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 奈恵の上から退いて、圭介が横たわった。呼吸が荒い。良く鍛えた胸筋がせわしなく上下している。その目の前で奈恵が仰臥のままで、同じように荒い呼吸をしている。
 少しだけ膨らんだ白い胸が揺らぐ。目蓋を半ば閉じ、瞳の縁に涙を宿している。吐息に妨げられて唇を閉ざすことも出来ないようだ。

 唇が赤い。それが濡れて光って見えた。
「奈恵……」
 果実のようなそれを、圭介は貪る。ん、と苦しげに呻きながら、奈恵は応える。くちゅ、と音を立てて舌を絡ませあった。
 身体の上の圭介の肩を、押し離そうと奈恵は手を添えた。手足がだるい。圭介に与えられる仕草で、何度も、何度も体中が引き攣れるような感覚に襲われた。体内に泥のたゆたうような重さが残されている。
「圭ちゃん、もう、苦しいよ……」
 唇の隙間で奈恵は訴えた。何度目だろう。もう嫌、やめて、と何度言っただろう。
「圭ちゃん、お願い」
「しょうがねえな」
 舌打ちをして、圭介が奈恵の唇をようやく離した。

 暖房のついていない部屋は、寒い。今まではそれさえも意識になかった。
 ずっと、掛け布団にかかったベッドカバーの上で抱き合っていた。身体の下から布団を引き出して、圭介は奈恵をその中に包んだ。
「圭ちゃん寒くないの?」
「ぜんぜん」
 答えが笑いを含んでいる。
 裸のままで、圭介が身体を起こし、ベッドの下に手を伸ばした。コンドームの箱が破られて、半ばバッグから出ている。その箱の下から水の入ったペットボトルを取り出す。
「飲む?」
 ごく、と喉を三度鳴らして飲んだ後に、圭介がそれを奈恵に差し出した。
 うん、と頷いて奈恵も身体を少し起こした。ひどく喉が渇いていた。そんなことにやっと気がつく。
 ベッドの端に座った圭介の、裸のままの背中を見ている。スポーツ選手らしいしなやかな背筋が、身動きのたびにきれいな線を描く。

 時計を見た。正午を過ぎている。
 窓の外から車の走る音が聞こえる。やがて、線路を走る電車の音も聞こえてきた。廃品回収のトラックがスピーカーから声を流しながらゆっくりと行く。
 人の営みの音がする。

 どうしてこんなことになったのだろう、奈恵はふと思う。
 圭介は多分、いろいろなところに嘘をついて、誰からも知られないようにして、奈恵のところに来ている。奈恵も、両親に嘘をついて、圭介をひそやかに迎えている。彼が帰った後にはもっとたくさんの嘘を作らなければならないだろう。
 二ヶ月前に圭介が来たときにも、たくさんの嘘をついた。それも、苦しかった。それでもまた、圭介が来ると望んだことを拒むことが奈恵には出来なかった。

 そうしてカーテンを引いた部屋の中で、身体を絡ませあった。
 何のために。奈恵にはそれが解らない。
 圭介が求めるからだと言ってしまえばその通りだろう。奈恵には、その欲求を断る理由が無い。

 怖い、と思ったのも確かだ。
 いずれ何かの時には顔をあわせざるを得ない親戚の仲だ。嫌だと拒絶をして、圭介の機嫌を損ねたとしたら、その後会ったときに何を言われ、何をされるだろうかと奈恵は畏れた。

 自慢に思っていた四歳年上のかっこいい従兄。
 少し、彼に憧れても居た。まだ奈恵が小学生だったときに、まだ中学生だった圭介が訪れてきたことがある。どこかの俳優のような風貌は、奈恵を驚かせて、同時にときめかせた。だからこそ、恥ずかしいような気持ちになって口も利けなかった。
 その圭介が、奈恵に触れた。あらゆる箇所に唇を這わせ、掌で触れ、指先で穿ち、やがて圭介自身のそれが奈恵の秘所を求めて侵入した。
 奈恵の身体中をかき乱すように、何度も、何度も深く繋がった。
 ずっと小さかった頃に、圭介に感じた口も利けないほどの憧憬を思うと、執拗にそうして求められることがどこか不思議なような気持ちにもなる。
 今は、奈恵の身体を欲して翻弄し続ける圭介が少し怖い。それでもあの夏の日の前よりは、圭介には親しみに似た感情がある。

「布団、入れて」
 うん、と頷きながら奈恵は布団をまくって圭介の肩に掛けた。
 奈恵に寄り添った圭介の肩が冷たくなっている。
「圭ちゃん冷たい」
「さっきまでは暑かったんだ」
「風邪引いちゃうよ」
 冷たくなったあたりの肌を、奈恵は掌でこすった。
「大丈夫だよ」
 懸命に圭介の身体を温めようとしている奈恵に、思わず笑みがこぼれる。
 奈恵の頭を、撫でた。

 きょとん、とした顔が圭介を見る。小さな顔の大きな目が、あどけない。
「お前、もてる?」
 不意に訊いた。奈恵は目を伏せて小さく首を振った。
 まあそうだろうな、と圭介は思う。奈恵は整った顔をしていると思う。グラビアに出てくるようなモデルよりずっと、美少女だろう。
 それでも、こうしてすぐに目を逸らしてうつむいてしまう仕草が、弱弱しくて、もどかしくて、どこかやりきれない気持ちにさせられる。苛立ちを感じる。話をしても明るい気持ちにはなれない。
 同じクラスに奈恵のような女子が居ても、多分、圭介は興味を持たなかっただろう。話しても面白くない。可愛らしい顔に惹かれて二・三度話しかけて、こんなやりきれないようなつまらない気持ちにさせられたら、そこで興味がうせるだろう。
「奈恵」
 少し強い声になる。おどおどと奈恵が圭介を見た。震えてさえいる。舌打ちをしてしまった。
「そうやってうつむくの、やめろ。いじめてるみたいな気持ちになる」
 言ってしまってから、しまった、と圭介は思う。見る見るうちに奈恵の瞳に涙が膜を張り、うつむくなといっているそばから、目を伏せて顔を布団の中に埋めてしまった。反論などはない。
「何とか言えよ」
 奈恵、と呼びながら肩に触れた。
 顔を上げない奈恵が、じれったい。面倒くさい。話など、できるものでもない。会話をしようなどと思ったのが馬鹿馬鹿しいような気持ちにさえなる。
 そうだ。話しに来たわけでもない。圭介はそう開き直った。
 肩に触れた手をそのまま背中まで滑らせて、引き寄せた。

 ささやかな胸の膨らみをついばむ圭介の唇を感じる。あ、と喘ぎながら奈恵は首を反らせた。背に回された圭介の手が奈恵の身体を逃がさない。
 また、冷たいことを圭介が言った。奈恵は悲しい気持ちになっている。圭介の舌打ちが、怖かった。意地悪だ、と思う。身体に触れていないときの圭介の言葉はいつも、奈恵に冷たいように思える。
 圭介は、結局のところ、そういうことをするためだけに奈恵に会いに来ているのだろう。奈恵の言葉など、圭介には聞く気などないようにしか思えない。
 圭介は奈恵を嫌いなのだろうか。ただそういう行為をしたいだけで、奈恵に会いに来ているのだろうか。
 奈恵に、ではなく、奈恵の身体に、圭介は会いに来ているのではないか。
 そんなことが、奈恵の頭に浮かんで消えない。

「ん、あっ!」
 圭介の指が奈恵の中で蠢いている。湿った音を立てて撹拌している。背筋がぞくりとするような感覚に喘いで、奈恵は身体を波打たせた。いや、と言っても圭介はやめない。もっと深いところをさぐろうとする。
「いや、……やだ……」
 強引な仕草に、奈恵は身体が熱くなってくる。

 圭介が奈恵の項を引いて、仰臥になった。既に彼のそれは屹立している。
「奈恵、して」
「や……」
 抗うような顔をした奈恵の髪を後頭部ごと掴んで、圭介は彼の下腹に沈めた。嫌、と言う奈恵の頬にそれを押し付け、再び嫌だといったその唇の中に滑り込ませた。顔を上げられないように押さえつけている
 困惑しきって、目尻に涙を滲ませながら、圭介のものを口に含んだ奈恵の表情が可憐で、どこか、圭介の嗜虐心を掻き立てる。
「気持ちいい」
 奈恵の舌が、意識的になのかそうではないのか解らないが、圭介のそれに絡む。下腹の辺りがざわめく。
 奈恵にそれを預けたまま、ベッドの下に圭介は手を伸ばした。コンドームを出す。
「いい……。上手いよ奈恵」
 口腔内の粘膜が熱くて気持ちがいい。時折そこで圭介を擦るようにして、また先端を舌で転がして、そんな仕草を奈恵がしている。
 どこで覚えた技だろう。ふと圭介は思った。
「他の誰かにしてやった?」
 奈恵がはじけるように顔を上げた。眉を寄せて、怒ったような眼差しをしている。唇だけ、濡れている。
「しないよ! ……なんで、そんなことばっか……」
「嘘だよ」
「圭ちゃんひどい」
「……泣くことないだろ」
 奈恵の身体を引き寄せて、仰向けに倒す。
「もう、嫌……!」
 膝に手を掛けた圭介をさえぎりながら、奈恵が訴える。ぽろぽろと泣いている。
 華奢な奈恵が如何に抗おうとも、腕力では圭介に敵うことなどない。
 嫌、嫌、と泣く奈恵の下肢を圭介が強引に開いた。抵抗に逆らって触れれば、それでもやはり奈恵の花芯は蜜を湛えている。圭介の指先を迎えてそれはあふれ出した。
「やめて……!」
「やだ」
 指の付け根まで奈恵に沈めて、執拗に抜き差しを繰り返す。

 奈恵の唇から漏れる声が、拒絶の言葉から、やがてただの音色になっていく。甘さを帯びた。
 ゴムの皮膜を纏った圭介が侵入したときには、なお甘い声と共に奈恵の身体から蜜が滴った。それを感じて、圭介は少し笑みを浮かべる。
「い……や!」
「嘘つけ。奈恵だって気持ちいいんだろ?」
 小刻みな声を上げながら、奈恵が華奢な身体を方々に捩る。肌が紅潮して、薄く汗が浮かんでいる。その身体を抱きしめて、圭介は往来を繰り返す。

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