3 / 26
始まり③
しおりを挟む
始まり③
オリビアside
「何が希望的観測よ!それを言うなら私の胸の胸の方が成長の余地があるから!」
「はぁぁ!お前の絶望的なマナ板と一緒にすんな!」
ああ……腹が立つ。
「誰がまな板じゃあい!」
「お前じゃああい!」
出会った頃とコイツーーラルクは何一つ変わっていない。
"こんなもんかよ、正規騎士ってよ"
二十年前に王家より賜ったヴァイブラント領には500人の領民が暮らしている。ヴァイブラント領は土地柄から魔物被害が多い。ゆえに領地を守る騎士団が存在する。
そこでは人材育成の観点から12歳から13歳の少年を募り「騎士見習い」として入団し鍛え上げ将来は領地を守る騎士を育て上げる取り組みを行なっている。
そして今から三年前にラルクは入団してきた。当時から実力は折り紙付きで一般隊士に当たる正規騎士が5人で束になってかかっても相手にすらならないほどだった。
しかしそんな実力があるにも関わらず仕事は人に押し付けたり、先輩騎士をこき使ったりとやりたい放題だった。その姿が領主であるにも関わらず自分勝手に行動する父の姿と重なって嫌いだった。
ただ、そんなラルクの第一印象が一変する出来事があった。それはいつものように騎士駐屯所で訓練を終えて屋敷に帰ろうとしていた時だった。
「997」
誰もいないはずの駐屯所の建物の影から誰かの微かな声が聞こえた気がした。それが気になった私は慎重に歩を進め建物の角の壁からこっそり覗き込んだ。
「998、999」
覗き込んだ先に居た声の主はラルクだった。
「1000」
いつから木剣を振るっていたのか大粒の汗が額から流れ落ち、土砂降りにあったようにシャツが汗でびしょびしょに濡れていた。
「次はランニング40キロ」
素振りを終えたラルクはタオルで汗を拭うとランニングをするために走って行ってしまった。
(……負けてられない)
衝撃だった。努力なんてせずに才能だけで強くて自分よりも弱い人間を見下しているのだとばかり思っていた。
それに鍛錬の量なら一般隊士の倍以上をこなしていて誰よりも努力している自信があった。けど、ラルクの素振り千回とかは……。
そのとき私の中でラルクの印象が変わると共に「負けたくない」というラルクへの対抗心が芽生えた。
それからというもの事あるごとに私の方からラルクに決闘を申し込んだ。が、実力はラルクの方が上で私は負け続けた。でも、悪い気はしなかった。なぜなら意外にもラルクは「女のくせに」とか私を否定する事は何一つ言うことがなかった。他の男達はわざと聞こえるように私へ
"女ならもっと女らしくお淑やかにしてろっての"
"邪魔だよなぁ"
とか言ってくるのに……ラルクはそんなこと一切口にしなかった。
(次はあそこでフェイントを織り交ぜて)
それまではどこか水中で息を止め続けているような苦しくて、でも苦しいなんて言えない神経を尖らせ続けるような毎日だった。だけど、
「ラルクに勝つ」
という目標ができてからは周りの目や言葉なんて気にしている余裕がなくなるほど鍛錬して鍛錬して、
"くそ!"
気がつけばラルクを倒していた。そしてラルクに勝ったことで村を警備する騎士達から認められて「女のくせに」なんて言われなくなっていた。屋敷では相変わらず言われ続ける日々だったけど、認められたことで村に居場所ができた。それがものすごく嬉しかった。
「別に理解なんてされなくても……」
そう強がってここまで来た。幼い日の父から言われた
"いずれお前には俺のために役に立ってもらう"
と言われ、いずれ来たる「顔も知らない男と強制的に婚約」という出来事を回避するべく
"俺の言うことが聞けないっていうなら……そうだな『決闘』しかねえな"
父との決闘の日のために強くならなければならなかったから。でも、そう思っていたけど……嬉しい。
それに厳しい鍛錬に心が折れそうになった時も、
"体格なんて関係ない。形が変わったとしても自分が目指す目標へまっすぐ進むだけだ"
成長期に周りがどんどん大きくなっていく中で早々に成長が止まり憧れであった大剣が振るえないと絶望し、憧れであった私の父に、
"そんな小せえ体で俺のように強くなる?舐めんな。てめえのような小さな奴が強くなれるわけねえだろ。辞めちまえよ"
と言われてたとしても自分を鼓舞して前に進んで行った。そんなラルクの姿から私は勇気をもらってきた。折れずにまっすぐ進んで来れた。なのに、なのにだ。私はラルクにお礼を言えていなかった。ずっと……だって、だってなんかラルクを前にすると心臓がうるさくなって平静でいられなくなってしまって、
「ありがとう」
そう言えば良いだけなのに、
(この症状は一体なんなの……?)
そう言えない自分に腹が立つ。
オリビアside
「何が希望的観測よ!それを言うなら私の胸の胸の方が成長の余地があるから!」
「はぁぁ!お前の絶望的なマナ板と一緒にすんな!」
ああ……腹が立つ。
「誰がまな板じゃあい!」
「お前じゃああい!」
出会った頃とコイツーーラルクは何一つ変わっていない。
"こんなもんかよ、正規騎士ってよ"
二十年前に王家より賜ったヴァイブラント領には500人の領民が暮らしている。ヴァイブラント領は土地柄から魔物被害が多い。ゆえに領地を守る騎士団が存在する。
そこでは人材育成の観点から12歳から13歳の少年を募り「騎士見習い」として入団し鍛え上げ将来は領地を守る騎士を育て上げる取り組みを行なっている。
そして今から三年前にラルクは入団してきた。当時から実力は折り紙付きで一般隊士に当たる正規騎士が5人で束になってかかっても相手にすらならないほどだった。
しかしそんな実力があるにも関わらず仕事は人に押し付けたり、先輩騎士をこき使ったりとやりたい放題だった。その姿が領主であるにも関わらず自分勝手に行動する父の姿と重なって嫌いだった。
ただ、そんなラルクの第一印象が一変する出来事があった。それはいつものように騎士駐屯所で訓練を終えて屋敷に帰ろうとしていた時だった。
「997」
誰もいないはずの駐屯所の建物の影から誰かの微かな声が聞こえた気がした。それが気になった私は慎重に歩を進め建物の角の壁からこっそり覗き込んだ。
「998、999」
覗き込んだ先に居た声の主はラルクだった。
「1000」
いつから木剣を振るっていたのか大粒の汗が額から流れ落ち、土砂降りにあったようにシャツが汗でびしょびしょに濡れていた。
「次はランニング40キロ」
素振りを終えたラルクはタオルで汗を拭うとランニングをするために走って行ってしまった。
(……負けてられない)
衝撃だった。努力なんてせずに才能だけで強くて自分よりも弱い人間を見下しているのだとばかり思っていた。
それに鍛錬の量なら一般隊士の倍以上をこなしていて誰よりも努力している自信があった。けど、ラルクの素振り千回とかは……。
そのとき私の中でラルクの印象が変わると共に「負けたくない」というラルクへの対抗心が芽生えた。
それからというもの事あるごとに私の方からラルクに決闘を申し込んだ。が、実力はラルクの方が上で私は負け続けた。でも、悪い気はしなかった。なぜなら意外にもラルクは「女のくせに」とか私を否定する事は何一つ言うことがなかった。他の男達はわざと聞こえるように私へ
"女ならもっと女らしくお淑やかにしてろっての"
"邪魔だよなぁ"
とか言ってくるのに……ラルクはそんなこと一切口にしなかった。
(次はあそこでフェイントを織り交ぜて)
それまではどこか水中で息を止め続けているような苦しくて、でも苦しいなんて言えない神経を尖らせ続けるような毎日だった。だけど、
「ラルクに勝つ」
という目標ができてからは周りの目や言葉なんて気にしている余裕がなくなるほど鍛錬して鍛錬して、
"くそ!"
気がつけばラルクを倒していた。そしてラルクに勝ったことで村を警備する騎士達から認められて「女のくせに」なんて言われなくなっていた。屋敷では相変わらず言われ続ける日々だったけど、認められたことで村に居場所ができた。それがものすごく嬉しかった。
「別に理解なんてされなくても……」
そう強がってここまで来た。幼い日の父から言われた
"いずれお前には俺のために役に立ってもらう"
と言われ、いずれ来たる「顔も知らない男と強制的に婚約」という出来事を回避するべく
"俺の言うことが聞けないっていうなら……そうだな『決闘』しかねえな"
父との決闘の日のために強くならなければならなかったから。でも、そう思っていたけど……嬉しい。
それに厳しい鍛錬に心が折れそうになった時も、
"体格なんて関係ない。形が変わったとしても自分が目指す目標へまっすぐ進むだけだ"
成長期に周りがどんどん大きくなっていく中で早々に成長が止まり憧れであった大剣が振るえないと絶望し、憧れであった私の父に、
"そんな小せえ体で俺のように強くなる?舐めんな。てめえのような小さな奴が強くなれるわけねえだろ。辞めちまえよ"
と言われてたとしても自分を鼓舞して前に進んで行った。そんなラルクの姿から私は勇気をもらってきた。折れずにまっすぐ進んで来れた。なのに、なのにだ。私はラルクにお礼を言えていなかった。ずっと……だって、だってなんかラルクを前にすると心臓がうるさくなって平静でいられなくなってしまって、
「ありがとう」
そう言えば良いだけなのに、
(この症状は一体なんなの……?)
そう言えない自分に腹が立つ。
15
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ヤンデレストーカーに突然告白された件
こばや
キャラ文芸
『 私あなたのストーカーなの!!!』
ヤンデレストーカーを筆頭に、匂いフェチシスコンのお姉さん、盗聴魔ブラコンな実姉など色々と狂っているヒロイン達に振り回される、平和な日常何それ美味しいの?なラブコメです
さぁ!性癖の沼にいらっしゃい!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天満堂へようこそ 5
浅井 ことは
キャラ文芸
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
寂れた商店街から発展を遂げ、今やTVでCMも流れるほどに有名になった天満堂薬店。
その薬は人間のお客様は、天満堂薬店まで。
人外の方はご予約の日に、本社横「BAR TENMAN」までお越しください。
どんなお薬でもお作りします。
※材料高価買取
※口外禁止
※現金のみ取り扱い(日本円のみ可)
※その他診察も致します
♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*・゚
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる