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油断大敵

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「次は……大盾のお前」

 俺の心臓を貫いた魔王は次の標的をハンスに定めると、

「生意気にも俺の攻撃を防ぎ続けたんだ。簡単に死ねると思うなよ」

 邪悪な笑みを浮かべ俺を投げ捨てた。

「ワタル!」

 胸を貫かれ地面を転がる俺。それを見て目を見開いたサンは俺の名前を叫ぶと遠隔で、

「エクストラヒール!」

 欠損した腕だろうと元に戻してしまう最上級回復魔法を発動した。緑の光が俺を包み込み癒していく。

「無駄だ。そいつには呪いをかけた。女神の魔法を弾く呪いをな。いくら回復魔法をかけようとそいつは助からん」

 が、魔王の言うとおり胸の傷は塞がることはなく意識が遠のいていった。身体がどんどん冷えていく。

(雪山で凍死する時ってこんな感じなんだろうなぁ)

 なんて馬鹿なことが頭をよぎった。「こんな時まで能天気だな俺」ってちょっと可笑しくなった。

「さて」

 瞳を閉じた俺を見た魔王は背を向けるとハンスへと歩き出した。

「死ね」

 そう言いハンスを睨みつけた。

「くっ……」

 後ずさるハンス。そんなハンスを見てため息をつく魔王。

「つまらん」

 心の折れた敵を殺すことほどつまらないことはない、とでもいうようにうんざりした顔を浮かべた。そしてもはや勝利が確定となったことでわずかに警戒を緩めた。

"やるしかねえか"

 そう覚悟を決めてからずっと待っていた唯一のチャンス……これを逃したらもう二度と来ない。

(いくぞ。動け。俺の体)

 本当に持てる最期の力を振り絞って立ち上がった。込められるだけの魔力を右拳に纏わせ、

「『油断大敵』……だったんじゃねえのか?」

 と、魔王に話しかけ、

「っ!貴様!まだ動け」

 慌てて振り返った魔王の心臓部分へ

「はい!動けましたー!」
 
 と、おちゃらけつつ渾身の一撃をお見舞いしてやった。

「グハッ!」

 苦しそうに胸を抑える魔王は、俺を睨み一歩、二歩と後ずさると、

「きさ……ま」

 前屈みに地面へと倒れた。

「……はぁぁ」

 倒れた魔王が動かないことを確認すると、

「全く……」

 ため息が漏れた。

「強すぎなんだよ」

 そして身体から力が抜けて立っていられず倒れた。

「ワタル!」
 
「ワタルさん!」

 そんな俺の元へ慌ててやってきたサンとハンスが俺を抱き止めた。

「無事で……よかった」





 そして現在。

「ワタル!」

 ワタルは私の腕の中で死んだ。
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