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"目を開けろ"
低く割れたような声……?いや、声じゃない。人が発した言葉を音として耳で知覚しているというよりも……そう。直接、頭の中に流れ込んでくる感じだ。
"お前は何者だ"
目を開いた。まるで半分眠っているように頭が重くて何も考えられない。
"使者でもない者がなぜ天国への階段を登っている"
だけど、思う事ーー感情と若干の記憶は感じられた。
"答えろ"
切先が3本ある槍を黒いモヤに向けられた。
「……」
その問いには答えず、あたりを見渡した。
「……」
見るもの全てが灰色な世界。巨大な岩山の真ん中を削った階段があって、光がさす頂上へと伸びている。何段あるのかはわからない。だけど、階段の頂上付近の人が豆粒程度に見える階段は長く、多くの人が下を向いたまま虚な瞳でひたすらに階段をゆっくりと登っていた。
"何が目的だ"
横から黒いモヤが尋ねてきた。
(目的……?)
そう聞かれてもまともに思考することができず、なんで自分がここにいるのかよくわからなかった。しかしその時、私の10人くらい前を歩く人物が目に止まった。
(……)
金色というよりも黄色と表現した方がしっくるくる明るい髪に見覚えがあった。
(ワタル?)
自然と、すんなりと名前が出た。
(そうだ。私はワタルを助けに来たんだ)
ストン……と、しっくり来た。すると重かった思考が働くようになり意識が覚醒した。
「ワタル……ワタル!助けに来たよ!」
声を出せた。ただ、なぜか身体が動かない。だから、ワタルに声が届くように、
「ワタル!ワタル!!」
叫んだ。
「……」
でも、ワタルは下を向いたまま階段を登っていくだけ、呆然と。
(まずい……)
なぜかわからないけど胸騒ぎがして、
「ああ……天国」
周囲を見た。
「何か大切なことを忘れているような気がするけどいいか……天国へ行けるんだ」
中腹を過ぎたあたりから亡者たちは顔を上げると天国を見つめたままうわ言のようにそう口にしていた。そして一歩進むごとに暗かった顔が明るくなり天国に魅了されるように恍惚とした表情へと変化した。
「っ!ワタル!」
このまま行かせたらまずい。
「ワタル!」
焦りが募り名前を呼び続けた。だけど、ワタルに私の声は届かない。
"ケヒヒヒ"
そんな時、黒いモヤが不気味に笑った。
"そんなにあの男を救いたいのか?"
と問われた。真面目な声音で。
「助けたい!」
不気味な黒いモヤ……おそらく本来なら関わってはいけないような存在なのだろう。
「どうすればいい!」
だけど、今の私には関係なかった。
『どんな手を使ってもワタルを助ける』
そう覚悟を決めていた。
"ケヒヒヒ!なら、取引といこう"
「わかった。私は何をすればいい」
"簡単なことだ。お前の寿命を50年分、俺に寄越せ"
低く割れたような声……?いや、声じゃない。人が発した言葉を音として耳で知覚しているというよりも……そう。直接、頭の中に流れ込んでくる感じだ。
"お前は何者だ"
目を開いた。まるで半分眠っているように頭が重くて何も考えられない。
"使者でもない者がなぜ天国への階段を登っている"
だけど、思う事ーー感情と若干の記憶は感じられた。
"答えろ"
切先が3本ある槍を黒いモヤに向けられた。
「……」
その問いには答えず、あたりを見渡した。
「……」
見るもの全てが灰色な世界。巨大な岩山の真ん中を削った階段があって、光がさす頂上へと伸びている。何段あるのかはわからない。だけど、階段の頂上付近の人が豆粒程度に見える階段は長く、多くの人が下を向いたまま虚な瞳でひたすらに階段をゆっくりと登っていた。
"何が目的だ"
横から黒いモヤが尋ねてきた。
(目的……?)
そう聞かれてもまともに思考することができず、なんで自分がここにいるのかよくわからなかった。しかしその時、私の10人くらい前を歩く人物が目に止まった。
(……)
金色というよりも黄色と表現した方がしっくるくる明るい髪に見覚えがあった。
(ワタル?)
自然と、すんなりと名前が出た。
(そうだ。私はワタルを助けに来たんだ)
ストン……と、しっくり来た。すると重かった思考が働くようになり意識が覚醒した。
「ワタル……ワタル!助けに来たよ!」
声を出せた。ただ、なぜか身体が動かない。だから、ワタルに声が届くように、
「ワタル!ワタル!!」
叫んだ。
「……」
でも、ワタルは下を向いたまま階段を登っていくだけ、呆然と。
(まずい……)
なぜかわからないけど胸騒ぎがして、
「ああ……天国」
周囲を見た。
「何か大切なことを忘れているような気がするけどいいか……天国へ行けるんだ」
中腹を過ぎたあたりから亡者たちは顔を上げると天国を見つめたままうわ言のようにそう口にしていた。そして一歩進むごとに暗かった顔が明るくなり天国に魅了されるように恍惚とした表情へと変化した。
「っ!ワタル!」
このまま行かせたらまずい。
「ワタル!」
焦りが募り名前を呼び続けた。だけど、ワタルに私の声は届かない。
"ケヒヒヒ"
そんな時、黒いモヤが不気味に笑った。
"そんなにあの男を救いたいのか?"
と問われた。真面目な声音で。
「助けたい!」
不気味な黒いモヤ……おそらく本来なら関わってはいけないような存在なのだろう。
「どうすればいい!」
だけど、今の私には関係なかった。
『どんな手を使ってもワタルを助ける』
そう覚悟を決めていた。
"ケヒヒヒ!なら、取引といこう"
「わかった。私は何をすればいい」
"簡単なことだ。お前の寿命を50年分、俺に寄越せ"
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