上 下
39 / 41

しおりを挟む
"目を開けろ"

 低く割れたような声……?いや、声じゃない。人が発した言葉を音として耳で知覚しているというよりも……そう。直接、頭の中に流れ込んでくる感じだ。

"お前は何者だ"
 
 目を開いた。まるで半分眠っているように頭が重くて何も考えられない。

"使者でもない者がなぜ天国への階段を登っている"

 だけど、思う事ーー感情と若干の記憶は感じられた。

"答えろ"

 切先が3本ある槍を黒いモヤに向けられた。

「……」
 
 その問いには答えず、あたりを見渡した。

「……」

 見るもの全てが灰色な世界。巨大な岩山の真ん中を削った階段があって、光がさす頂上へと伸びている。何段あるのかはわからない。だけど、階段の頂上付近の人が豆粒程度に見える階段は長く、多くの人が下を向いたまま虚な瞳でひたすらに階段をゆっくりと登っていた。

"何が目的だ"

 横から黒いモヤが尋ねてきた。

(目的……?)

 そう聞かれてもまともに思考することができず、なんで自分がここにいるのかよくわからなかった。しかしその時、私の10人くらい前を歩く人物が目に止まった。

(……)

 金色というよりも黄色と表現した方がしっくるくる明るい髪に見覚えがあった。
 
(ワタル?)

 自然と、すんなりと名前が出た。

(そうだ。私はワタルを助けに来たんだ)

 ストン……と、しっくり来た。すると重かった思考が働くようになり意識が覚醒した。

「ワタル……ワタル!助けに来たよ!」

 声を出せた。ただ、なぜか身体が動かない。だから、ワタルに声が届くように、

「ワタル!ワタル!!」

 叫んだ。

「……」

 でも、ワタルは下を向いたまま階段を登っていくだけ、呆然と。

(まずい……)

 なぜかわからないけど胸騒ぎがして、

「ああ……天国」

 周囲を見た。

「何か大切なことを忘れているような気がするけどいいか……天国へ行けるんだ」

 中腹を過ぎたあたりから亡者たちは顔を上げると天国を見つめたままうわ言のようにそう口にしていた。そして一歩進むごとに暗かった顔が明るくなり天国に魅了されるように恍惚とした表情へと変化した。

「っ!ワタル!」

 このまま行かせたらまずい。

「ワタル!」

 焦りが募り名前を呼び続けた。だけど、ワタルに私の声は届かない。

"ケヒヒヒ"

 そんな時、黒いモヤが不気味に笑った。

"そんなにあの男を救いたいのか?"

 と問われた。真面目な声音で。

「助けたい!」

 不気味な黒いモヤ……おそらく本来なら関わってはいけないような存在なのだろう。

「どうすればいい!」

 だけど、今の私には関係なかった。

『どんな手を使ってもワタルを助ける』

 そう覚悟を決めていた。

"ケヒヒヒ!なら、取引といこう"

「わかった。私は何をすればいい」

"簡単なことだ。お前の寿命を50年分、俺に寄越せ"
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ
恋愛
 今回の竜騎士選定試験は、竜人であるブルクハルトの相棒を選ぶために行われている。大切な番でもあるクリスティーナを惹かれるがままに竜騎士に選んで良いのだろうか?   ブルクハルトは何も知らないクリスティーナを前に、頭を抱えるしかなかった。  本編24話→ブルクハルト目線  番外編21話、番外編Ⅱ25話→クリスティーナ目線

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...