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実食

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「うん!うまい!」

 俺たちと一緒にテーブルを囲み、一人満面の笑みを浮かべサンドイッチを頬張るブギと

「……」

 朝食から7時間、20キロの移動に、魔物との3連戦で疲労困憊。それに加えて、さらに魔王軍四天王が現れて、今、目の前にいる。警戒度を最大限にしたまま神経を張り詰めている。

(眠い。それに腹が……)

 ぐぅぅぅと空の腹が「何かくれ」と泣き喚く。

(これは敵の作ったもの、もしかしたら毒が盛られているかもしれない……)

 美味しそうなサンドイッチを前にしてそれでも俺の理性は「毒」の危険性があると冷静に判断し伸びそうになる手を止める。だけど俺の本能は、

(だけど、食べたい!!)

 今にも食欲が爆発しそうになっていた。

「くぅぅぅ」

 理性と本能が衝突し、目の前にあるサンドイッチをどうするか頭を悩ませる。

「なんだなんだ?食べないのか?」
 
 しかしそんな状況を打破する者が現れた。

「食べないなら俺が全て貰ってもいいか?」

 ブギだった。さすがは問答無用で侵攻を続ける魔王軍最高幹部だけあって空気を読まず、俺の返答すら待たずにサンドイッチに手を伸ばしてきた。

「うまそう」

 笑いながら俺の領空へと侵入してきた。俺はそんなブギを見て「これが魔王軍なのか」と戦慄を覚えた。迫るブギの手……どうする。

「これは俺のだ!俺が食べる!」

 緊迫した空気の中、最終的に「食べたい」という欲求を優先した。

(これで毒でも盛られていて食べて死んだら勇者として完全に戦犯だな……)

 と心の中で笑いながら、

「だがしかし!俺は食べるのだ!」

 ハンス達が凝視する中、俺はサンドイッチをパクリ。

「……うまーい!!」

 口の中でビックバンのような味の爆発が発生した。

「猪肉を塩漬けして乾燥するまで干し、もはや「生ハム」といってもいいしょっぱい干し肉……本来ならスープにするか水で洗ってから料理に使うが、このサンドイッチの干し肉はそのまま使用されており輪切りにしたトマトとレタスによって干し肉の塩気をマイルドにする工夫がなされている」

 俺はもう一度サンドイッチをパクリ。

「しかし!それだけでも確かに普通にうまいが、このサンドイッチは、さらに2手間かけることで普通に美味しいサンドイッチから至高のサンドイッチへと昇華されている」

 水で喉を潤しサンドイッチをパクリ……俺の力説にサンドイッチを凝視し喉を鳴らすハンスとサン。

「マヨネーズと少しの胡椒ーーマヨネーズに含まれる卵が甘みを、油がジャンキー感をプラスし、最後に少量の胡椒がピリリと刺激をもたらす。甘み、辛味などが合わさり食材達が持つポテンシャルを最大限に引き出している!」

 最後の一口を食し、

「まさに至高!今までに食べたサンドイッチの中でも一、二を争う味だ!」

 サンドイッチの余韻に浸る。

「いただきます!」

「い、いただきます!」

 サンとハンスがサンドイッチを口へと運ぶ。そして俺同様に幸せそうな顔をして食べ終えた。

「なぜ敵の俺がこんなことをするのか?とお前は聞いてきたな」

 そんな俺たちにブギが話しかけてきた。

「それはな」

 白い歯を輝かせ、

「最高の殺し合いをするためだ!!腹が減っていては力が存分に出せないからな!」

 とブギは笑顔を浮かべながら言った。まるで子供が好きな映画を前に心を躍らせるときのような表情だった。

「っ!」

 その笑顔に俺はゾッとした。

「腹が膨れ、疲れも癒えた万全の状態の相手との殺し合いほど面白いものはない!」

 殺し合いは負けた方が命を落とすというのに……それを嬉々として嬉しそうに語るブギーーこれが魔族。強者との戦いを求め他種族へと侵攻した種族。

「さあ!盛大に楽しもう!」

 ブギは拳を構えた。
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