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ステフによるクミの観察日記

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 学園都市のとある場所にある酒場の地下の奥。歩くたびに床板が悲鳴を上げる古びた木造の部屋……

 「ボス。これが今月の奴隷売買による収益です」
 「ん、」

 僕は、自身がギルド長を務める通称「闇ギルド」の建物内にあるギルド長室で書類にハンコを押す。

 「それでは……」

 副ギルド長を務めるA級賞金首のカイエンが部屋から出ていく。

 「はぁ……なんかいまだに慣れねぇ」

 僕がここのギルド長になって3年。

 ある日、S級になったことを祝い、知り合いと酒を飲んだ。

 その日はかなり飲み、泥酔した状態で店を後にした所までは覚えている。しかし、その後の記憶がない。

 気がつくと今いる場所にいて、椅子に腰掛けていて、カイエン達が机の前で膝をつき、

 「さすがS級冒険者……俺たちが30人で襲いかかったのに全く相手にならなかっただけでなく、この隠れ家を探り当てた。お見それいたしました。約束通り、俺たちは負けたので貴方様が今日からここのギルド長です!」
 「よろしくお願いします!」

 頭を下げていた。

 ああ……また発動してしまった。僕の幸運と対を成す「悪運」が、と即座に理解した。

 これまでの人生何度も目を覚ますと誰かを従えていることはよくあったからだ。

 男達を見るとみんな誰かに殴られたような打撲痕が身体中にできていた。

 「もしかして、ゴブリンもまともに倒せない僕が屈強そうなこいつら全員を1人で……」

 そして、僕の悪癖。調子乗りが発動する。もう一度男達を見る。

 その目は、全員僕を慕っている目をしていた。

 「そ、尊敬されている!ということは表でも裏でも僕は人気者になってしまった!」

 一応、殺されかけたけど、魔王に命乞いして四天王にしてもらったし、S級冒険者にして、闇ギルドの長……

 「フフン!僕にこそふさわしいね!……
みんな!この僕にまかせたまえ!必ず今よりも、もっと強大な組織にしてあげるよ!」

 それから3年、僕の就任当時の8倍の規模にまで膨れ上がった……というか、膨れ上がってしまった!僕のハッタリと幸運で!

 「フフン!……引けないところまできてしまったぁ!完全にギルド本部に目をつけられたぁ!」

 目下の課題……調子乗りと幸運だけで成り上がりすぎてしまったこと。気がついたら引くに引けない状況になってしまったことをどうするか。

 「はぁ……とりあえず黒髪女でも尾行しにいくか。どうもこの前から気になって仕方がない」

 考えても仕方がないので、僕はギルドを出て、情報のあった「元気の家」へと向かう。

 
 *****


 僕は現在、ターゲットの家近くの路地から華麗に監視……

 「ねぇ?あの路地にいる怪しい男……」
 「そうね。兵士に突き出した方がいいわ」

 路地から元気の家が見えなかったので少しだけ顔を出したら、道端で会話していた主婦達に見つかってしまった。

 怪しいとはなんだ!聞き捨てならんぞ!

 「どこが怪しいんだ!ただ顔がバレないように覆面!茶色の全身コートで身を包んでいるだけだぞ!どこからどう見ても張り込みをする人物じゃないか!」

 闇ギルドの盗賊達に教わった張り込みの基本の格好を主婦達に見せつける。

 闇ギルドの部下達が言っていたぞ!これが銀行を張り込む時の基本だって!

 「……いや。どこからどう見ても強盗にしか見えないわよ」
 「……あ!へい!兵士!」
 
 1人の主婦からツッコミを喰らい、もう1人の主婦が通りかかった兵士を呼ぶ。

 「あいつなんですけど……」
 「む!確かに!どこからどう見ても強盗にしか見えない!そこのお前!詰所まで一緒に来てもらうぞ!」
 
 兵士たちが僕の元へかけてくる。

 なぜだ!ただ張り込みをしていただけだぞ!
 でも、特に悪いことをした覚えなど……

 そこで自身の肩書きが頭に浮かんだ。

 魔王軍四天王、闇ギルド長、学園都市闇商人まとめ役……

 「……やっべ!大体の悪事の根元て僕じゃん!」

 今更気がついた。

 「そこを動くなよ!」

 僕に迫り来る兵士たち。

 「に、逃げなきゃ!」

 僕は入り組んだ路地の中へと逃げ込む。

 「あ!まて!覆面野郎!」

 兵士たちが後を追いかけてくる。意外にも足が早く追いつかれそうになる。

 「ぎ、ぎゃああ!」

 目をつむって必死に走った。前なんて見てない。ただ、現実から目を背けるように逃げた。

 夢中で走っていると、途中まで聞こえていた兵士たちの声が聞こえなくなっていた。

 立ち止まり振り返る。後ろには誰もいない。

 「まだだ!油断はよくない!」

 油断大敵!と念の為にもう少しだけ逃げようと前に向き直り、走り出した時……

 「うわ!」
 「臨時収入」

 誰かとぶつかった。衝撃から言って大男くらいと思われる。

 僕は衝突後、後方へ3回転して家の壁に頭を思いっきりぶつける。

 「いってぇ!」

 ジンジンする後頭部を押さえて立ち上がる。

 「ご、ごめんなさい!」

 ぶつかった相手に謝る。

 実を言うと僕は運と調子乗りでここまで来たのでゴブリンを相手に勝てるかどうかの実力しかないのであらごとは苦手。

 「ぐあああ!私の左腕がぁぁ!……あれ?曲がってない?直角に曲がって骨が飛び出しちゃってない?」

 僕とぶつかった人……声からしておそらく女性は、土下座をする僕の元まで叫びながら歩いてくる。

 「ごめんなさい!」
 「ごめんなさいじゃねえ!見ろ!私の左腕!モノの見事に直角に曲がってるじゃねぇか!」

 その女性は僕の襟首を掴み、とんでもない力で持ち上げる。
 しかも左腕一本で……って、左腕ェェ!

 「ええ!左腕無傷じゃないですか!僕の体軽く持ち上げちゃってますよ!」

 僕は自分の襟を掴む女性の左手を指さして抗議する。

 「どこがだ!肘から先にかけて直角に曲がってるじゃねえか!」

 僕の襟を掴み、体を持ち上げている自身の左手を指さして主張してくる女性。

 「いや!それが普通ぅぅ!」
 「うるせぇ!つべこべいってんじゃねえ!」

 襟を両手で掴まれて前後に揺さぶられる。

 「強盗野郎!盗んだ金は私がちゃんと返却する!それと慰謝料として有金は全部置いていけ!それも盗んだやつに渡す!いいか!」

 僕は揺さぶられる。

 あれ?慌ててよく見てなかったけど、長い黒髪、この声……

 「……」
 「おい!返事しろ!」

 僕は声の主に驚く。

 僕が絡まれてんのターゲットの黒髪の女じゃん!

 「おい!無視すんな!わかったのか?」
 「……え、は、はい!2度とこんなバカなことはしません!」
 「よし!」

 女性は納得すると僕を下す。

 「よーし。盗んだ金をだしな」
 「それなんですが、僕、何も盗んでませんよ?」

 全身コートの中を開いて何も持っていないことを見せる。

 「……え!ほんとだ!……ごめん!やりすぎたわ!この辺、強盗が多いから自分の店を襲われないようにたまに逃げてきた奴を狩ってるんだわ」

 黒髪の女は、僕の背中を叩いて謝ってくる。

 い、痛い!骨に響く!

 「しかし、そんな格好で街の中をうろちょろしてる君も悪いからな!今度見かけたら間違ってまた狩ってしまうかもしれんから気を付けたまえ。じゃあな。ゴートー」

 最後に変なあだ名をつけてから女は立ち去っていった。

 「……ぷはぁぁ!まさか、ここで僕の悪運が発動するとは……今日のところは大人しく帰るか」

 僕は覆面と全身コートを脱ぎ捨てて、夕日の沈みゆく街へと歩き出す。

 「それにしてもあいつら何が張り込みをする時の常識だよ!全然違うじゃん!」

 怒りのあまり地面を足先で強めに蹴る。

 「……ぐあああ!足の骨がぁ!」

 その後しばらく地面を転げ回った。
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