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止まれ

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「ぐ!勇者風情が……聖国のトップであるこの私にこんなことをしてタダで済むと思うな!」

 響き渡るおっさんの怒号。その背後、少し離れた門の内側から門兵と住人達が様子を伺っていた。

「っ!」

 そんなおっさんの声にサンがビクッと反応した。

「大丈夫。目を閉じて」

 俺はサンにこれ以上おっさんの汚い声が聞こえないように耳を塞いだ。

「……」

 俺の腕の中で顔を上げたサンと目があった。その瞳は不安に揺れていた。

「これ以上逆らったら私だけじゃなくてあなたも酷い目」

「心配すんな。俺がなんとかする」

 とサンを抱きしめた。

"大丈夫"

 と。見栄ではなくて、俺は不思議とそう確信していた。だから、言葉だけでは心が動揺している今のサンには伝わらないと思ったから誤魔化すことができない心音で伝えた。

「ふふ」

 冷静に考えたら「伝わるわけなくね?」と思ったけど、俺の心音を聞いたサンは笑った。いつもの、思ったことを楽しそうに話す時のはじけるような笑顔だった。

 それを見て俺は内心で「伝わってよかった」と安心した。

「ワタルさん。助かったよ。ありがとう」

 その時、背後から聖騎士2人を倒したハンスが歩いてきた。

「サンを頼む」

 と、大盾を背中に背負い直したハンスにサンを任せ、

「私が動かせる10000の兵力を持って貴様を八つ裂きにしてやる!」

 俺はいまだに何かを言い続けているおっさんへと歩き出した。

"おい。大切なもの一つ守れねえ負け犬。これ以上俺に逆らったらマジで殺すぞ"

 倒れた俺に得意気にそう語ったクソ親父と同じ「俺はこれだけすごいんだぞ」と言いたげな笑顔をおっさんは浮かべていた。

(こういう奴らは……)

 クズとは言わない。どちらかと言うと俺も同じ部類の人間だから。ただ俺は、

"大切な人には笑っていてほしい"

 そんな俺の願いを、想いを脅かすおっさんの口を今は塞ぐだけ。

「おい聖女!このバカを止めろ!」

 俺へと脅しが効かないと悟るとおっさんは次にサンへと口撃の対象を変えた。

「ごめんなさいって泣き叫んでも気を失うまで鞭で打つぞ!」

 後退しながらサンへ口撃を続けるおっさんは足元の小石に躓いて「あっ!」と尻餅をついた。目をつむり、お尻を手でさすり痛がる。

「やっと静かになった」

 その間に距離を詰め、おっさんを見下ろす。

「き、貴様!私を見下ろすな!何様のつもりだ!」

 と吠える。

「うるせえよ」

 本当にうるさくてかなわない。なんでこういう奴らって余裕がなくなると途端にこんなにうるさくなるのか……俺は拳を振り上げ、

「黙れ」

 おっさんの

「あっ……が」

 顔面の前でブギにトドメを刺した時に放ったのと同程度の威力の拳を止めた。

「…….がっ」

 凄まじい拳圧に開いた口、鼻、瞼があおられ酷い有様になったおっさんは涙、鼻水、ヨダレで顔面を汚し、股は小水で汚れて気を失った。





 その頃、王都聖教会本部。

「教皇様をお助けしろ!」

「勇者を捕えろ!」

 聖騎士達が剣を手に総勢100名が王都東門へと走り出した。
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