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朦朧とする意識の中

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朦朧とする意識の中、私は最後のMPポーションを飲んだ。

(これでまだ戦える)

 余裕の態度を崩さない魔王を睨みつけ、それからワタルを見た。

「サン、ハンス。魔王は『去れ』って言ってたけどどう思う?逃がしてくれると思うか?」

 おちゃらけた感じで聞いてきた。なので、ハンスと顔を見合わせた後に、

「背中を向けた瞬間に胸を貫かれると思う」

「うん。僕もそう思う」

 と即答した。

「だよなー」

 私たちの意見を聞くとワタルはわざとらしく肩を落とし、ため息をついた。

「まっ、なんとかなるか」

 そしてそう言うとワタルは顔を上げて笑った。いつものようにクシャッとした笑顔……そういつもと変わらない。だけど、その笑顔を見た時に胸がざわついた。

「っと……立ち上がったな」

「よっしゃ!さっさとあんなヤツ倒して甘い物でも食べにいこーぜ!」

 嫌な予感がした。だけど、考えている暇はなくて魔王が玉座から立ち上がり、

「逃げなかったことは褒めてやる。あのまま逃げていたら心の臓を貫いていた所だ。だが、お前達との戦いは飽きた。一瞬だ。一瞬で殺してやる」

 そう言って殺気を放つと構えた。

「いくぞ」

 そして姿を消すと一瞬にしてハンスの前に出現すると棒立ちのハンスのみぞおちに向けて、

「このパーティーで1番厄介なのはお前だ」

 拳を打ち出した。

「……え?」

 ハンスは全く反応できていなかった。魔王の拳が打ち出されてから一瞬遅れて盾を掴んだ手に力を込めた。

「うわー。予想が的中しちゃったよ」

 だけど、1人だけーーワタルだけは違った。魔王が拳を打ち出したのとほぼ同時に動き出すとハンスのみぞおちに魔王の拳打が直撃する前にハンスを思い切り横へ押し倒した。魔王の拳が空を切った。

「でも、これで終わりだ」

 そしてワタルはガラ空きとなった魔王の懐へ飛び込むと右拳に魔力を纏わせ、魔王の心臓部へと叩き込んだ。

「グハッ」

 ワタルの拳が直撃した魔王は吐血すると驚愕の表情を浮かべて急に動かなくなり、

「……」

 胸を抑えたままワタルに倒れかかった。

「っと」

 ワタルは倒れかかってきた魔王の身体を抱き止めた。

「……」

 一瞬の出来事だった。本当に。瞬きをした瞬間に気がつけば魔王は動かなくなっていて、ワタルが抱き抱えていた。

「……やった……やったぁぁぁ!!」

 死んだのかどうかまだわからない。だけど、魔王との実力差を痛感し、心のどこかでは諦めかけていた所での突然の結末……「勝利」を実感すると心が歓喜に包まれ、気がつけば両手を上げて喜んでいた。

「全く……人間はこれだから」

 その時、ハンスの歓喜の声に紛れて不気味な声が聞こえた。

「グフッ」

 寒気のした方へ視線をやった。

「『油断大敵』と昔から言うだろう」

 そこには魔王に胸を貫かれ吐血しているワタルと余裕の笑みを浮かべた魔王がいた。

「ワタル!」
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