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第三十九話 魔王誕生

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 私は勇者がおかしなことをしてたから、それはやめろと正した。
 それがそんなに悪いことなのか? 王は勇者に逆らえないから、それを野放しにしたのか?
 ならば……私が魔王なら?
 私が魔王なら、私のわがままが通るはず……だよね?
 言葉遣いもきつくしてやる。それこそ魔王みたいに偉そうに喋ってやる。
 私は爺さんの方を向いて、ぎろりとしながら喋り出した。
「分かった。では私が魔王ならば、そなたらは私の言う事を聞くのか?」
「魔王の言う事など聞く訳がなかろう。人類の敵じゃぞ?」
「ではどうすればそなたらは私の言う事を認める?」
「どうしても認めさせたければ、力で従わせればよい。簡単なことじゃ」
 そうか。力で馬鹿共を服従させればいいのか。昨日勇者にやったみたいに。
 それなら簡単だ。私にも分かるぞ。
 私は自らの膨大な魔力を、卑猥な妄想を費やして、練りに練っていく……。
「なっ……なにをはじめたのじゃ……」
 爺さん唖然。アンタが言い出したんだからな! 私はもう止まらんぞ!
「おいやめろエリィ! 流石にそれは冗談では済まされん!」
「ありがとうギンシュ。でももう決めたの。誰かを踏みにじってのうのうと生きてる奴らに……そいつらに、同じように誰かに踏みにじられる気持ちを味わえって」
「お姉さま!」
 ミレイが立ち上がって私に告げる。
「それは……後戻りの出来ない道ですよ?」
「私が進んで、誰かが救われるならそれでいいわ。私は幸せ」
「お姉さまの幸せはそこにあるですぅ?」
「私は今までもこれからも、好きなことを好きなようにやるだけ。それだけだから。心配しないで」
「じゃあミレイはもう何も言わないですぅ」
「おいミレイ!?」
「私ではお姉さまを止められないですぅ。どうしても止めたければギンシュが頑張るですぅ」
「無理だ! あんな魔力を持つ相手に私では……あぁもう知らんっ!」
 私はその膨大な魔力を使って【光魔法】で大きな電撃玉を作り出し……そして弾けさせた。
 ものすっごい放電現象を玉座の間が襲い、肉の焦げるにおいが、悲鳴が怒声がうめき声がそこらから漏れる。
「あぁああああああ!!」
「熱い! 熱いぃいいい!!」
「誰か! 誰かおらんのかぁああああ!!」
「ひぃいっ!? 助けっ!! 助けてぇええ!!」

 私は告げる。
「これがお前たちがあなどったエルフに、いや……『魔王』に対する罰だ!! 恐れ! 敬え! 私こそが! お前たち貴族や王の上に立つ、世界でただ一人の存在……『魔王』だということを!」
 ……さて。
「お主ら……反省したか?」
 肉が焦げて、腕とか足とか失って炭化してひゅーひゅーいってるやつらばっかし。
 さっき私と問答してた爺さんは下半身真っ黒こげだった。あーあー。
「はい……私が……悪かったです……もう二度と……逆らいません……どうか……どうか命までは……」
「よし、では私は自由だな? そして勇者を反省させ、二度とこのようなことが無いように誓うな?」
「も、勿論です……」
「王よ! 貴様はどうだ!?」
 ビクン! とした王に向けて私は更に言葉を告げる。
「まだ足りぬか? 私は何度でも先ほどの魔法を放てるが。あと何度で貴様は死ぬか、試してみるか?」
「いいえ! わ、儂も分かった。二度とこのような真似は犯させん!」
「では勇者がまたやらかした時には、この『魔王』は再度ここに現れ、この国を亡ぼすが、誓うか?」
「はい! 誓います誓います! だからどうか! どうかお助け下さい!」
「あともう一つ。民を決してないがしろにせず、民の為に日々事なかれ主義をやめて真摯に働くと……誓うか?」
「ははぁ! 魔王様の仰せのままに!」
「ならばよし。では……」
 私は再度大きな魔力を練り出す。
「ひゃあああああ!!」
「誓った! 誓ったからぁあ!!」
「もうやめてくれぇええええ!!」

 魔力玉をぱぁん! と弾けさせた。

 すると……玉座の間は元通りだった。
 誰も炭になっていない。怪我もしていない。皆つい数分前の状態に元通りだ。


「……何をした?」
「私の【闇魔法】で幻影を見せました。ただ、これ以上私を怒らせるなら、先ほどの映像が現実になりますが」
「ヒイッ!?」
「先ほど皆さまが誓われたので、私は満足です。これ以上文句を言うなら、今度こそ炭にしますからね」
「わ、わかった……」
「じゃあ私は帰ります。これから王都で自由に過ごして、私達西に向かいますので、後は皆様どうぞご勝手に」
「あ、ああ……」
「あーとはー……あ、めんどくさいからここで言っちゃお。ギンシュちゃんは騎士団をやめて私に同行しますから。いいですね」
「おいエリィ! 今言わなくても」
「あとでめんどくさいの何となく分かるからさ、今ここで上からの許可とっとくの。いいですね!」
「か、構わぬ……好きにしてくれ……」
「よしこれで解決。じゃあお邪魔しましたー」
 私は堂々と歩いて出て行った。本当なら国王が退出してから出ていくはずなのに。
 あっそうだ。
「ねえ、私出てくんだから鐘鳴らしてよ」
「ふぇっ!?」
「いいから、ほら」
「はっ、はい! 分かりました!」

 鐘の横にいる兵士さんにお願い(という名の脅迫)をして、ガランガラーン! ガランガラーン! という音と共に私は玉座の間を退出した。あっ……これたのしー!
 まあこれで勇者は当分大人しくなるでしょ。おまけに私も気分爽快! あーすっきりした!


ピローン!

≪スキル【魔王】を獲得しました≫
≪称号『魔の頂きに立つ者』を獲得しました≫


 ……私は何も聞こえなかった。聞こえなかったの。
 ごめんなさいすみません調子にのりました反省してます

 どうしよう【魔王】のスキル手に入れちゃった。
 名乗っただけだったんだけどなぁ。
 まーたギンシュに怒られるなぁ。やだなぁ。
 ……よっし秘密にしとこっと。バレなきゃいいんだよバレなきゃ!


「さーって謁見も終わったし、かえろっか」
 私が明るく振舞ったけど、二人とも無言でとぼとぼと歩く。
「あれあれーどしたのー? 暗いよー大丈夫だったんだからーほらさー」
「あれを『大丈夫』と言えるお姉さまの頭の中が心配ですぅ」
 うぅ……ミレイがぐさりと刺さる一言を。
「なぁ……エリィ」
「なっ、何かなぁギンシュ? だいじょーぶほら向こうから追っかけてくることはないしさぁ」
「それはそうだが……はぁ」
 申し訳ないなぁとは思っているけど、でもあいつらほっといたら調子乗ってたからさ、仕方ないよ。ね。お願い。許して。
「まあ……もう起こってしまったことは仕方がないな。これからをどうするか考えよう。そうだろ、エリィ?」
「そ、そうそう私もそういうことが言いたかったの! ギンシュありがとう!」
「ところで【魔王】のスキルの効果はどんな感じなんだ?」
「えっまだ【鑑定】してないからよくわからないけどってどうしてギンシュが【魔王】のスキルのこ……と……」
 私は嫌な予感がした。今日のこの予感だけは外す気がしない。予報確率100%。これから雷が落ちるでしょう。
 ……私に。
「やっぱりお主が【魔王】になってしまったではないかぁあああああああ!!!」
「だってだって! 仕方なかったじゃない! あの場面なら!!」
「もはやそういう次元を超えた所の話だ! お主はこれからどうするのだ!? 人類の敵だぞ!?」
「そんなことないもーん! ちゃんと人族にも他の種族にもみんなに優しい魔王になるもーん」
「そんな魔王がいてたまるか!」
「ギンシュの目の前にいるもーん」
「くそっ……このっ……このっ……『変態エルフ』!!!」
「えっちょっとまって!? 今私が『変態』かどうかは関係ないじゃん!」
「もうお主は馬鹿とか阿呆とかいう言葉では収まらん! いいからさっさと帰るぞ!!」
「はーい……すみませんでした……」
 私……頑張ったのになぁ。
 ちょっとしょんぼりしながらギンシュについていくと、ミレイが横から慰めてくれた。
「私は、最後までエリィの味方ですぅ」
「ミレイ……ありがと」
 二人でぎゅっとしてると、なぜだかギンシュも近付いてきた。
「な……なによぅ」
「私もしてやる。ほら」
 そういって両手を広げてハグの姿勢だ。
「……私はどうしようもない『変態』なんでしょ?」
「例えそうだったとしても、この国の最上位層の人達にあそこまで啖呵を切ったのだ。私では出来なかった。なにせ昨日の、泣いて喜ぶ三人を見ていたのでな、正直、すっとしたぞ。よくやった」
「えへへーそう言われちゃうとなー。えいっ」
 三人でぎゅぎゅっとハグをした。
 この温かみが、嬉しい。
 あといい匂いがして、これも嬉しい。
「なあ……そんなに嗅ぐな。恥ずかしいから」
「えっでも二人ともいい匂いだよ?」
「やめてほしいですぅ……」
 恥ずかしがってたのでもう少しくんかくんかしたら、二人で私を遠巻きにして歩こうとするので慌てて頭を下げたが遅かった。
 馬車に戻るまで独りぼっちだった。さっきのハグはなんだったの……ぐすん。

 正面の門から出ようとすると、一台の馬車から二人が登場した。
「お帰りなさいませ、皆様方」
「マンジローさん! アシンさんも!」
「よっ。なんか久しぶりな気がするな。あれから大して経ってないのによぉ」
「アシンさんは何してたの?」
「あれよ、船降りるからあいつらに俺がいなくても大丈夫なように指導ってやつよ」
「そういえば後釜決まったの?」
「ああ。新船長はバガン、で副船長にリシリを指名した」
 船長は確か早飲みって呼ばれてた人だ。体格もよくて飲み会で皆に慕われてた人だったっけ。
「バガンさんは分かるけど、リシリさんって?」
「船員の中だと、線の細い生真面目な奴さ。バガンは慕われてるんだがうっかりがあるからよ、リシリはその点几帳面だから安心出来る。在庫の管理とか日程の調整とかは得意分野だ。ただ人に指示が出来ねぇからよぉ……その辺はバガンにお任せって感じさ。いい組み合わせだぜ」
「じゃあ大丈夫そうですね」
「おうよ! 今日はこれから冒険者ギルドだろ!? 楽しみで仕方ねぇや」
「はい。みんなで行きましょー!」
 とまあワクワク組とは別に、残りの二人はちょっと気まずそう。
 分かるぞその顔。私のさっきの話するかしないか迷ってるんでしょ。
「おっほっほっ、これはこれは。またエリィ殿が何かやらかしてきたのですな!?」
「えっ!?」
 マンジローさん鋭い! でもなんか鋭すぎない!?
「エリィ殿、相手の顔色や雰囲気などから、相手の意図や思考を察するのは、商人としては必須の能力ですぞ」
「ほえー……流石ですね」
「それほどでも。そして……何があったかお聞きしても?」
「聞かない方がいいですよ?」
「じゃあ俺は聞かねぇ!」
「私、魔王になっちゃいました」
「なんで聞かねぇって言ったそばから喋り出すんだよ! って……え? 【魔王】? なぁお前さん今【魔王】って言わなかったか?」
「言いました」
「おっほっほっほっ、おっほほほほほほほほ」
「だから俺ぁ聞きたくなかったんだよ!」
 笑いの止まらないマンジローさんと、頭を抱えるアシンさん。
「諦めろ。この馬鹿エルフはそういう星の下に生まれたのだ」
「そうですぅ。私達もマンジローさんみたいに動じない心を持つですぅ」
「そうだな、一緒に……って俺からすればお前らも十分雲の上のお人だからな! なんだよこの中で庶民なの俺だけじゃねぇかよ!」
「えっ、私も庶民ですけど」
「(お姉さまは)「(アンタは)「お前は黙ってろ」」ですぅ」
「おっほっほっほっほっほっ」
 そんな……見事に三人ハモらなくても……ぐすん。
 マンジローさんの笑いは馬車の中をとてもよく響きました。
 ……嬉しくない。
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