11 / 20
本当によかったぁ
しおりを挟む
キャロルside
(どのくらい経ったんだろう……)
私は顔を上げて夜空を眺めた。雲ひとつなく星星が輝き、ドラゴンの群れが風のように舞い、満月が世界を照らしていた。
"醜い私はあなたに相応しくありません"
そう言ってロベルト殿下のアトリエから飛び出して一心不乱に走った。息が切れても、そのせいで酸欠になっても頭がクラクラしても関係なく走った。一人になりたかった。
(多分就寝の鐘が鳴ったから21時過ぎかな)
そうしてたどり着いたのが校舎A棟とB棟の間の奥まった所にあるちょっとした窪みだった。そこに三角座りになって壁に寄りかかってずっと空を眺めた。
"こんな所で会うなんて奇遇ね"
眺めながらマリアベルに言われたことを思い出しては自分が許せなくて責め続けた。
"あんた気づいていなかっただろうけど、学園に入ってからマイクはあんたと一緒にいるというだけで教科書を破られたり、机を破壊されたり、いじめの対象にされてたのよ"
衝撃だった。私と会っている時のマイクはそんなそぶりなんて見せずに楽しそうに笑ってたから。
"でも、あんたにそのことを伝えたら傷つくから言えなかった。厳しい両親や商人たちにも弱みを見せるわけにいかなくて我慢することにした。それでも限界がきて壊れた"
でも本当は、陰では私のせいで苦しんでいた。
"知らなかったで済む話じゃないから。あんたは存在するだけで他人に迷惑をかけるだけなのよ。それが自覚できたら今すぐに消えて"
醜い、と揶揄されていた私の髪を唯一美しいと言ってくれた。かけがえのない存在だった。でも、私はそんなマイクを傷つけた。
"君との日々は苦痛でしかなかった"
初めは何で?って突然のことだったからわからなかった。
(全部私のせいだった。私が関わったから。存在するから……)
"あと三時間寝かせて……お母さん"
"ありがとう。キャロル"
"考えておいてく、zzz"
変わった人だった。絵のことにしか興味がなくて部屋は掃除してもすぐに散らかるし、朝食後は机で寝てしまうし、お礼と称して抱きついてくるし……本当に変わった人だった。
(だけど、凄く楽しかった。マイクと過ごした日々も楽しかったけどそれ以上で……本当に毎日が楽しくて可笑しくてこんな時間がずっと続いてほしいと願ってしまった)
"さよなら。醜い老婆さん"
(でも、私といればロベルト殿下が不幸になる。私といると言うだけでどんな目に遭うか何を言われるかわからない)
私はスカートの裾をギュッと握りしめた。それから瞳を閉じて息を吐いた。
(消えよう)
それからしばらくして立ち上がった。
(私はここにいちゃいけない)
自室を目指して歩き出した。
「はぁはぁ……ふぅぅ、やっと見つけた」
しかし歩き出して程なく、私は突然背後から腕を掴まれた。
◇◇◇
ロベルトside
「はぁはぁ……どこだ」
俺は焦っていた。
「はぁはぁはぁ」
妙な胸騒ぎがしてならなかった。それが警笛のように鳴り続けて俺を煽った。「ここで見つけなくちゃ一生会えない」と「だから早く見つけろ」と。
「どこだ、どこにいる」
走って、視線を前後左右に動かして探した。
「どこにいるんだよ」
それでも見つからなかった。足を止めてズキズキと痛むこめかみを抑えて息を整えた。
(ふぅぅ……まずは落ち着け。焦っても仕方ない)
と同時にひどく動揺してしまい揺れ動く心を落ち着けた。
(よし、行くか)
それからしばらくして落ち着きを取り戻した俺は再び走り出した。が、走り出したのも束の間、
(ははは……本当に焦るのは良くないな)
視界の端に白く輝く何かが映ったので目を向けた。そしたら居た。
(見つけた)
無意識に。疲労で気怠かったはずの体を動かしていた。一歩、一歩ーー踏み出すたびに速さを増し、30歩くらい進んだ所で捕まえた。
(やっと見つかった)
そうして掴んだ腕を引いて自分のもとへたぐり寄せた。
「よかったぁ」
存在を確かめるように強く強く抱きしめた。
「本当によかった」
(どのくらい経ったんだろう……)
私は顔を上げて夜空を眺めた。雲ひとつなく星星が輝き、ドラゴンの群れが風のように舞い、満月が世界を照らしていた。
"醜い私はあなたに相応しくありません"
そう言ってロベルト殿下のアトリエから飛び出して一心不乱に走った。息が切れても、そのせいで酸欠になっても頭がクラクラしても関係なく走った。一人になりたかった。
(多分就寝の鐘が鳴ったから21時過ぎかな)
そうしてたどり着いたのが校舎A棟とB棟の間の奥まった所にあるちょっとした窪みだった。そこに三角座りになって壁に寄りかかってずっと空を眺めた。
"こんな所で会うなんて奇遇ね"
眺めながらマリアベルに言われたことを思い出しては自分が許せなくて責め続けた。
"あんた気づいていなかっただろうけど、学園に入ってからマイクはあんたと一緒にいるというだけで教科書を破られたり、机を破壊されたり、いじめの対象にされてたのよ"
衝撃だった。私と会っている時のマイクはそんなそぶりなんて見せずに楽しそうに笑ってたから。
"でも、あんたにそのことを伝えたら傷つくから言えなかった。厳しい両親や商人たちにも弱みを見せるわけにいかなくて我慢することにした。それでも限界がきて壊れた"
でも本当は、陰では私のせいで苦しんでいた。
"知らなかったで済む話じゃないから。あんたは存在するだけで他人に迷惑をかけるだけなのよ。それが自覚できたら今すぐに消えて"
醜い、と揶揄されていた私の髪を唯一美しいと言ってくれた。かけがえのない存在だった。でも、私はそんなマイクを傷つけた。
"君との日々は苦痛でしかなかった"
初めは何で?って突然のことだったからわからなかった。
(全部私のせいだった。私が関わったから。存在するから……)
"あと三時間寝かせて……お母さん"
"ありがとう。キャロル"
"考えておいてく、zzz"
変わった人だった。絵のことにしか興味がなくて部屋は掃除してもすぐに散らかるし、朝食後は机で寝てしまうし、お礼と称して抱きついてくるし……本当に変わった人だった。
(だけど、凄く楽しかった。マイクと過ごした日々も楽しかったけどそれ以上で……本当に毎日が楽しくて可笑しくてこんな時間がずっと続いてほしいと願ってしまった)
"さよなら。醜い老婆さん"
(でも、私といればロベルト殿下が不幸になる。私といると言うだけでどんな目に遭うか何を言われるかわからない)
私はスカートの裾をギュッと握りしめた。それから瞳を閉じて息を吐いた。
(消えよう)
それからしばらくして立ち上がった。
(私はここにいちゃいけない)
自室を目指して歩き出した。
「はぁはぁ……ふぅぅ、やっと見つけた」
しかし歩き出して程なく、私は突然背後から腕を掴まれた。
◇◇◇
ロベルトside
「はぁはぁ……どこだ」
俺は焦っていた。
「はぁはぁはぁ」
妙な胸騒ぎがしてならなかった。それが警笛のように鳴り続けて俺を煽った。「ここで見つけなくちゃ一生会えない」と「だから早く見つけろ」と。
「どこだ、どこにいる」
走って、視線を前後左右に動かして探した。
「どこにいるんだよ」
それでも見つからなかった。足を止めてズキズキと痛むこめかみを抑えて息を整えた。
(ふぅぅ……まずは落ち着け。焦っても仕方ない)
と同時にひどく動揺してしまい揺れ動く心を落ち着けた。
(よし、行くか)
それからしばらくして落ち着きを取り戻した俺は再び走り出した。が、走り出したのも束の間、
(ははは……本当に焦るのは良くないな)
視界の端に白く輝く何かが映ったので目を向けた。そしたら居た。
(見つけた)
無意識に。疲労で気怠かったはずの体を動かしていた。一歩、一歩ーー踏み出すたびに速さを増し、30歩くらい進んだ所で捕まえた。
(やっと見つかった)
そうして掴んだ腕を引いて自分のもとへたぐり寄せた。
「よかったぁ」
存在を確かめるように強く強く抱きしめた。
「本当によかった」
3
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。
しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。
ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。
そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。
ヒマを持てあます令嬢の人生ゲーム
蕪 リタ
恋愛
ノリと勢いで完結です。
「あなたに、死ぬ覚悟はありまして?」
マルティナ・タリスマン。嫌いなのは、続かずヒマを持てあますこと。どうのように退屈をしのぐのか。考えようと思った時に舞い込んだのは、国唯一の王子との婚約。王子に夢見る身分でもないし、見た目も正直好みでない。いやいや受けるしかなかった婚約は、思いのほか有意義な時間であったのだ。
妃教育では知らないことを学べるし、王宮の本も読めて楽しかった……王子の相手は面倒だったが。そんな妃教育も、学院入学前に修了。次は、王子と結婚した後。
またヒマになってしまった。そんな彼女が次に目をつけたのが、入学式に遅刻してきた男爵令嬢だった。マルティナは、この男爵令嬢と王子を使ってヒマつぶしをすることにした。
*カクヨムにも掲載しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
婚約者を幼馴染にとられた公爵令嬢は、国王陛下に溺愛されました
佐倉ミズキ
恋愛
ダミア王国でも美しいと有名な公爵令嬢セシリアは、幼馴染でソフィアナに婚約者ガルを寝取られた。
お腹には子供までいるという。ソフィアナの計画的犯行だった。
悔しかったが、取り乱すところを見せたくなかったセシリアは笑顔で二人を送り出す。。
傷心の中、領土内にあった王宮病院に慰問へ行く。
そこで、足を怪我した男性と出会い意気投合した。
それから一月後。
王宮から成人を祝うパーティーが開かれるとのことでセシリアはしぶしぶ参加することになった。
やはりそこでも、ソフィアナに嫌味を言われてしまう。
つい、言い返しそうななったその時。
声をかけてきたのはあの王宮病院で出会った男性だった。
彼の正体はーー……。
※カクヨム、ベリーズカフェにも掲載中
義妹に婚約者を寝取られた病弱令嬢、幼馴染の公爵様に溺愛される
つくも
恋愛
病弱な令嬢アリスは伯爵家の子息カルロスと婚約していた。
しかし、アリスが病弱な事を理由ににカルロスに婚約破棄され、義妹アリシアに寝取られてしまう。
途方に暮れていたアリスを救ったのは幼馴染である公爵様だった。二人は婚約する事に。
一方その頃、カルロスは義妹アリシアの我儘っぷりに辟易するようになっていた。
頭を抱えるカルロスはアリスの方がマシだったと嘆き、復縁を迫るが……。
これは病弱な令嬢アリスが幼馴染の公爵様と婚約し、幸せになるお話です。
聖女である御姉様は男性に抱かれたら普通の女になりますよね? だから、その婚約者をわたしに下さいな。
星ふくろう
恋愛
公爵家令嬢クローディアは聖女である。
神様が誰かはどうだっていい。
聖女は処女が原則だ。
なら、婚約者要りませんよね?
正妻の娘である妹がそう言いだした時、婚約者であるこの国の王子マクシミリアンもそれに賛同する。
狂った家族に婚約者なんか要らないわ‥‥‥
クローディアは、自分の神である氷の精霊王にある願いをするのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる