、ベッドの上に寝転んだ。
心のどこかでは騎士になれないことをわかっていたのかもしれない。
ただ、そのことを認めたくなかった。
(まさか、こんな形で思い知らされるはめになるとはな)
一度捨てたはずのものが戻ってくるなど、一体誰が予想出来ただろうか。
こんなことになるなど、カメリア自身にも予想できなかった。
(せめて一目だけでも、あの日出会った少女にこの姿を見せたかったな)
少女に会えば、この姿を見てなんと言ってくれるだろう。
そんなことを考えながらも、気づけば、カメリアは眠りに落ちていた。
「ちげぇよ! 俺はただお前に謝ろうと思ってだな」
「謝る?……私に?」
バルドの言動にはあまりにも繋がりが見えず、意味がわからないままバルドを見ていたカメリアに気付いたバルドはどこか気まずそうに頭をかきながら口を開いた。
「俺はよ、上っ面だけで物を見る奴が大嫌いなんだ。なのに、俺もお前の上っ面しか見てなかった。だから、まさか馬鹿共がお前に対して裏で色々しているのも、俺は知らなかったんだ」
「どうして、そのことを……」
「あいつに聞いた。というより俺が話させた。あいつはお前と約束したんだって、なかなか俺にも話そうとはしなかった」
「わかってる。ドロシアは人のことを勝手にしゃべるような人ではないからな」
「とりあえず、俺の下にいる馬鹿なことした奴はしめといたが、ただ勘違いするなよ! お前が裏でされていることも知らずに上っ面しか見てなかったことは悪いと思ってるが、お前のことは嫌いだ」
(今なら聞いてみてもいいのかもしれない)
カメリアは疑問に思っていたことをバルドにたずねた。
「ひとつ聞きたいんだが、どうしてそこまで私を嫌うんだ? ドロシアのことが好きで私が邪魔だからか?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
即座に否定するロベルトだったが、その顔は真っ赤になっていた。
「でも、お前はドロシアのことが好きなんじゃないのか?」
「いや、好きだけどよ……」
どこか照れくさそうに答えるバルドは普段のカメリアに対する勢いが嘘のようにおとなしいしいものだったが、ドロシアが好きなことを否定することはなかった。
「ドロシアを好きなことは否定しないんだな」
「どうして否定する必要があるんだ? 俺があいつを好きなのは、本当のことだからな」
顔に赤さを残したままのバルドからのあまりに真っ直ぐな答えにカメリアはどう返せばいいかわからず、何も言えなかった。
そんなカメリアの反応に今更恥ずかしくなったのか、バルドはわざとらしく声を上げた。
「と、とにかくだ! お前を嫌うのとドロシアは関係ねぇよ!」
「なら、どうしてだ?」
何故自分を嫌っていながらも、わざわざつっかかってくるのか。
カメリアにはわからなかった。
「お前がいつまでも目を覚まさないからだ」
「どういう意味だ?」
ロベルトはカメリアからの問いかけに足を止めた。
周りを見てみれば、いつの間にかセロイスの屋敷に着いていた。
「お前は騎士にはなれても、皆が望むような王子になんざなれやしない。そのことにいつまでたっても気づきやしねぇ。お前のそういうとこが嫌いだ」
カメリアにそう告げると、バルドはその場を後にした。
城へ戻るバルドの背中をカメリアはただ見送ることしか出来なかった。
※※※
「王子様にはなれない、か」
部屋へと戻ってきた後も、カメリアの頭の中にはバルドの言葉が回っていた。
こんな自分を一体誰が王子様などと思うだろうか。
王子様にもお姫様にもなれない、中途半端な自分。
カメリアはふと起き上がると制服の上着を脱いだ。
その下にあるのは白いシャツに包まれた身体は、男性のように誰かを守れるたくましさも、女性のように誰かを包み込めるやわらかさも備えてはいない。
剣を振るうには細い腕、かすかなやわらかさを持った胸。
カメリアは自分の身体を抱き締めると、ベッドの上に寝転んだ。
心のどこかでは騎士になれないことをわかっていたのかもしれない。
ただ、そのことを認めたくなかった。
(まさか、こんな形で思い知らされるはめになるとはな)
一度捨てたはずのものが戻ってくるなど、一体誰が予想出来ただろうか。
こんなことになるなど、カメリア自身にも予想できなかった。
(せめて一目だけでも、あの日出会った少女にこの姿を見せたかったな)
少女に会えば、この姿を見てなんと言ってくれるだろう。
そんなことを考えながらも、気づけば、カメリアは眠りに落ちていた。
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