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しおりを挟むベッドの枕元に放置した携帯電話を見た。そういえば圭介にまだ返事をしていない。
「来週は?」
と、都合を訊いてきている。
もう、何を考えれば良いのか奈恵には解らなくなってしまった。
奇妙な眠気に襲われて、浴室に向かった。
嫌い、とメールを送ってみようか。
温まった身体をバスタオルで拭いながらそんなことを思う。
胸の小さな膨らみを拭いたときに、先端にわずかな痛みが走る。それは圭介が、歯を立てた跡だ。
痛みが、奈恵を少し陶然とさせる。膝の力が抜けた。
「気持ち良いくせに」
嫌いと言っても、圭介からはきっとそんな言葉が返ってくるのだろう。
抱き合っているときは、だから安心して奈恵は嫌だと言える。嫌と声に出して言うことが、どこか奈恵は気持ちが良い。どうせ嫌と言っても圭介には通じないと解りきってるから気が楽なのだ。
(嫌、なんて通じるはずないじゃない……)
本当は奈恵にも解っている。
嫌だと思う気持ちと、嫌ではないと感じる身体と、どちらも奈恵の中にある。辛いと思いながら、圭介を求める身体がある。圭介は、多分それをわかっている。
「嫌だ……」
圭介からのメールを見つめてベッドに転がりながら、奈恵は呟いた。
嫌だ。そう思う。
何が嫌なのかと突き詰めて考えると、悲しくなるから本当は考えたくない。
好きになって欲しい。
どうしてなのか胸の中にそういう気持ちが育っている。
嫌なのは、奈恵の身体だけではなく、心も、圭介に好きになって欲しいからだ。
辛いのは、圭介が奈恵の身体しか要らないように思えるからだ。
不思議なのは、そういう圭介にどうして奈恵は自分を心から好きになって欲しいと思うのか。
奈恵は、奈恵自身の気持ちも、わからなくなっている。
圭介がベッドに入ってうとうととし始めたとき、携帯電話が鳴動した。
「来週のこと、まだわかんない」
奈恵の返事だった。
少し唇をほころばせてその文字列を見た。
やはり、奈恵は断らない。解っていたが、その証拠を見て笑えてきた。
自分は勝手なのかもしれない。そんなことをときどき圭介は思う。
夏休み明けごろに童貞をめでたく卒業することが出来た友達の話を聞いたとき、(めんどうくさい)と思ったものだ。
アルバイトをして、その金で興味もないようなテーマパークでデートをして、彼女が喜びそうなプレゼントをして、告白をして、時間を作って、ホテルに行って……。そんな面倒くさい真似をしてようやく、身体をあわせることが出来たと聞いた。
圭介は、そういう努力はしない。奈恵はそういうことを求めてこない。本当は、そういうことをしたいのかもしれないが、それでも奈恵は家を訪れようとする圭介を完全に拒絶することはない。
今日などは朝から夕方までただひたすら奈恵の部屋で抱き合っていただけだったのに、また来週はどうかという圭介の要請を奈恵は断らない。
奈恵は良い。
うつむいて口ごもる内気な態度は鬱陶しいが、顔は清楚で可愛らしいし、身体も良い。胸は小さいが肌が白くて滑らかで、乳首も秘所も綺麗なピンク色で、触ればすぐに反応して甘い声で啼く。感じやすいらしく潤むのも早い。すぐに圭介を受け入れられるようになる。
あの感じは、と圭介は思う。奈恵の中に居るときの感じは、本当にたまらない。
圭介にとって奈恵は初めての相手でもあるが、女の子の身体の気持ち良さは想像をはるかに超えていた。それが最初の印象だった。奈恵以外の身体でも気持ちが良いものなのかどうか、それにも興味はある。しかしそのためにデートをして告白をして、などと考えると面倒くさい。
差し当たって奈恵が居れば圭介は満たされる。ご機嫌を取らなければならないような他の誰かに用などないと思っている。
親戚関係の付き合いなど鬱陶しいばかりだ、と親戚がらみの冠婚葬祭などの行事をこなす両親を見て疑問を覚えていたが、奈恵は別だ。
奈恵が従妹でよかった。
従兄妹という関係でなければ、祖父母の別荘に共に泊まることもなかっただろう。
二人きりで、別荘に放置されるような状況にはならなかっただろう。
従兄妹という間柄だからこそ、デートだの告白だの、煩わしいことを抜きにして身体を求めても許されているのだろう。許さざるを得ないと奈恵は思っているのかもしれない。
血縁関係を絶つことは、出来ない。
圭介と奈恵は、これからの将来にわたって冠婚葬祭で必ず顔をあわせる間柄だ。そういうときに気まずくなりそうな畏れのある拒絶など、奈恵に出来ることではないと圭介にはわかっている。
奈恵はせいぜい、圭介が伸ばす手に嫌だと言うだけだ。それも本当には嫌がっていない。
嫌だと言いながら、昼間には結局のところ奈恵はその手で圭介を奈恵自身の中に導いた。
気持ちの上では嫌だと思っているのは確かなのかもしれない。
奈恵の内気でおどおどした性質では、親に内緒でいけないことをする事に抵抗はあるだろう。
それによく考えてみれば奈恵は圭介より四歳も下だ。そういうことをするにはまだ未熟なのかもしれない。
ひどい関係を奈恵に強いているのではないかと、圭介も胸の片隅で思わないこともない。
ときどき、そう思う。
その思いは、波のように寄せて引く。
どうせ嫌がっても奈恵は身体の気持ち良さのために圭介を求めているのだと思うときと、もしかしたら断れないだけで奈恵は辛いのかもしれないと思うときがある。
奈恵が辛かろうが、それでも構わないと思うときと、少しかわいそうだと思うときがある。
後者の気持ちがふと圭介を沈ませた。
そんなときに、奈恵に「クリスマス」と差し出したシュシュを買った。
駅ビルの中にある女子の好きそうな雑貨屋を通り過ぎかけたときに、店頭のそれが目に入った。女の子ばかりの店内のレジに並ぶのが気恥ずかしかったのを覚えている。
(奈恵、どんな顔するだろう?)
そう思いながら、可愛い袋に詰められたその髪飾りをバッグの底に押し込んだのだった。
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