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第四章 咲かない花
第四章 咲かない花7
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「そこまでにしてもらおうか」
カメリアの前にセロイスが立ち、兵隊達を見回した。
「たしかに今のカメリアの行動はロベルト様を守る立場にある者として批判されても仕方ない。だが、それ以上の批判は紅蒼の騎士を選んだロベルト様に対する言葉と受け止めるが、いいんだな?」
セロイスの言葉に一瞬にしてざわめきが消えた。
カメリアはセロイスの背中を黙って見ることしかできなかった。
「俺に言われたくらいで口を閉じるなら、そのような意味も意志もない軽い言葉を口にすべきではない。理不尽な非難を浴びせるひまがあるのなら、もっとすべきことがあるはずだ」
セロイスににらまれた騎士がびくりと肩を揺らした。
「今日はお前の率いる隊が城の警護に当たっていたはずだが、警護は一体どうなっているんだ? 何故こんなにも簡単に侵入を許した?」
「そ、それは……」
「己の役目も果たせない人間が、他人を非難する資格はないと思うが」
「まぁまぁ、それくらいにしておけばいいんじゃないかな」
セロイスを止めたのは、先程までセロイスと言い合っていたルベールだった。
「君の言いたいことはよくわかるよ」
まだ何か言いたげなセロイスの肩をルベールは叩くと周囲を見回した。
「でも、これ以上、城の警備に穴をあけられていても困るから……ねぇ?」
ルベールの妙に凄みのある最後の言葉に周囲は一瞬凍り付いたかと思うと、慌ただしく自分達の持ち場へと駆け出していった。
その場に残ったのはカメリアとセロイスに、ロベルトとルベール。
そして、ワルターをはじめとする数名の騎士だけになった。
「さてと……これで話がしやすくなったかな」
「どういうことだ?」
セロイスの疑問には答えず、ルベールは手にしていたナイフをロベルトへ差し出した。
「どうやらこれは宣戦布告のようですよ」
「ほぉ、妹をかばうつもりか、ルベール文官」
ワルターがルベールへ向ける目は完全に格下の者を見るようなものであったが、ルベールは気にすることなかった。
「たしかに僕は妹のことが可愛くて仕方ないですが、僕の妹は誰かのように助けや取り巻きがいなければ、何もできないような人間ではありませんから」
ルベールは取り巻きらしき騎士達に囲まれたワルターを見ていた。
「それに僕はあくまで自分の意見を述べるにすぎない。それが文官である僕の仕事ですから」
ルベールは仕事で文献や資料を取り扱っていることもあり、様々な知識に精通している。
そのルベールがそう言うからには何か理由があるのだろう。
ロベルトは興味深そうにルベールにたずねた。
「俺への宣戦布告とは面白い解釈だが、お前どうしてそう思うんだ?」
「もしもこれがカメリアを狙ったものとすれば、わざわざ城に侵入し、それも大勢の目の前でカメリアを狙う必要はない」
城でなくともカメリアを狙う機会はいくらでもあるはずだ。
警備の敷かれている城に侵入するなど自らを危険に晒すようなものであり、更に大勢の目の前でカメリアを狙うなど捕まる危険が高くなるだけだ。
「何故、犯人はそんなことを」
「この時に考えられる犯人の目的はふたつ」
ルベールはすっと長い指を立てた。
「ひとつはカメリアの存在、つまり女騎士の存在に強く反対しているということを大勢の人間に示すため。そしてもうひとつは己の存在の誇示」
「でも、誰かを狙うのなら、己の存在を気付かせないことの方が重要なはずでは?」
「さすがだよ、カメリア。今カメリアが言ったようにそう考えるのが普通だ」
「普通でないというなら、どういうことだ?」
セロイスにうながされてルベールは話を続ける。
「この件は端から見ればカメリアを狙ったものに見えるけれど、本当の目的はカメリアではない。犯人の本当の目的は……」
ルベールは一度言葉を切ると、ロベルトを見た。
「あなたですよ、ロベルト王子」
騎士達がルベールの言葉の意味に気付いて動揺をする中、ワルターだけが苛立つように声を上げた。
「だから、どうしてそうなるのだ、ルベール文官!」
「おや、ただの文官である僕でも気づいているというのに、あなたはまだ気付きませんか?」
「御託はいい! さっさと言え!」
ルベールはワルターに向かって静かに告げた。
「今回はカメリアだった。しかし狙おうと思えば、いつでも王子を狙える……そんなメッセージが込められていたのですよ」
「ただの考えすぎではないか?」
「いや、そうとはかぎらない」
ワルターを否定したのはセロイスだった。
「ルベールの言ったことは筋が通っている。実際、その可能性も否定出来ない」
「ほぉ、ただの可能性だけで動くと言うのか」
「王子を守る騎士として、あらゆる可能性を考えるのは当たり前のことだ」
そのやりとりをロベルトはどこか楽しげに見ていた。
「……なかなか面白いことになっているようだな」
「面白いとは何ですか、ロベルト様は命を狙われているのですよ!?」
そんなカメリアにロベルトは平然と言った。
「それがどうした?」
「それがって……」
「命を狙われる覚悟もなく、俺が王子をやっているわけがないだろう」
ロベルトは逆にカメリアにたずねた。
「それとも何だ、お前は命を惜しみながら騎士をしているのか?」
「そんなわけありません! 私はすべてを捨てる覚悟で騎士になったのです……今更惜しむものなどあるわけがない!」
「よく言った、それでこそ俺の騎士だ。五日後の舞踏会を楽しみにしているぞ」
ロベルトはカメリアの言葉に満足そうは笑みを浮かべると、その場を後にした。
「……くそ、私達もとっとと行くぞ! こんな者達と話していても時間の無駄だ!」
ワルター達もその場から去り、その場に残っているのはカメリアとセロイス、そしてルベールだけとなった。
カメリアの前にセロイスが立ち、兵隊達を見回した。
「たしかに今のカメリアの行動はロベルト様を守る立場にある者として批判されても仕方ない。だが、それ以上の批判は紅蒼の騎士を選んだロベルト様に対する言葉と受け止めるが、いいんだな?」
セロイスの言葉に一瞬にしてざわめきが消えた。
カメリアはセロイスの背中を黙って見ることしかできなかった。
「俺に言われたくらいで口を閉じるなら、そのような意味も意志もない軽い言葉を口にすべきではない。理不尽な非難を浴びせるひまがあるのなら、もっとすべきことがあるはずだ」
セロイスににらまれた騎士がびくりと肩を揺らした。
「今日はお前の率いる隊が城の警護に当たっていたはずだが、警護は一体どうなっているんだ? 何故こんなにも簡単に侵入を許した?」
「そ、それは……」
「己の役目も果たせない人間が、他人を非難する資格はないと思うが」
「まぁまぁ、それくらいにしておけばいいんじゃないかな」
セロイスを止めたのは、先程までセロイスと言い合っていたルベールだった。
「君の言いたいことはよくわかるよ」
まだ何か言いたげなセロイスの肩をルベールは叩くと周囲を見回した。
「でも、これ以上、城の警備に穴をあけられていても困るから……ねぇ?」
ルベールの妙に凄みのある最後の言葉に周囲は一瞬凍り付いたかと思うと、慌ただしく自分達の持ち場へと駆け出していった。
その場に残ったのはカメリアとセロイスに、ロベルトとルベール。
そして、ワルターをはじめとする数名の騎士だけになった。
「さてと……これで話がしやすくなったかな」
「どういうことだ?」
セロイスの疑問には答えず、ルベールは手にしていたナイフをロベルトへ差し出した。
「どうやらこれは宣戦布告のようですよ」
「ほぉ、妹をかばうつもりか、ルベール文官」
ワルターがルベールへ向ける目は完全に格下の者を見るようなものであったが、ルベールは気にすることなかった。
「たしかに僕は妹のことが可愛くて仕方ないですが、僕の妹は誰かのように助けや取り巻きがいなければ、何もできないような人間ではありませんから」
ルベールは取り巻きらしき騎士達に囲まれたワルターを見ていた。
「それに僕はあくまで自分の意見を述べるにすぎない。それが文官である僕の仕事ですから」
ルベールは仕事で文献や資料を取り扱っていることもあり、様々な知識に精通している。
そのルベールがそう言うからには何か理由があるのだろう。
ロベルトは興味深そうにルベールにたずねた。
「俺への宣戦布告とは面白い解釈だが、お前どうしてそう思うんだ?」
「もしもこれがカメリアを狙ったものとすれば、わざわざ城に侵入し、それも大勢の目の前でカメリアを狙う必要はない」
城でなくともカメリアを狙う機会はいくらでもあるはずだ。
警備の敷かれている城に侵入するなど自らを危険に晒すようなものであり、更に大勢の目の前でカメリアを狙うなど捕まる危険が高くなるだけだ。
「何故、犯人はそんなことを」
「この時に考えられる犯人の目的はふたつ」
ルベールはすっと長い指を立てた。
「ひとつはカメリアの存在、つまり女騎士の存在に強く反対しているということを大勢の人間に示すため。そしてもうひとつは己の存在の誇示」
「でも、誰かを狙うのなら、己の存在を気付かせないことの方が重要なはずでは?」
「さすがだよ、カメリア。今カメリアが言ったようにそう考えるのが普通だ」
「普通でないというなら、どういうことだ?」
セロイスにうながされてルベールは話を続ける。
「この件は端から見ればカメリアを狙ったものに見えるけれど、本当の目的はカメリアではない。犯人の本当の目的は……」
ルベールは一度言葉を切ると、ロベルトを見た。
「あなたですよ、ロベルト王子」
騎士達がルベールの言葉の意味に気付いて動揺をする中、ワルターだけが苛立つように声を上げた。
「だから、どうしてそうなるのだ、ルベール文官!」
「おや、ただの文官である僕でも気づいているというのに、あなたはまだ気付きませんか?」
「御託はいい! さっさと言え!」
ルベールはワルターに向かって静かに告げた。
「今回はカメリアだった。しかし狙おうと思えば、いつでも王子を狙える……そんなメッセージが込められていたのですよ」
「ただの考えすぎではないか?」
「いや、そうとはかぎらない」
ワルターを否定したのはセロイスだった。
「ルベールの言ったことは筋が通っている。実際、その可能性も否定出来ない」
「ほぉ、ただの可能性だけで動くと言うのか」
「王子を守る騎士として、あらゆる可能性を考えるのは当たり前のことだ」
そのやりとりをロベルトはどこか楽しげに見ていた。
「……なかなか面白いことになっているようだな」
「面白いとは何ですか、ロベルト様は命を狙われているのですよ!?」
そんなカメリアにロベルトは平然と言った。
「それがどうした?」
「それがって……」
「命を狙われる覚悟もなく、俺が王子をやっているわけがないだろう」
ロベルトは逆にカメリアにたずねた。
「それとも何だ、お前は命を惜しみながら騎士をしているのか?」
「そんなわけありません! 私はすべてを捨てる覚悟で騎士になったのです……今更惜しむものなどあるわけがない!」
「よく言った、それでこそ俺の騎士だ。五日後の舞踏会を楽しみにしているぞ」
ロベルトはカメリアの言葉に満足そうは笑みを浮かべると、その場を後にした。
「……くそ、私達もとっとと行くぞ! こんな者達と話していても時間の無駄だ!」
ワルター達もその場から去り、その場に残っているのはカメリアとセロイス、そしてルベールだけとなった。
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