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私達……C級になっちゃいました③

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 な、なんだこいつは……

 自身を舐め回すように見てくる黒髪の女……

 感じる魔力は大したことがない。

 それなのに、この俺を前にして、体が強張るどころかどんどん自然体になっていく。

 真竜ですら俺を前にしたら身構えると言うのに……

 魔王軍四天王「トロル」は、重戦士が龍を叩き切る時に使う「斬龍刀」と言う10mの巨大龍の背骨から作られる。
 
 切ると言うよりも叩き潰すに特化した剣を肩に乗せたまま自分の言葉を無視して答えてくれないクミに戸惑う。

 俺の言葉聞こえなかったのか?それにしてもなんかこいつの舐め回すような視線に鳥肌が止まらん。

 トロルは露出している乳首と腰布で覆われた股間を思わず両手で隠す。
 
 裏メニュー
 「トロルの恥ずかしがり……顔を染めて」

 「うえっ!お前がやっても可愛くねぇって!」

 なんでも正直に言ってしまうクミ。その言葉はどんな鋭利な刃物もしのぐ鋭さを誇る。

 「グッハァァ!」

 トロルは吐血しながら胸を抑えて片膝をつく。

 「くそ!油断した!噂には聞いたことがあるが、まさか風魔法の派生「言霊魔法」の使い手がいるとは!」

 血を吐きながら驚愕の顔を浮かべてクミを見る。

 「言葉による不可避の攻撃で相手にダメージを与える魔法…く!侮りがたし!人間!」

 体験したことのない精神攻撃による苦痛で顔を歪ませるトロルはそれでも立ち上がる。

 なぜなら彼は「戦士」だから!

 どんなに強大な敵だろうと、戦いにくい相手だろうと「粉砕!」するのが信条。

 「ん?言霊魔法って……なんだ?」
 
 トロルの言う「言霊魔法」について身に覚えのないクミは顔を傾げる。

 「身に覚えがないだと!」

 戦慄するトロル。
 
 「今、お前が俺にした攻撃の事だよ!……え?したよな?攻撃?だって、あまりの衝撃と言葉の鋭利さに、俺、吐血したよ?」
 「うーん……そんなものは知らん!」
 「ええ!だってめちゃくちゃ効いたぞ!心が一回砕けたぞ!」
 「そんなことは知らん!私は思ったことを言っただけだ!」

 トロルに胸を張り堂々と言い切る。

 油断したところにもう一度言霊魔法を喰らわせるための「演技(プラフ)」か?

 それともただ単に普通の言動でこの俺が傷ついたとでもいうのか?

 ……わからん!どっちなんだい!

 トロルは思考の渦に飲み込まれていく。

 そして悪癖が顔を出す。

 「ええい!面倒臭い!」

 肩に乗せていた「斬龍刀」を振り上げる。

 「考えてもしょうがない時はとにかく「粉砕!」あるのみ!……死ねぇぇぇ!」


 「へぇ!私ってそんなすごい魔法まで使えるようになっていたのかぁ……すっげぇ!天才じゃん!さすが!私!」

 自画自賛するクミへと目を回しながら振り下ろす。

 「……ん?おお。攻撃されていたのか」

 遅れて気がついたクミは、自分の頭へと迫った斬龍刀を、

 「ほい」

 人差し指と親指でつまむ。

 「グオオオ!」

 受け止められたがそれでも諦めず片手から両手に持ち替えて全体重を乗せる。

 「お!」
 
 流石のクミも地面へとめり込む。

 「へぇー地面の中って程よく暖かくて、なんだか安心するなー眠くなってきたー」

 クミは斬龍刀をがっしりと掴んだまま、
うとうとし始める。

 「うおおおい!寝るなぁ!戦闘中!」

 敵のトロルから魂のツッコミ。

 「グレース先生のパンティー……ぐへへへ!今日は履いてないのかぁ……いや!履けよ!気持ちわりーな!」

 自身の夢に驚き、その衝撃から斬龍刀を砕き、穴から脱出する。

 「ああ!俺の斬龍刀!……なんつう砕かれ方だ……ぐすっ、砕くならもっと真面目に砕いてくれよぅ」
 
 泣き出してしまうトロル。

 それを見たクミの胸中に罪悪感が充満する。

 「えっと、なんかごめん」
 「ぐすっ……いいよ。許すよ」

 トロルはデカい手を伸ばしてくる。

 「仲直りの握手」
 「お、おう」

 互いに照れくさそうに握手を交わし、硬い友情が……

 「ははは!なんてな!秘技「仲直りの握手と見せかけて握りつぶーす!」だ」

 クミの手ではなく体を握るトロル。

 「!おい!汚いぞ!」
 
 卑怯な手を使ったトロルに思わず怒るクミ。

 「ははは!勝負は勝ったもん勝ちだぞ!」

 勝ち誇った笑みを浮かべるトロル。

 「いや、そっちじゃなくて……臭い」

 鼻を摘んで話すクミ。

 「は?何が?」
 「お前の手だよ。牛乳でカピカピになった雑巾のような匂いがすんだけど……ちゃんと風呂に入ってる?」

 またしてもクミの裏表のない言葉がトロルに放たれる。

 「グハァ!」

 とんでもない精神への攻撃から大量の血を吐くトロル。

 今度は両膝をついて倒れ込む。

 「テレポート」

 トロルの拘束が緩んだ隙に短距離空間移動魔法で距離を取る。

 「うっえ~!最悪!私の体まで臭いんだけど!」

 クミからさらなる追撃……

 「グッハァァ!!」

 さらに大量の血を吐き出す。

 トロルの周りは既に血の池となっている。

 大量の血を失ったことで力なくうつ伏せで倒れ込む。

 「うああ……消毒!そうだ!殺菌しないと!ハイキュアポイズン!」

 惜しみなく上級魔法を使用する。

 「グッハァァ!……南無」

 止めの一撃をくらいトロルは息絶える。

 「うん!よし!匂いも落ちた!……さあ!かかってこい!」

 クミはトロルへ両拳を構える。

 「……って反応がないな。おーい!もしもーし!」

 トロルの血を火で蒸発させて耳元まで移動する。

 それにしても私の身長と顔の大きさが一緒って頭でっかちだな。

 「大丈夫ですかー!元気ですかー!」

 鍾乳洞内に反響する大きな声で叫ぶ。

 ……反応がない。ただ屍のようだ。

 「……ま、いっか。さぁて、魔石を頂いて帰りますか」

 なんで急に死んだのか疑問に思いながらも興味のないことを気にしても仕方ないとトロルの胸から1m台の大きな魔石を取り出してダンジョンを後にした。

 ダンジョンから外に出ると、

 「ああ!よかった!」

 お姉様とエルフのプルルンお姉様に前後から抱きしめられた。

 ふぅー!役得ぅぅ!

 「それであなたが無事ってことはあいつは消えたの?」

 お姉様に聞かれた。

 「んー?なんか気がついたら死んでたのでわからないですね。ま、敵はいなくなったので結果オーライ!」

 亜空間から魔石を取り出す。

 「エマー!ユリー!がっぽり稼げたよー!」

 2人に魔石を見せる。

 「え!やったー!」
 「すごい!すごい!何あの魔石!」

 目を黄金に輝かせる2人。
 眩しいぜぇ!

 その後冒険者ギルドへと行き、周りから驚愕の視線を浴びながらダンジョンでのことを報告、金貨500枚を貰った。

 おっほー!増やすぞー!

 と、それから、お姉様たちを見捨てた男は、殺人罪などから魔の森近くの鉱山へと送られることになった。

 なんでも魔の森はダンジョンボス級のモンスターたちがひしめき合うS級冒険者でもクエスト以外では近づかない場所なんだとか……乙!

 まあ、そんなどうでも良いことは置いておいて……

 「やったー!C級になったぞー!」
 「やった!これで行けるな!」
 「ええ!ドラゴンダンジョンで稼ぎまくり!」

 うっへーーい!!
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