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第三章

42話

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しかし璃兵衛の言葉を、安楽はまともに聞いてはいなかった。

 最初は化け物だ妖怪だと恐れていたはずの安楽は、璃兵衛とそのそばに寄り添うバーに魅せられていた。

「目に鬼火を宿し、怪鳥を操るとは……これを殺すのは勿体ない……阿片漬けにして売り飛ばす方が、かなりの金になる……そうだ、その方がいい……」

(この目は、あいつらの目と同じだ)

 『身体が弱い璃兵衛など売り払ってしまえばいい』
 『見た目だけはいいのだから高く売れるはずだ』

 幼く病弱だった璃兵衛の面倒を見に来ていた世話係が、夜中に璃兵衛が寝ている思って、そばで話しているのを璃兵衛は聞いていた。

 よせばいいものを、薄く目を開けて世話係を見れば、欲にまみれた目をして璃兵衛を見ていた。

 そんな彼らと安楽は同じ目をしている。

「阿呆か」

 その時に浮かんだものと同じ言葉を、目の前にいる安楽に告げた。

「どんなに見目の良い人間でも、腹を掻っ捌けば中身は同じだ」
「あなたは何も考えなくて大丈夫ですよ」

 しかし璃兵衛の言葉は安楽には届かない。

「ただ逃げられないように、少し大人しくさせてもらいますがね……!」

 安楽は璃兵衛に向かって短刀を振り下ろすが、それが璃兵衛に届くことはなかった。

「遅かったな」

 安楽の腕を掴み、短刀を止めたのはレンだった。

「お前に文句を言われる筋合いはない」
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