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第五話 魔法初体験
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さて、魔法の使い方の目処は立ったので、次は実践だ!
という訳で一晩明けて翌日の今日、異世界に来て二日目は門から外に出て東側にある草むらの少し先の、林の中に向かった。
街からはそれなりに離れて、周りにモンスターなどの反応がいないことを確認して、さてさて実践である。
魔法で有名どころといえばファイアとかファイアーボールとかファイアーアローとかが鉄板だが、冷静に考えると水気のない、木々のある林などで火遊びなど洒落にならない。よってここは水魔法……も水気が無いので難しいかもしれない。ならば周りに幾らでもある空気を用いた風や、そこらに当たり前のように存在している土を用いた、そういった関連の魔法を使ってみるとしよう。
そして最初に私が使えるように設定したのは【水魔法】と【風魔法】だ。エルフっぽさもそうだが、単純に旅に必要な水分と、移動に便利な風という選択だった。
まずは【風魔法】からにしよう。呪文もそれとなく考えつつ……私は精神を集中させる。
集中とは、勿論昨日読んだ魔術書の通り、性的な妄想である。
森の中で一人、性的な妄想に耽る美少女というのはそれだけで成人向け作品の題材になりそうなシチュエーションだが、私はいたって大真面目である。なにしろ異世界で魔法という文明にありつけるのだ。多少のことはやってやろうという気持ちにもなるだろう。
流石に昨日読んだ魔術書の著者のように、外で全裸になろうとは思わないが。
という訳で妄想をはじめる。これでも元は男だ。この手の妄想などお手のものである。
彼女など縁遠かった私の恋人はいつも右手だ。いや左利きなので正確には左手だが。
私は私のような美少女ときゃっきゃうふふな妄想をはじめる。
肉体は女だが、まだまだ精神は男である。どうしても妄想も元々していたような物の方がやりやすいのは確かだ。
だがしかしながら、その現物が目の前どころか自身の肉体なのである。極端な言い方をすれば、目の前の美人さんガン見し放題触り放題の妄想である。ある意味心臓に悪い。だが魔法を発動させる場合においては、非常に有効であるかもしれない。
おまけに昨晩は一人で大変お楽しみをしたのである。そもそも昨日も今日もトイレことお手洗いの時点で既に大変なのである。男性ならば竿出して握ってちょいちょいで終わりのはずが、女性は大事な部分が見えないし脱いだ下着がそりゃもうスンゴいのであって……なんて昨日今日あった出来事を思い返すだけで、自分の目に焼き付いた景色が浮かんでくる。つまるところ脳内の私の映像からは衣服が霞のように消え失せ、あっという間に全裸の美少女に早変わりである。そんな美少女があられもない姿であられもない声をあげてあられもない……
うぉっほん!
……男性は性的に興奮すると、股間に血が集まり勃起という現象が発生するが、女性は現象としては受け入れ態勢の為に湿り気を帯びてくる。
つまりは、そういうことである。
私自身は相当に恥ずかしいことになっているが、同時にへその下に物凄い力が集まっていくのを感じた。
いや、これは『力』というよりも……どろどろとした、性欲とかそういうものではないだろうか?
……そう思いつつも今のところは魔術書の通りに出来ている。やはりどうかしていると思うがとりあえずの問題は無いだろうと考える。
この世界にはこの世界なりの仕組みがあるのだ。私はあくまで余所者。郷に入りては郷に従えという言葉の通り、私はこの世界の仕組み通りに、えっちい妄想をしながらも、先ほどそれとなく考えた呪文を告げる。勿論左手を前にして、呪文の発生場所を自らの前方と仮定し、イメージしながら。同時に、これから起こる現象を脳内でイメージし、それが現実になるように意思の力を込めながら、私は力強く言葉を告げた。
「風よ起これ! 【ウインド】!」
私の手のひらを基点として、竜巻のように渦を巻いた空気がまるで私の手のひらから発射されたかのように、ビュゴオオオ!! と前方へと走ってゆく。私の前方にあった木々は大きく幹を枝を揺らし、木の葉を振り撒いていた。
たっぷり十秒近くは発射されていただろうか、私の目の前の情景は、まるで暴風が、台風が吹き荒れたかの如く木々は葉を枯らし、枝を折られ、無惨な骸を晒していた。
そして脳内には、いつもの電子音がピローンとなった。
≪スキル【風魔法】のレベルが2になりました≫
≪スキル【風魔法】のレベルが3になりました≫
「なんじゃこりゃ」
流石に想像の埒外である。幾らなんでも威力が強すぎる。
こんなのは私が適当に唱えたはずの、最も威力の低い予定の『ウインド』とかではなく、もっとこう『ストーム』とか『ウインドボム』とか強そうな魔法の威力ではないのか。
私はジャブが渾身のストレートになったような、不思議な感覚に驚いていた。
何が原因なのだろう。妄想の方法か、あるいは呪文か。それとも手を前にする動作なのか。
自身にも全く未知数の魔法である。この世界で見せて貰ったこともないので、本当に全てが一からの手探りなのだ。
とりあえず色々と試行錯誤しながら、私は魔法の練習をする事にした。
現状の威力では、とてもではないが人前で発動するには危険だ。非常時に発動するなどもっての他だ。これは訓練必須であろう。
という事で今日は一日訓練を行った。
原因が何かを把握する為に自身で出来る限りの調整なり修正なりを行い、ついに理由が判明した。
何が原因かといえば、単純に私の魔力の量が甚大膨大無限大だったということだった。
魔力を減らして、つまり妄想力を落として魔法を発動したところ、魔法っぽいそれなりの風になったり、あるいはそよ風ひよひよみたいな魔法など、ある程度威力を調整することが可能だった。
ちなみに普通の威力である【ウインドカッター】(風をかまいたちのように鋭くして、遠方まで飛ばし、相手を切り裂いたり切断したりする魔法)を一発撃つのに、大体パンチラ妄想一つくらいの性欲が必要だということが判明した。
……私も言っててこいつ頭おかしいんじゃないかと思ったけれども、事実をありのままに明文化するとこうなるのだ。仕方ない。悲しいがこの世界はこういう世界なのだと自分を無理矢理納得させている。
とりあえずだ、私の妄想力は破壊力が強すぎるので、妄想を加減しながら魔法を使わないと危険、ということが分かっただけでも今日は収穫があったと思う。
ちなみに【風魔法】で一通り試したところ、【風魔法】は既にレベル7まで上がった。いささか上がりすぎではないかと思うが、ぐんぐん上がることは悪いことではないと思う。前向きに行こう、前向きに。
【風魔法】をそれなりに使ったので、その後は【水魔法】も試してみた。分かったのは、余り難しいことを考えずに、とにかくイメージが大事だということだった。イメージと妄想力さえしっかりしていれば、水など周りになくとも氷の彫刻さえ作ることが可能だということだった。
なんだこの世界。はっきり言うけど『妄想力の強さが魔法の強さ』だということがある程度はっきりしてしまって、なんというか……危険、ではないだろうか。
だって、妄想さえしっかりしていれば割と何でも魔法で可能なのだから。末恐ろしい世界だ……。
ちなみに【水魔法】はレベル5まで上がった。今なら砂漠地帯でも余裕で走破出来そうなくらいにはなっている。
何しろ魔法でイメージさえすれば、砂漠でも水がだっぱだっぱと出てくるはずだから。何も問題はない。気候変動的には大きな問題があるかもしれないが、少なくとも私一人が砂漠を走破することに関しては何も問題はない。
また【土魔法】も地面を耕す程度のことを試してみると、存外上手くいった。最初の一回を使うとき、まだスキルを入手していない場合では、妄想というか魔法を発動するのにかなり詳細なイメージを必要としたが、最終的にはなんとかなった。そして同時にスキルも覚えることが出来たので、これは御の字といったところか。現在のレベルは2である。この分なら初期設定で入手出来なかった色々な属性魔法のスキルを手に入れるのも、そこまで難しくはなさそうだ。
ちなみに【火魔法】は怖いのでまだ使っていない。今度川や水辺の近くで試してみようと思う。
魔法の練習中にモンスターを見つけた。正しく言えば『モンスターがいたらしいが魔法に巻き込まれていつの間にか討伐していた』という感じだ。魔法を使用した際にモンスターを撃破し、レベルアップの音声が流れたのがその証拠だ。
ちなみにゲームみたいにドロップとかアイテムとかが残るわけではなく、単なるモンスターの死骸がその場に残るようだ。
試しに【鑑定】を使ってみると≪ホーンラビットの死骸≫と出てきた。
≪ホーンラビットの死骸 レア度1≫
[ホーンラビットの成れの果て。角は薬にもなる。肉は美味。]
ホーンラビット、翻訳すると角兎という名のモンスターらしい。確かに見た目通り、兎に一角獣のような角が生えている。攻撃力がちょっと高そうだ。だがそれよりも頭部に長い耳二つに角とは、頭が重くなりすぎではないだろうか、と余計なことを考えてしまった。
あと肉は美味しいらしい。よし宿に戻ったら調理して貰おっと。
そして私はこのホーンラビットを運ぶためにも、アイテムボックスを発動させようと考える。これは称号である≪神の落し子≫で入手したアイテム収納可能な異次元空間の能力なのだが、こちらはどう発動すればよいだろうか。
単純にスキルなのか、それとも魔法なのか。良く分からないが、今までスキルである【探知】や【言語理解】【鑑定】などをエッチな妄想抜きに使用出来ていたことから、これもスキルの一つと捉え、とりあえず唱えてみることにする。
「よし、アイテムボックス!」
……唱えたが、特に発動しない。ん? どうなっているのだろうか。
何度か唱えたが、発動しない。どうしたことだろう。分からないので、ステータスを開いて称号を確認してみるが……良く分からない。
「んー、どうすればよいのだろう」
ぽちぽちとステータス欄をいじっていると、とあるページが全面に格子状の枠が広がっていて、他のページと少し違う表示になっていることに気付いた。
「まさか……このページ、アイテム欄か?」
私はアイテム欄と思われるページを開いたまま、目の前に落ちている≪ホーンラビットの死骸≫に指で触れる。すると画面に≪ホーンラビットの死骸を収納しますか?≫と表示された。≪はい≫≪いいえ≫のうち≪はい≫を選択すると、目の前の死骸は瞬時に消え、代わりに格子状の枠の一つに、今目の前にあったホーンラビットの画像が表示された。
「なるほど……アイテムボックスはこうやって使うのか」
取り出せるかも試してみることにする。今度は画面の兎の画像に指で触れると、≪ホーンラビットの死骸を取出しますか?≫と表示された。≪はい≫を押すと、また現物が現実に、目の前に出てくる。
「これは便利だな。あとは内部時間の経過が発生するかどうかだが……」
それを調べる為に、【水魔法】で手のひらに乗る程度の氷の立方体を生成し、アイテムボックスに放り込んでおく。これが一晩経って水になるか氷のままかで、答えが出るだろう。
とりあえず本日の成果としては
・魔法が使えるようになった
・【風魔法】はレベル1→レベル7に上がった
・【水魔法】はレベル1→レベル5に上がった
・【土魔法】を覚えた。レベルは2に上がった
・【鑑定】はレベル4に上がった
・キャラクターのレベルが3に上がった。ステータスもちょっと上がった
・≪ホーンラビットの死骸≫を入手した
・≪アイテムボックス≫の使い方を覚えた
こんなものか。
明日からはいよいよ本格的にモンスターと対峙していくことにしよう。
宿に戻っておかみさんに≪ホーンラビットの死骸≫を渡した。
「おや、これはホーンラビットじゃないかい。いいのかい?」
「ええ。お世話になってますし」
「じゃあ今夜の夕食は豪華になりそうだね、あと角はいいのかい?」
「ええ。肉を解体とか調理していただくお礼です」
「そんな……悪いよ。流石にそこまで貰えないよ」
「私が持っててもしょうがないので。使って下さい」
「そうかい……なんだか申し訳ないねぇ。じゃあこれ」
おかみさんから銀貨を二枚手渡される。
「えっと、これは……」
「夕食代は返しとくよ」
「そんなつもりじゃ」
「いいからいいから。また次も美味しいのが手に入ったら頼むよ」
「えっと……分かりました。ありがとうございます」
「お礼はこっちがいうもんさ。ありがとね」
夕食に出てきたスープは、ごろりとしたお肉が入っていて、中々に美味だった。
という訳で一晩明けて翌日の今日、異世界に来て二日目は門から外に出て東側にある草むらの少し先の、林の中に向かった。
街からはそれなりに離れて、周りにモンスターなどの反応がいないことを確認して、さてさて実践である。
魔法で有名どころといえばファイアとかファイアーボールとかファイアーアローとかが鉄板だが、冷静に考えると水気のない、木々のある林などで火遊びなど洒落にならない。よってここは水魔法……も水気が無いので難しいかもしれない。ならば周りに幾らでもある空気を用いた風や、そこらに当たり前のように存在している土を用いた、そういった関連の魔法を使ってみるとしよう。
そして最初に私が使えるように設定したのは【水魔法】と【風魔法】だ。エルフっぽさもそうだが、単純に旅に必要な水分と、移動に便利な風という選択だった。
まずは【風魔法】からにしよう。呪文もそれとなく考えつつ……私は精神を集中させる。
集中とは、勿論昨日読んだ魔術書の通り、性的な妄想である。
森の中で一人、性的な妄想に耽る美少女というのはそれだけで成人向け作品の題材になりそうなシチュエーションだが、私はいたって大真面目である。なにしろ異世界で魔法という文明にありつけるのだ。多少のことはやってやろうという気持ちにもなるだろう。
流石に昨日読んだ魔術書の著者のように、外で全裸になろうとは思わないが。
という訳で妄想をはじめる。これでも元は男だ。この手の妄想などお手のものである。
彼女など縁遠かった私の恋人はいつも右手だ。いや左利きなので正確には左手だが。
私は私のような美少女ときゃっきゃうふふな妄想をはじめる。
肉体は女だが、まだまだ精神は男である。どうしても妄想も元々していたような物の方がやりやすいのは確かだ。
だがしかしながら、その現物が目の前どころか自身の肉体なのである。極端な言い方をすれば、目の前の美人さんガン見し放題触り放題の妄想である。ある意味心臓に悪い。だが魔法を発動させる場合においては、非常に有効であるかもしれない。
おまけに昨晩は一人で大変お楽しみをしたのである。そもそも昨日も今日もトイレことお手洗いの時点で既に大変なのである。男性ならば竿出して握ってちょいちょいで終わりのはずが、女性は大事な部分が見えないし脱いだ下着がそりゃもうスンゴいのであって……なんて昨日今日あった出来事を思い返すだけで、自分の目に焼き付いた景色が浮かんでくる。つまるところ脳内の私の映像からは衣服が霞のように消え失せ、あっという間に全裸の美少女に早変わりである。そんな美少女があられもない姿であられもない声をあげてあられもない……
うぉっほん!
……男性は性的に興奮すると、股間に血が集まり勃起という現象が発生するが、女性は現象としては受け入れ態勢の為に湿り気を帯びてくる。
つまりは、そういうことである。
私自身は相当に恥ずかしいことになっているが、同時にへその下に物凄い力が集まっていくのを感じた。
いや、これは『力』というよりも……どろどろとした、性欲とかそういうものではないだろうか?
……そう思いつつも今のところは魔術書の通りに出来ている。やはりどうかしていると思うがとりあえずの問題は無いだろうと考える。
この世界にはこの世界なりの仕組みがあるのだ。私はあくまで余所者。郷に入りては郷に従えという言葉の通り、私はこの世界の仕組み通りに、えっちい妄想をしながらも、先ほどそれとなく考えた呪文を告げる。勿論左手を前にして、呪文の発生場所を自らの前方と仮定し、イメージしながら。同時に、これから起こる現象を脳内でイメージし、それが現実になるように意思の力を込めながら、私は力強く言葉を告げた。
「風よ起これ! 【ウインド】!」
私の手のひらを基点として、竜巻のように渦を巻いた空気がまるで私の手のひらから発射されたかのように、ビュゴオオオ!! と前方へと走ってゆく。私の前方にあった木々は大きく幹を枝を揺らし、木の葉を振り撒いていた。
たっぷり十秒近くは発射されていただろうか、私の目の前の情景は、まるで暴風が、台風が吹き荒れたかの如く木々は葉を枯らし、枝を折られ、無惨な骸を晒していた。
そして脳内には、いつもの電子音がピローンとなった。
≪スキル【風魔法】のレベルが2になりました≫
≪スキル【風魔法】のレベルが3になりました≫
「なんじゃこりゃ」
流石に想像の埒外である。幾らなんでも威力が強すぎる。
こんなのは私が適当に唱えたはずの、最も威力の低い予定の『ウインド』とかではなく、もっとこう『ストーム』とか『ウインドボム』とか強そうな魔法の威力ではないのか。
私はジャブが渾身のストレートになったような、不思議な感覚に驚いていた。
何が原因なのだろう。妄想の方法か、あるいは呪文か。それとも手を前にする動作なのか。
自身にも全く未知数の魔法である。この世界で見せて貰ったこともないので、本当に全てが一からの手探りなのだ。
とりあえず色々と試行錯誤しながら、私は魔法の練習をする事にした。
現状の威力では、とてもではないが人前で発動するには危険だ。非常時に発動するなどもっての他だ。これは訓練必須であろう。
という事で今日は一日訓練を行った。
原因が何かを把握する為に自身で出来る限りの調整なり修正なりを行い、ついに理由が判明した。
何が原因かといえば、単純に私の魔力の量が甚大膨大無限大だったということだった。
魔力を減らして、つまり妄想力を落として魔法を発動したところ、魔法っぽいそれなりの風になったり、あるいはそよ風ひよひよみたいな魔法など、ある程度威力を調整することが可能だった。
ちなみに普通の威力である【ウインドカッター】(風をかまいたちのように鋭くして、遠方まで飛ばし、相手を切り裂いたり切断したりする魔法)を一発撃つのに、大体パンチラ妄想一つくらいの性欲が必要だということが判明した。
……私も言っててこいつ頭おかしいんじゃないかと思ったけれども、事実をありのままに明文化するとこうなるのだ。仕方ない。悲しいがこの世界はこういう世界なのだと自分を無理矢理納得させている。
とりあえずだ、私の妄想力は破壊力が強すぎるので、妄想を加減しながら魔法を使わないと危険、ということが分かっただけでも今日は収穫があったと思う。
ちなみに【風魔法】で一通り試したところ、【風魔法】は既にレベル7まで上がった。いささか上がりすぎではないかと思うが、ぐんぐん上がることは悪いことではないと思う。前向きに行こう、前向きに。
【風魔法】をそれなりに使ったので、その後は【水魔法】も試してみた。分かったのは、余り難しいことを考えずに、とにかくイメージが大事だということだった。イメージと妄想力さえしっかりしていれば、水など周りになくとも氷の彫刻さえ作ることが可能だということだった。
なんだこの世界。はっきり言うけど『妄想力の強さが魔法の強さ』だということがある程度はっきりしてしまって、なんというか……危険、ではないだろうか。
だって、妄想さえしっかりしていれば割と何でも魔法で可能なのだから。末恐ろしい世界だ……。
ちなみに【水魔法】はレベル5まで上がった。今なら砂漠地帯でも余裕で走破出来そうなくらいにはなっている。
何しろ魔法でイメージさえすれば、砂漠でも水がだっぱだっぱと出てくるはずだから。何も問題はない。気候変動的には大きな問題があるかもしれないが、少なくとも私一人が砂漠を走破することに関しては何も問題はない。
また【土魔法】も地面を耕す程度のことを試してみると、存外上手くいった。最初の一回を使うとき、まだスキルを入手していない場合では、妄想というか魔法を発動するのにかなり詳細なイメージを必要としたが、最終的にはなんとかなった。そして同時にスキルも覚えることが出来たので、これは御の字といったところか。現在のレベルは2である。この分なら初期設定で入手出来なかった色々な属性魔法のスキルを手に入れるのも、そこまで難しくはなさそうだ。
ちなみに【火魔法】は怖いのでまだ使っていない。今度川や水辺の近くで試してみようと思う。
魔法の練習中にモンスターを見つけた。正しく言えば『モンスターがいたらしいが魔法に巻き込まれていつの間にか討伐していた』という感じだ。魔法を使用した際にモンスターを撃破し、レベルアップの音声が流れたのがその証拠だ。
ちなみにゲームみたいにドロップとかアイテムとかが残るわけではなく、単なるモンスターの死骸がその場に残るようだ。
試しに【鑑定】を使ってみると≪ホーンラビットの死骸≫と出てきた。
≪ホーンラビットの死骸 レア度1≫
[ホーンラビットの成れの果て。角は薬にもなる。肉は美味。]
ホーンラビット、翻訳すると角兎という名のモンスターらしい。確かに見た目通り、兎に一角獣のような角が生えている。攻撃力がちょっと高そうだ。だがそれよりも頭部に長い耳二つに角とは、頭が重くなりすぎではないだろうか、と余計なことを考えてしまった。
あと肉は美味しいらしい。よし宿に戻ったら調理して貰おっと。
そして私はこのホーンラビットを運ぶためにも、アイテムボックスを発動させようと考える。これは称号である≪神の落し子≫で入手したアイテム収納可能な異次元空間の能力なのだが、こちらはどう発動すればよいだろうか。
単純にスキルなのか、それとも魔法なのか。良く分からないが、今までスキルである【探知】や【言語理解】【鑑定】などをエッチな妄想抜きに使用出来ていたことから、これもスキルの一つと捉え、とりあえず唱えてみることにする。
「よし、アイテムボックス!」
……唱えたが、特に発動しない。ん? どうなっているのだろうか。
何度か唱えたが、発動しない。どうしたことだろう。分からないので、ステータスを開いて称号を確認してみるが……良く分からない。
「んー、どうすればよいのだろう」
ぽちぽちとステータス欄をいじっていると、とあるページが全面に格子状の枠が広がっていて、他のページと少し違う表示になっていることに気付いた。
「まさか……このページ、アイテム欄か?」
私はアイテム欄と思われるページを開いたまま、目の前に落ちている≪ホーンラビットの死骸≫に指で触れる。すると画面に≪ホーンラビットの死骸を収納しますか?≫と表示された。≪はい≫≪いいえ≫のうち≪はい≫を選択すると、目の前の死骸は瞬時に消え、代わりに格子状の枠の一つに、今目の前にあったホーンラビットの画像が表示された。
「なるほど……アイテムボックスはこうやって使うのか」
取り出せるかも試してみることにする。今度は画面の兎の画像に指で触れると、≪ホーンラビットの死骸を取出しますか?≫と表示された。≪はい≫を押すと、また現物が現実に、目の前に出てくる。
「これは便利だな。あとは内部時間の経過が発生するかどうかだが……」
それを調べる為に、【水魔法】で手のひらに乗る程度の氷の立方体を生成し、アイテムボックスに放り込んでおく。これが一晩経って水になるか氷のままかで、答えが出るだろう。
とりあえず本日の成果としては
・魔法が使えるようになった
・【風魔法】はレベル1→レベル7に上がった
・【水魔法】はレベル1→レベル5に上がった
・【土魔法】を覚えた。レベルは2に上がった
・【鑑定】はレベル4に上がった
・キャラクターのレベルが3に上がった。ステータスもちょっと上がった
・≪ホーンラビットの死骸≫を入手した
・≪アイテムボックス≫の使い方を覚えた
こんなものか。
明日からはいよいよ本格的にモンスターと対峙していくことにしよう。
宿に戻っておかみさんに≪ホーンラビットの死骸≫を渡した。
「おや、これはホーンラビットじゃないかい。いいのかい?」
「ええ。お世話になってますし」
「じゃあ今夜の夕食は豪華になりそうだね、あと角はいいのかい?」
「ええ。肉を解体とか調理していただくお礼です」
「そんな……悪いよ。流石にそこまで貰えないよ」
「私が持っててもしょうがないので。使って下さい」
「そうかい……なんだか申し訳ないねぇ。じゃあこれ」
おかみさんから銀貨を二枚手渡される。
「えっと、これは……」
「夕食代は返しとくよ」
「そんなつもりじゃ」
「いいからいいから。また次も美味しいのが手に入ったら頼むよ」
「えっと……分かりました。ありがとうございます」
「お礼はこっちがいうもんさ。ありがとね」
夕食に出てきたスープは、ごろりとしたお肉が入っていて、中々に美味だった。
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