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本当によかったぁ

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 キャロルside


(どのくらい経ったんだろう……)

 私は顔を上げて夜空を眺めた。雲ひとつなく星星が輝き、ドラゴンの群れが風のように舞い、満月が世界を照らしていた。

"醜い私はあなたに相応しくありません"

 そう言ってロベルト殿下のアトリエから飛び出して一心不乱に走った。息が切れても、そのせいで酸欠になっても頭がクラクラしても関係なく走った。一人になりたかった。

(多分就寝の鐘が鳴ったから21時過ぎかな)

 そうしてたどり着いたのが校舎A棟とB棟の間の奥まった所にあるちょっとした窪みだった。そこに三角座りになって壁に寄りかかってずっと空を眺めた。

"こんな所で会うなんて奇遇ね"

 眺めながらマリアベルに言われたことを思い出しては自分が許せなくて責め続けた。

"あんた気づいていなかっただろうけど、学園に入ってからマイクはあんたと一緒にいるというだけで教科書を破られたり、机を破壊されたり、いじめの対象にされてたのよ"

 衝撃だった。私と会っている時のマイクはそんなそぶりなんて見せずに楽しそうに笑ってたから。

"でも、あんたにそのことを伝えたら傷つくから言えなかった。厳しい両親や商人たちにも弱みを見せるわけにいかなくて我慢することにした。それでも限界がきて壊れた"

 でも本当は、陰では私のせいで苦しんでいた。

"知らなかったで済む話じゃないから。あんたは存在するだけで他人に迷惑をかけるだけなのよ。それが自覚できたら今すぐに消えて"

 醜い、と揶揄されていた私の髪を唯一美しいと言ってくれた。かけがえのない存在だった。でも、私はそんなマイクを傷つけた。

"君との日々は苦痛でしかなかった"

 初めは何で?って突然のことだったからわからなかった。

(全部私のせいだった。私が関わったから。存在するから……)

"あと三時間寝かせて……お母さん"

"ありがとう。キャロル"

"考えておいてく、zzz"

 変わった人だった。絵のことにしか興味がなくて部屋は掃除してもすぐに散らかるし、朝食後は机で寝てしまうし、お礼と称して抱きついてくるし……本当に変わった人だった。

(だけど、凄く楽しかった。マイクと過ごした日々も楽しかったけどそれ以上で……本当に毎日が楽しくて可笑しくてこんな時間がずっと続いてほしいと願ってしまった)

"さよなら。醜い老婆さん"

(でも、私といればロベルト殿下が不幸になる。私といると言うだけでどんな目に遭うか何を言われるかわからない)

 私はスカートの裾をギュッと握りしめた。それから瞳を閉じて息を吐いた。

(消えよう)

 それからしばらくして立ち上がった。

(私はここにいちゃいけない)

 自室を目指して歩き出した。

「はぁはぁ……ふぅぅ、やっと見つけた」

 しかし歩き出して程なく、私は突然背後から腕を掴まれた。


◇◇◇


 ロベルトside

「はぁはぁ……どこだ」

 俺は焦っていた。

「はぁはぁはぁ」

 妙な胸騒ぎがしてならなかった。それが警笛のように鳴り続けて俺を煽った。「ここで見つけなくちゃ一生会えない」と「だから早く見つけろ」と。

「どこだ、どこにいる」

 走って、視線を前後左右に動かして探した。

「どこにいるんだよ」

 それでも見つからなかった。足を止めてズキズキと痛むこめかみを抑えて息を整えた。

(ふぅぅ……まずは落ち着け。焦っても仕方ない)

 と同時にひどく動揺してしまい揺れ動く心を落ち着けた。

(よし、行くか)

 それからしばらくして落ち着きを取り戻した俺は再び走り出した。が、走り出したのも束の間、

(ははは……本当に焦るのは良くないな)

 視界の端に白く輝く何かが映ったので目を向けた。そしたら居た。

(見つけた)

 無意識に。疲労で気怠かったはずの体を動かしていた。一歩、一歩ーー踏み出すたびに速さを増し、30歩くらい進んだ所で捕まえた。

(やっと見つかった)

 そうして掴んだ腕を引いて自分のもとへたぐり寄せた。

「よかったぁ」

 存在を確かめるように強く強く抱きしめた。

「本当によかった」
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