6 / 8
○第五章「道具」
しおりを挟むそうして三度、人形屋へ。
すると、早速という具合に店主のお出迎えが始まった。
「お一人様入りま~す! はい喜んで~!」
「……居酒屋?」
思わず冷静に突っ込んでしまったけど……この人、本当に何がしたいんだろう。
と、そこで店主は僕の傍らにあった、トランクケースに気がついたようだ。
「む? その様子だとまた壊してしまったようだな。今度は何が原因かね」
原因か……僕も、それを昨日一日、じっくり考えた。
色々と思いつく事はあった。例えば、そもそもの属性の選択を間違えたから、とか。
今回の属性は、『都会のギャル』だった。
何でそんな属性にしたかって言えば、仮に僕がまた欲望に負けてしまっても、この属性の人形なら、余り抵抗なく受け入れてくれるかも、とか思ったからだ。
けど現実には、『都会のギャル』という属性を持った人形は、人間として面白みに欠ける僕を見下すだけだった。
そして結末は……このとおりだ。
だから、恐らく根本的な原因はーー
「たぶん……彼女を作ろうとしたことが原因だと思います」
「と言うと?」
「どうやっても、彼女そのものは作れないから……だから僕の思い出や気持ちも、同じようにはならないんじゃないかと。それで最終的には欲望をぶつけるか……もしくは、同じ顔や声なのに、僕の知っている彼女と全然違う事をされて、許せなくなるかのどっちかに」
と、僕の話を聞いた店主は、納得したように小さく頷いた。
「なるほど……では、もう新しい人形はいらんかね?」
「はい。それに……持ってたお金も、二体の人形を買った事で大分減ってしまいましたから」
「ふむ……ならば私から、一つだけ提案がある」
「え?」
少々意外な言葉に、思わず店主の顔を見詰めてしまう。
と、その目線にはどこか……僕を試すような雰囲気を感じた。
「もう一体人形を用意しよう。特別仕様の、だ。それをお主に預ける」
「で、でも僕はもう――」
「最後まで話を聞いてくれたまえ。その人形をお主が受け入れられるかどうか、一週間様子を見よう。そしてお主が受け入れられると感じたら、代金を払ってくれたまえ。受け入れられず、壊してしまったのなら……お金は要らない」
正直、意味が分からない。店主にとっては殆どメリットのない話だ。何でそんな提案を?
と、そう思う一方で……僕の胸の中には、ある種の渇きのようなものが湧き上がっていた。
「……そ、そんな……そんな条件でいいんですか? 例えまた欲望をぶつけるだけぶつけて壊しても、お金を払わないって事ですよ?」
すると店主は、そんな僕の渇きを見抜いたかのように、ニヤリと笑った。
「そうなるねえ、だが恐らくお主は、次の人形を壊さない」
「なぜ?」
「お主は恐らく無意識に、人形達を道具として捉えている。だからこそ壊してきた。どうせまた作れる、そう思っていたはずだ」
「え……」
「人形達が何処からきてるか、大体察しはついているだろう? 体毛を提出した時点で予想がついていたはずだ」
「は、はあ……けど、僕は――」
「倫理やら道徳心やらは今は無視したまえ。クローンという、紛れもなく生きているコピーを、お主は道具と同列に扱った。これは事実だ。代えが利くという一種の甘えが、お主を極端な行動に走らせた、そうだろう?」
「………はい」
認めたくはないけど、店主の言うとおりだ……僕は心のどこかで彼女達を道具として見ていて……だからこそ、欲望のままに動けてしまったのだ。
「だから、お主に特別な人形を預ける。お主はそれを壊せない。なぜなら……」
「なぜなら……?」
「それが最後の人形だからだ」
「え……?」
「お主から預かった体毛から作れるのは、三体が限度だ。その内二体をお主は壊した。オリジナルは既に死亡しているわけだから、次が正真正銘最後の人形という事になる」
「……次が、最後……」
「さて……どうする?」
「………」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる