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始まり③

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始まり③

オリビアside

「何が希望的観測よ!それを言うなら私の胸の胸の方が成長の余地があるから!」

「はぁぁ!お前の絶望的なマナ板と一緒にすんな!」

 ああ……腹が立つ。

「誰がまな板じゃあい!」

「お前じゃああい!」

 出会った頃とコイツーーラルクは何一つ変わっていない。

"こんなもんかよ、正規騎士ってよ"

 二十年前に王家より賜ったヴァイブラント領には500人の領民が暮らしている。ヴァイブラント領は土地柄から魔物被害が多い。ゆえに領地を守る騎士団が存在する。

 そこでは人材育成の観点から12歳から13歳の少年を募り「騎士見習い」として入団し鍛え上げ将来は領地を守る騎士を育て上げる取り組みを行なっている。

 そして今から三年前にラルクは入団してきた。当時から実力は折り紙付きで一般隊士に当たる正規騎士が5人で束になってかかっても相手にすらならないほどだった。

 しかしそんな実力があるにも関わらず仕事は人に押し付けたり、先輩騎士をこき使ったりとやりたい放題だった。その姿が領主であるにも関わらず自分勝手に行動する父の姿と重なって嫌いだった。

 ただ、そんなラルクの第一印象が一変する出来事があった。それはいつものように騎士駐屯所で訓練を終えて屋敷に帰ろうとしていた時だった。

「997」

 誰もいないはずの駐屯所の建物の影から誰かの微かな声が聞こえた気がした。それが気になった私は慎重に歩を進め建物の角の壁からこっそり覗き込んだ。

「998、999」

 覗き込んだ先に居た声の主はラルクだった。

「1000」

 いつから木剣を振るっていたのか大粒の汗が額から流れ落ち、土砂降りにあったようにシャツが汗でびしょびしょに濡れていた。

「次はランニング40キロ」

 素振りを終えたラルクはタオルで汗を拭うとランニングをするために走って行ってしまった。

(……負けてられない)

 衝撃だった。努力なんてせずに才能だけで強くて自分よりも弱い人間を見下しているのだとばかり思っていた。

 それに鍛錬の量なら一般隊士の倍以上をこなしていて誰よりも努力している自信があった。けど、ラルクの素振り千回とかは……。

 そのとき私の中でラルクの印象が変わると共に「負けたくない」というラルクへの対抗心が芽生えた。

 それからというもの事あるごとに私の方からラルクに決闘を申し込んだ。が、実力はラルクの方が上で私は負け続けた。でも、悪い気はしなかった。なぜなら意外にもラルクは「女のくせに」とか私を否定する事は何一つ言うことがなかった。他の男達はわざと聞こえるように私へ

"女ならもっと女らしくお淑やかにしてろっての"

"邪魔だよなぁ"

 とか言ってくるのに……ラルクはそんなこと一切口にしなかった。

(次はあそこでフェイントを織り交ぜて)

 それまではどこか水中で息を止め続けているような苦しくて、でも苦しいなんて言えない神経を尖らせ続けるような毎日だった。だけど、

「ラルクに勝つ」

 という目標ができてからは周りの目や言葉なんて気にしている余裕がなくなるほど鍛錬して鍛錬して、

"くそ!"

 気がつけばラルクを倒していた。そしてラルクに勝ったことで村を警備する騎士達から認められて「女のくせに」なんて言われなくなっていた。屋敷では相変わらず言われ続ける日々だったけど、認められたことで村に居場所ができた。それがものすごく嬉しかった。

「別に理解なんてされなくても……」

 そう強がってここまで来た。幼い日の父から言われた

"いずれお前には俺のために役に立ってもらう"

 と言われ、いずれ来たる「顔も知らない男と強制的に婚約」という出来事を回避するべく

"俺の言うことが聞けないっていうなら……そうだな『決闘』しかねえな"

 父との決闘の日のために強くならなければならなかったから。でも、そう思っていたけど……嬉しい。

 それに厳しい鍛錬に心が折れそうになった時も、

"体格なんて関係ない。形が変わったとしても自分が目指す目標へまっすぐ進むだけだ"

 成長期に周りがどんどん大きくなっていく中で早々に成長が止まり憧れであった大剣が振るえないと絶望し、憧れであった私の父に、

"そんな小せえ体で俺のように強くなる?舐めんな。てめえのような小さな奴が強くなれるわけねえだろ。辞めちまえよ"

 と言われてたとしても自分を鼓舞して前に進んで行った。そんなラルクの姿から私は勇気をもらってきた。折れずにまっすぐ進んで来れた。なのに、なのにだ。私はラルクにお礼を言えていなかった。ずっと……だって、だってなんかラルクを前にすると心臓がうるさくなって平静でいられなくなってしまって、

「ありがとう」

 そう言えば良いだけなのに、

(この症状は一体なんなの……?)

 そう言えない自分に腹が立つ。
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