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初めてのビジネス

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 元気の家でお世話になって3日が過ぎた頃、

 「私達もお金稼げたらサキさんを楽にできるのにね。何かいい方法ないかな?」

 ハンナ、クルミ、カンタ、コータ、ケンタ達だけで夜遅くに集まり話し合っていたのを見かけた。
 
 大人が寝静まった夜中、みんな目を擦ったりしてないから、きっとこの時間に起きて何度も何度も話し合いを重ねてきたのだろう。  

 「私に任せなさい!」
 
 子供達が集まるリビングへと入っていく。

 ハンナ以外のみんなは、見られてしまった!という顔をするが、

 「何かいい考えがあるんですか?」

 とハンナに聞かれた。

 「ふっふっふーーまあ、楽しみに待っていなさい。今日の昼間にここにみんなで集まろう。それまでに準備は終わらせておくよ」

 時間も時間だったので、それだけ言って良い子達を部屋へと押しやってみんなで眠りについた。
 
 「ごめん!今日の下水掃除2人に任せていいかな?ちょっと用事があって……」
 
 起きてきたユリに断りを入れる。

 「ああ。いいよ。まかせて」

 許可が出た。

 よし!ならば、早速準備に取り掛かりますか!

 朝食を食べてクエストへ行くユリ達よりも早く家を出て、街へと走る。
 
 「やっぱり単身の冒険者が多いのか……」

 私よりも先に街へと歩く冒険者風の人達を追い越して目的の場所へと向かった。


 *****


 「お!クミちゃん!」
 「おっす!おっちゃん!」

 私が顔を出したのは飲み屋で仲良くなったおっちゃんの1人が営む店。

 「例のブツは?」

 誰にも聞かれないように静かに話す。

 「怪しい取引ー」

 頭の上で喋るシルフィ。

 怪しい取引っていうのはもっとちゃんとした暗いところでするものだよ?勉強不足だなぁ……今は明るい昼間だから、ちゃんとした取引です!

 「ああ。とびっきりの上玉があるよ」

 おっちゃんは笑いながらブツを渡してくれる。
 ひとつまみ口に含む。

 「……おお。こいつはかなりの上玉だ。交渉成立」

 銅貨の入った袋を渡す。

 「ひっひっひ……確かに」
 
 おっちゃんは結んだ袋の口を開けて中身を確認する。

 「おう。また頼むな」

 開けた瞬間に鈴のなるドアを開き、店を後にする。

 「ぬははは!こいつがあれば……いける!いけるぞ!大金持ちへの第一歩だ!」

 うおおおお!と雄叫びを上げながら街の中を爆走する。

 「君!静かにしなさい!」

 朝の巡回をしていた兵士さんに怒られてしまった。

 くそ!サツか!どこからかぎつけやがった!しかし、まだ気がついてないようだな。

 怪しまれないようにブツを小脇に挟んだまま謝り、道を慌てて駆ける。

 「危なかったぜー」
 「おーおー悪い顔だー」
 「危うく塩とかマヨネーズとか取られるところだったぜ!さて、あとは野菜だな」

 私は別の知り合いのおっちゃんの元へ向かう。

 
 *****



 「え!これ全部で何を作るんですか?」

 台所に並べられた食材を見たハンナは、見当がつかず私に聞いてくる。

 ふむ。日に日に成長するお胸様を見られて幸せの限りだ。

 「これから作るのは「サンドイッチ」だ」
 「え!この固いパンでですか?普通は食パンじゃ……」
 「ふっふっふ……確かにそうだな。だが、しかし!私の泊まった高級宿のシェフが言っていた!今、高級宿の間で流行っているこの固いパンのサンドイッチはいずれ安くなって街の中で流行ると!密かにだが、すでに目をつけて試作している店もあるという情報をつかんだ!なので、先手を打つ!」
 
 机を叩き、胸の内に迸る情熱を語る。

 「元気の家の周囲にある家に住んでいるのは単身の冒険者が多い!しかもだ!昼間に夜勤のクエストを終えて疲れて帰ってくるやつが多い!疲れている時こそ食べるものは簡単に済ませたいと思うものだ!」

 懐かしいなぁ。教会のお勤めに忙殺されていた頃を思い出すぜ。

 うっすらと涙が浮かぶ。

 「そのターゲット層を狙って売り込みを掛ける!値段は大銅貨一枚!C級冒険者と金に余裕のあるやつが多いこの辺なら渋るやつは少ない値段だ!これで行く!売る数は20個!最低でも半分を売れば黒字だ!」

 そして……
 敏腕天才経営者現る!その正体は何と13歳の美少女だった!と打ち出された新聞により一躍時の人!取材に引っ張りだこ!その中で宣伝!専門店を出店して、元気の家に9割で私に5割の利益が入ってくる!……ん?計算が合わないな……まあ、いいか。

 「でへへへ!明るい未来が広がるぜ!」
 「気持ち悪い笑顔になってるー」

 ハンナを置き去りにして勝手に盛り上がる。

 「それなら早く作らないと!もうすぐお昼になっちゃいますよ!」

 ハンナに急かされて時計を見ると10時30分だった。
 やべぇ!すぐにつくらねぇと!

 時間がないので手刀で全ての食材を切っていく。
 
 「ほあたたたたた!」

 華麗な着地を決め、空中から降ってくる食材を皿でキャッチ!

 「ふ……決まったぜ」
 「そんなことはいいので早くしてください!」
 「あ、すみません」

 ハンナからお叱りを受け、黙って作業を進めて、チーズとハムのホットサンド、トマトとレタスとハムのサンドイッチを作り、みんなで売りに歩いた。

 「さぁさぁ!よってらっしゃい!ああ!見てらっしゃい!これぞ!なんちゃって高級宿直伝のサンドイッチだよ!かの有名な高級宿「ロイヤル」のシェフが惚れ込んだサンドイッチ!それはもううめぇのなんの!……他の店は大銅貨3枚って店まであるって噂だぁ!しかし!今なら何と!大銅貨一枚だよ!お安いでしょう?」

 私の情熱のこもった語り。

 適当にベラベラ喋ってるだけなんだけど。

 「おい!ロイヤルのシェフってあの……」
 「ああ!世界一って話だよな……」

 道ゆく冒険者達は足を止めてひそひそ話す。
 1人が足を止めると1人また1人と注目する人が増えていった。

 「さぁさぁ!どうだい!今しか買えない!(嘘)ホットサンド!トロトロの濃厚なチーズが塩気の強いハムとマッチして天国にも登るとはまさにこのことだよって味だよぅ!」

 実演用に作ったホットサンドを食べてみせる。
 噛んだ後にわざととろけて伸びるチーズをみせる。

 どうだぁーうまそうだろう?

 「買った!」

 1人が買って食べる。

 「ん!うめぇ!」

 その瞬間……

 「俺も!」
 「俺も買うぞ!!」

 あっという間に完売した。

 へっへっへ……ちょろいぜ!儲け!

 この日の売り上げは銀貨2枚。

 「おお!すげぇ!」
 「やった!これだけあれば私たちの食費代は何とかなるね!」

 子供達も大いに喜んでいた。
 その笑顔を見ていたらなんだか幸せで胸がいっぱいになった。

 「知り合いのおっちゃん達には話つけて明後日の昼間から2日に一回来るようにしておいたからあとは自分たちで頑張れ!」
 「「「うん!」」」

 子供達の嬉しそうな顔……

 くぅ!明日からのおっちゃん達に払う金どうするか……まあ、いいか。あんなに嬉しそうな顔してるしな。なんとかなるっしょ!

 利益は全て子供達に行くようにした。
 
 「すげえな!お前達!」

 と、サキさんの喜んだ顔を見られたし!
 めでたしめでたし!
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