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「んあっ!」
 ぬらぬらと濡れた奈恵の芽を、指先で押しつぶす。
 びくん、奈恵が身体を震わせた。同時にまた、その反応が滴る。
「欲しそうだ、奈恵……」

「圭……ちゃ……」
「こんな、くちゅくちゅで、ヒクヒクして……」
「いや!」
 卑猥な言葉に奈恵が抗う。半ば閉ざした目蓋の下に涙が滲む。頬が赤い。
 汗ばんでいるのにどこか冷たい圭介の端整な顔を間近に見上げながら、奈恵はすすり泣く。手には彼を握らされている。
 熱いということが解る。憤るように熱くて、残酷に硬い。
 可愛らしい清楚な顔に戸惑いを露わにしながら、その首の下の身体が脳裏のためらいを征服して、欲情に従って圭介を引き寄せた。
 胸を上下に喘がせながら、奈恵は自らの柔らかい芯に、圭介の熱く硬いそれを宛がった。
「そうだ、奈恵……」
 動かないと宣言したとおりに、圭介は動作を止めている。先端に粘膜を感じた。唇にぬるい笑みが浮かぶ。
 自分の手でそうすることに奈恵は昂ぶりを覚えている。せわしない呼吸とともに、華奢な腰を浮かせて下半身を圭介に寄せた。その動作で、圭介が奈恵の中にぬるりと沈む。
 眉を寄せて悲しいような眼差しをしながら、奈恵の身体は圭介を迎えて歓ぶ。下肢を揺らして、奈恵は圭介を半ば含んで半ば抜くような動作を繰り返し、濡れた襞で彼の茎を擦った。湿った音が鳴る。
「……それでいい」
 圭介が奈恵の身体を抱えて、彼の全てを押し込んだ。
「いやぁ……!」
「気持ち良いんだろ?」
 身体を前後に揺らし、奈恵の手でそうしたときより激しく往来した。
 高い声で奈恵が啼く。覆いかぶさる圭介の背を奈恵の手が掴んでいる。

 求められれば断れない奈恵。少しばかり心が嫌がっても、結局、そのときは気持ちが良いのだと知ってしまった奈恵の身体。
 今は、自らの手で圭介をその秘所にいざなう真似さえした。
「奈恵」
 何度も名前を呼びながら滑らかに圭介が奈恵の中を摩擦する。眉に哀しげな陰を見せながら、口元を愉悦に緩ませた奈恵が、呼ばわれるたびに圭介を呼び返す。鼻にかかった甘い声が、圭介の耳をくすぐる。
 間断なく肌を打ち付ける貪欲な音が天井に響いて、鳴り止まない。

 夕刻になり、奈恵の母が帰る時間が近づいた。
 ずっと、圭介は奈恵を離さずに、ただひたすらに貪った。
「汗かいたまんまだよ……」
 粘ついたところをティッシュで拭っただけの圭介がそのまま服を着たのを奈恵が見咎めた。
「部活に行くって言ってあるから汗臭いぐらいでちょうど良いんだ」
 確かにジャージとウインドブレーカーという身なりは、サッカー部の練習に行くような格好ではある。
 バッグの奥にコンドームの箱を沈めた。その中身の大半は今は、奈恵のベッドの裾近くのチューリップ型のゴミ箱の中にある。
「うまいこと捨てといて」
 のろのろと服を着る奈恵に、圭介が言う。奈恵は、ただこくんと頷いた。そのまま目線を落とした。うなだれながら、夏からずっと伸ばしていた髪を手で梳かしている。
 立ち上がって、そんな姿勢の奈恵を見ながら、圭介は溜息をつく。
 うつむくな、とはもう言わない。代わりに一つ思い出して、バッグを探った。
 ベッドに腰を下ろしたままの奈恵に近づいて頭を撫でる。
「あれ? なんか難しい」
 圭介がそんなことを言いながら奈恵の髪を指で梳く。梳いて、奈恵の頭のてっぺんで髪を手でまとめて、引っ張った。
「いた……」
 何本か髪の毛が抜けたかもしれない。ごめん、と奈恵の頭上で声がする。
「……クジラみたい」
 圭介の手で髪が頭頂部にまとめて束ねられた。下手で、耳の周りも項のほうも髪が何束か散っている。
 触れて見ると、確かにクジラの吹く潮のような形に髪が乱雑にまとめられている。髪を束ねているのは、手触りからシュシュだと解った。
「次、いつ会えるかわかんないから、ちょっと早いけどクリスマス」
 傍らに立つ圭介を、奈恵は顎を弾かれたように見上げた。大きな目を見張っている。さきほどまでのことの名残なのかもしれないが、頬が赤い。
「お、やべ」
 時計を見て、圭介がドアに向いた。
 急ぎ足で階段を下りて玄関で靴を履いた圭介の後に、奈恵は付いていく。

「ここでいい。鍵、締めといて」
「圭ちゃん……」
 圭介が、ぷっと吹き出した。
「頭、変だ」
 奈恵を指差して笑って、じゃあ、と言ってドアの外に圭介は去って行った。
 緩慢に扉が閉まっていく。耳慣れた門扉の軋みが聞こえる。
 がちゃん、と戸が閉まった。

「もう、……わかんないよ!」
 扉に取り付いて鍵をかけながら、奈恵は、唇からほとばしった自分の声に少し驚いた。

 圭介の手で結ばれたシュシュを乱暴に引き抜く。
 つややかな白いサテンの生地にレースが縫いこまれ、小さなパールが巻きついている。花嫁の頭上を飾るような、綺麗なシュシュだった。

 その小さな白い布の塊を小さく握りつぶして胸に抱く。綺麗で可愛いシュシュに、息苦しさを感じる。
 
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