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ロイと最強の剛 

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ロイが闘技場へ向かってしばらく……別の係員がやってきた。

「奴隷番号98!アーク!ハルバート様が試合を見るようにと仰せだ!出ろ!」

(最強の剛が俺を?なぜ?)

疑問に思いながらも檻を出て、係員に連れられ客席へと向かう。


  *******************


「皆さん!お待たせいたしました!選手の入場です!東!ここまでほとんどの試合を途轍もない怪力と巨大なハンマーによる必殺の1撃「スマッシュ」で勝利をしてきた!赤鬼!ロイ!」

闘技場東側の檻が上がり、ロイが闘技場へと姿を現す。

「今日も頼むぞ!」
「今日はお前を応援しに来たからな!」
「勝てよ!」

闘技場中央へと歩くロイに向けて観客の男たちが立ち上がり声援を送る。

「うるせぇ!野郎からの応援は受け付けてねぇ!俺が受け付けるのは娘からの応援だけだ!」

ロイは男たちの声援に応える。

「なんだと!せっかく来てやったのに!」
「なんだ!その態度は!」

観客たちは怒り出す。

「おい!誰だ!うちの娘をくれと言ったやつは!俺の耳は聞き逃さなかったぞ!」

今度はロイが観客に言い返す。

「誰もそんなこと言ってねえよ!」
「お前の態度に怒ってんだよ!」
「真面目にやれ!」

即座に観客が言い返す。

「俺はいつだって真面目だあ!真面目に娘を愛している!」

ロイと観客による言い合いはどんどんエスカレートしていく。

「喧嘩はやめてください!最強の剛「ハルバート」様が入場します!だから、静かにしてください!」

実況が観客とロイの喧嘩を止めようとハルバート様が入場します!と言うと、その言葉だけを聞いた係員が間違えて西側の檻を上げてしまう。

「ちょ!まだ紹介してない!もう!めちゃくちゃだ!3神!最強の剛「ハルバート」様!」

短い紹介が終わると、2メートルの大きさのロイよりも1回り体の大きいスキンヘッドの男が入場する。その手には、ロイのハンマーと同じ大きさの斧を持って。

「ブハハハ!話には聞いていたが、本当に緊張感のない奴だ!客と喧嘩する奴は初めて見たぞ!」

ハルバートはロイと客の喧嘩を見て笑う。

「おお!俺よりでかい奴は初めて見た!雰囲気からわかるぞ。俺より全然強いな。お前」
「まあ。そうだろうな。だが、そう言うお前だってなかなかの者ではないか。最強の盾より強いオーラを感じるぞ」
「ふふふ。そうだろう。あんたに勝つためにできる事はやってきたからな。今日はそれをあんたにぶつけるだけだ」
「そうか。なら、始めから全力でかかってくるがいい!そうでなければすぐに終わってしまうからな」
「おうよ!」

それから2人は距離を取り、巨大なハンマーと斧を相手に向けて構える。

「両者、準備は良さそうです!それでは始めてください!」

試合が始まる。

開始と共に「ザッ」と地面を強く踏み込み、斧を構えるハルバートめがけてロイが走り出す。

接近と共に、ハンマーを振り上げ「食らえ!スマッシュ!」と、これまでの対戦相手を一撃で葬ってきた必殺技を叩き込む。

「ふん!」

ハルバートは「スマッシュ」に対して、斧を下から振り上げる。

ドガアアン!

2人の攻撃がぶつかり、何かが爆発したような音が会場に響く。

「りゃあ!」
「ふん!」

2人は武器をぶつけたまま押し合う。

「おうら!」
「ぐおお!」

しばらく押し合いは続き、徐々にロイがハルバートを押し始める。

「ぐおおお!らあ!」

ハルバートを吹き飛ばす。

「くお!」

ハルバートは空中で体勢を立て直し、地面に足をつけ、ザザザザザァと地面を滑るがなんとか踏みとどまり、壁への衝突を避ける。

「はははは!参った!強いな!」

吹き飛ばされたハルバートは笑う。

「そうだろ!」

ロイは腕を組み、胸を張る。

「本腰を入れて戦うとしよう」

どこか遊び半分といった空気だったハルバートの雰囲気が真剣なものへと変わった。

それを感じロイは思わず身構えてしまったほどの凄み。

「すぅ!」

ハルバートは目を瞑り、息を大量に吸い込み、

「ふん!」

と全身に力を込める。すると着ている上半身の服が吹き飛び筋肉が盛り上がる。

「ふぅ……」
「すげえな!バッキバキのムキムキだな!」

ロイは、目を輝かせる。

「そうだろう。これはな。人間としてのパワーを余す事なく発揮した状態で「フルパワー」と呼んでいる」
「すげえな。俺より腹筋割れてんじゃねえか」
「ふっふっふっ……今からこの肉体のパワーをお前に見せてやろう。覚悟は良いか?」
「おう。いつでも」
「ふっ……ならば、行くぞ!」

2人は同時にハンマーと斧を振り上げて、相手めがけて振り下ろす。

「オラァァ!スマッシュ!」
「ふん!」

人外クラスの怪力同士がぶつかり、「ズガアアン!」と先程の爆発音よりも大きな音が響き渡る。

「耳が痛え!」
「ぎゃああ!」

観客は両手で耳を押さえる。

「く!おおお!」
「ふん!」

2人は再び武器を交差させたまま押し合いを始める。

「ぐお!」
「ふふん!」

両者の押し合いは互角。どちらも相手を押し込めない。

「つええな!」
「お前もな!」

2人は押し合いをやめ、一歩後方へ下がり、

「おらぁ!スマッシュ!スマッシュ!」
「ふん!ふん!ふん!」

必殺技による高速の斬り合いを始める。

「おらぁぁ!スマッシュ!」
「ふん!ふん!」

ロイが上から振り下ろせば、ハルバートは下からの振り上げ、ハルバートが右から振れば、ロイは、左から振るう。

(俺の連続スマッシュで押し切れねぇ!)
(わしのフルパワーについてくるだと!)

高速の斬り合いも互角。

一度呼吸を整えるために、互いに距離を取る。

「かあ!連続スマッシュでもダメなのかよ!あんた強すぎだろ!」
「お前も大概だぞ!俺のフルパワーに張り合うとは」
「まあな!ただ。このままじゃ拉致があかねぇからよ!そろそろ本気を出させてもらうぜ!」
「ほう。それは楽しみだ……かかってこい!」
「いくぜ」

ロイは短く持っていたハンマーの柄を長く持ち直し、振り上げる。

「なんだ?さっきと変わらないではないか……」

ハルバートは落胆したような様子を見せつつ、同じように斧を振り上げる。

「おらぁ!超絶!筋肉!スマッシュ!」
「ふん!」

2人の武器が交差する。

「があああ!」
「何!」

ロイの超絶!筋肉!スマッシュ!がハルバートの斧を弾き飛ばし、体勢を崩し無防備になったハルバートに向かって、巨大ハンマーを振るい、闘技場の壁に向かって吹き飛ばす。

ドガアアン! 

ハルバートが壁に衝突する音が響く。

「見たか!これが俺の全力だ!」

ロイはハルバートに吠える。

「見事だ」

壁の中からハルバートが姿を現す。その体からは、血が地面に滴る程、頭、鼻などから出血していた。

「先程の攻撃よりも倍以上の威力とは……参った。まさかここまでとは……」
「どうだ!強いだろ!」
「ああ。その強さは、3大魔以上かもしれんな。その素晴らしい強さに敬意を表して、俺の最強の力を持って迎え撃とう」
「あ。やっぱり全力じゃなかったんだな。こりゃ参ったな……まあ、それでも負けるわけにはいかんから死んでも勝つ!」

ロイはハンマーを構える。

ハルバートは再び目を瞑り、大きく息を吸い込み、今度は「ふぅ…….」と静かに息を吐く。

すると、「ドクン!ドクン!」と心臓の鼓動音が会場にこだまする。

「ロイよ。これがわしの全力「臨界点突破(オーバードライブ)」血流の流れを早くし、人間の限界を超えて力を発揮する技。速さも多少上がるが安心せぇ。わしはお前を力でねじ伏せるために正面から斬り合うつもりだからな」

ハルバートの全力の姿を目の当たりしたロイはより強くハンマーを握る。

(こりゃ……ミレイ……すまねえ)

「準備は良いか?……行くぞ!」

互いに武器を振り上げ、相手に向かって振り下ろす。

「超絶!筋肉!スマッシュ!」
「ふん!」

両者の武器が交差し、押し合いが始まる。

「く!おおお!」
「やるな!この状態のわしと互角に打ち合うとは!どれ!これくらいはどうだ?」

余裕のハルバートは笑いながら押す力を上げる。

「ぐおおお!」

ロイはハルバートに一瞬押し込まれたが、力を振り絞りなんとか押し戻す。

「ははは!やるな!だが……ふん!」

ハルバートはさらに力を上げる。

「くおおお!」

ロイも抵抗するが、押され始め、

「今度はお前が吹き飛べ」

と、ハルバートによって闘技場の壁へと吹き飛ばされる。

「ぐぁ!」

ロイは頭から壁にぶつかる。

「さあて。生きてるか?」

ハルバートは土煙で見えないロイの安否を確認しに行く。

「スマッシュ!」

ロイは土煙の中から、自身に近づいてくるハルバートに向けて必殺技を叩き込む。

「ほう」

ハルバートは自身に迫る巨大なハンマーを斧で弾き返す。

「ああ!入ると思ったんだけどな!」

ロイは悔しそうに叫びながら、土煙の中から全身血まみれの姿で現れる。

「なんだ。満身創痍ではないか」
「おう!立ってるのがやっとだぜ!撃ち合えても後1撃が限界だ」

ロイは立っているのもやっとといった様子で話す。

「ならば、最強の1撃を持って葬ってやる!」
「望むところだ!」

両者、ハンマーと斧を振り上げる。

(ミレイ……すまねぇ……)

ニッコリと笑う愛娘の姿が浮かぶ。

「これが俺の最後の全力!超絶ウルトラ筋肉スーパースマッシュ!」
「ふん!」

互いに振り上げたハンマーと斧を振り下ろす。

「おおお!」
「ふん!」

2人の武器がぶつかる。

「ぐおおお!」
「ふうん!」

ロイはハルバートと互角に打ち合う。

「ぐははは!ここまで強いとは!あっぱれだ!」

ハルバートは笑う。

「これが俺の全力だ!受け取れ!」

ハルバートは自身の斧にピキッと亀裂が入る程の力を込める。

「くっ……」

ハルバートの全力にロイは耐えきれず、ハンマーが弾き飛び、無防備になった体を斧が横に切り裂く。

「ぐはっ!」

切られたロイは血を吐きながら、その場に倒れる。

観客や実況は突然聞こえなくなった轟音に違和感を覚え、闘技場の方を見る。

「と、とんでもない怪力同士による戦い!勝者!ハルバート様!」

実況が試合の終わりを告げる。

ハルバートの出てきた檻が上がる。だが、ハルバートは倒れたロイに駆け寄り話しかける。

「まだ息はあるか?」

ロイに問いかけると、

「……あ、あ」

と弱々しい答えが返ってくる。

「試合の前に客と喧嘩している時にお前は「娘が」と言っていたが、外にいるのか?」

ハルバートの問いにロイは、畑仕事を手伝って泥だらけになりながらも笑う娘の姿を思い出し、

「ああ……1人、むすめ、がいる」

と答える。

「そうか……なら、お前の娘に伝える事はあるか?責任をもって必ず伝える」
「いいの、か」
「ああ。構わない」
「すま、ねえ……なら、……こう伝えてくれ」
「任せろ」

ロイは辿々しく話し出す。

「先に死んじまってごめんな。こんな馬鹿な親父で苦労をかけた。お前は母さんに似て優しいいい子だ。きっと幸せになれる。それに不安な時は空を見ろ。いつだって母さんと見守っている。大丈夫だ……長くて、すまねえ」
「気にするな。必ず伝える」
「たの、む!それとな。アークはつええ……ぞ」

ロイの意識が途切れ、永い眠りにつく。

「ああ。それは楽しみだ」

ハルバートは笑う。

その後、ハルバートはロイとの約束を守り、娘のミレイにロイの遺言を伝えた。ロイの遺体は、娘の住む家の近くに墓を建て、安置された。

  ******************

「おじさんどうだった」

檻に戻ったアークは、メイナスに試合結果を伝える。

「そっか……最後はどうだった?」
「いつものように笑っていた」
「おじさんらしいね」
「ああ」

外は太陽が沈み、月が昇る。
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