上 下
33 / 57

値下げの魔王「クミ」① 八百屋店主「トシ」

しおりを挟む
 「ええ!玉ねぎネギが値上がりしてるわ!」
 「本当だわ!やぁねぇ……なんでかしら?」

 学園都市商業区北にある赤い煉瓦の建物が並ぶ商店街、通常「夕焼け商店街」は街でも一二を争う安いお野菜が手に入ると評判の一軒の八百屋がある。

 「か、勘違いしないでよね!べ、別にあんた達のために安くしてるだけなんだからね!」

 というキャッチコピーと実際に70歳のおじいさんのツンとデレが体験できる八百屋

「別に……よってけば?」

 創業100年と当時から変わらない3代に渡って熟成された店主の「ツン」と「デレ」はあなたを虜にし、店主が経営する農場から出荷される店主のツンとデレが凝縮された新鮮なお野菜を卸しているので低コストでお届けしている。

 学園都市でも最も古い歴史の八百屋。

 そんな歴史ある八百屋の店先では、一昨日から、八百屋に通うようになった主婦達が値上がりした野菜達を見て困惑していた。

 「期待してたけど、ここもダメかしら」
 「そうね。みんなに教えてあげましょう」

 店を去ろうとする主婦達……

 「もうあんた達!誰が帰っていいって言ったのよ!」

 そんな主婦達に70歳の腰の曲がった白髪の店主、「トシ」が店奥から姿を表し、100年熟成された「ツン!」を披露する。

 「え、いや。店主さんに止められる権利はないと思うけど?」

 まだ店主の接客に慣れていない主婦達は戸惑う。

 「もう、バカ……察しなさいよ」

 若干薄くなって来た頭頂部の髪を必死に集めて指先でねじり、顔を赤らめ、必殺のうるうるさせた瞳を上目遣いで披露する。

 「え……やだぁ♡」
 「え……ものすごくいやだ!」

 店主の上目遣いにハートを射抜かれた主婦一名、その隣で青い顔をする主婦一名……

 「さよならー」

 青ざめた客は、本格的に接客が始まる前に退散していく。

 客を1人逃してしまったことで普通なら焦るが、百戦錬磨の店主は笑う。

 もともと全員に受けるとは思っていない。受け入れてくれる人間はよくてこの街の総数の3割ほど(店主調べ)

 だから、全員ではなく自分の「ツン」と「デレ」に心を打たれる客を大切にする。

 「天候不順で野菜が育たなかったから仕方なくなんだからね!ふん!」

 上目遣いによる「デレ」からの顔を逸らす「ツン」!

 店主が新規の客を落としにいくときの必殺のコンビネーション。

 これで落ちなかった客は数知れず……

「……特別に安くしてあげても良いわよ?」

 そして、ここで重要なのが匙加減!

 首の角度は30度、腰は伸びないから曲がったまま、足を震わせながらか弱さをアピールし、必殺の上目遣いによるラストスパート!

 決して、か弱いさを前面に出さずに頑張って立っていると言うように震え方も加減!

 「お、おじいちゃん!無理しちゃダメだよ!朝早くに出荷して疲れてるでしょ!」

 店の奥で椅子を持ってスタンバイしていた孫が登場し、すかさず店主が震えている理由を説明しつつ椅子に座らせる。

 「歳で立っとるのもキツくなっちまいまして……孫よ。ありがとな……お見苦しい所をお見せいたしました。お客様には情けない姿を見せてしまったお詫びを兼ねて……」

 いつのまにか震えが止まった足で元気よく立ち上がり、椅子の上に登る。

 「今日は大銅貨5枚の玉ねぎネギを今からなんと!特別に大銅貨4枚!4枚で!提供するよ!でも、それだけじゃありません!ここにおわす奥さんの優しさに感動したので大銅貨3枚!まで値下げします!」

 店主の紹介で奥さんに視線が集まる。

 「え!私のおかげ!……なら、買ってこうかしら」

 初めは渋っていた奥さんは気をよくして玉ねぎネギを購入する。

 「特別だって……」
 「今だけ」

 その言葉に反応した主婦達が一斉に玉ねぎネギへと集まる。

 玉ねぎネギは即完売。

 前日は大銅貨2枚で売って完売したことを知らないお客達は満足した顔で八百屋を後にしていく。

 「みんな。また、来てくれてもいいんだからね?」

 最後に店主から喜びの「デレ」がサービスされる。

 「今日もなんとか黒字になった……」

 安心顔で店内へと入っていく店主の背中に、

 「おっちゃん!今日も安くしてくれ!」

 魔王から声がかかる。

 き、今日も来やがった!値下げの魔王!「クミ」!

 「ふふふ」

 不適な笑みを浮かべる店主。

 「今日という今日は俺の「ツン」と「デレ」の虜にしてやるぜ!」

 店主は魔王へと立ち向かう。

 100年熟成されたツンデレ対値下げの魔王の対決が始まる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女として豊穣スキルが備わっていたけど、伯爵に婚約破棄をされました~公爵様に救済され農地開拓を致します~

安奈
ファンタジー
「豊穣スキル」で農地を豊かにし、新鮮な農作物の収穫を可能にしていたニーア。 彼女は結婚前に、肉体関係を求められた婚約者である伯爵を拒否したという理由で婚約破棄をされてしまう。 豊穣の聖女と呼ばれていた彼女は、平民の出ではあったが領主である伯爵との婚約を誇りに思っていただけに非常に悲しんだ。 だがニーアは、幼馴染であり現在では公爵にまで上り詰めたラインハルトに求婚され、彼と共に広大な農地開拓に勤しむのだった。 婚約破棄をし、自らの領地から事実上の追放をした伯爵は彼女のスキルの恩恵が、今までどれだけの効力を得ていたのか痛感することになるが、全ては後の祭りで……。

ダラダラ異世界転生

ゆぃ♫
ファンタジー
平和な主婦異世界に行く。1からの人生人を頼ってのんびり暮らす。

聖女なんて御免です

章槻雅希
ファンタジー
「聖女様」 「聖女ではありません! 回復術師ですわ!!」 辺境の地ではそんな会話が繰り返されている。治癒・回復術師のアルセリナは聖女と呼ばれるたびに否定し訂正する。そう、何度も何十度も何百度も何千度も。 聖女断罪ものを読んでて思いついた小ネタ。 軽度のざまぁというか、自業自得の没落があります。 『小説家になろう』様・『Pixiv』様に重複投稿。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。 「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」 理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。 どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。 何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。 両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。 しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。 「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

処理中です...